第五話 宰師変翔
神獣を祀る神官の家系に生まれた彼は、幼い頃から学問に秀でていた。その能力は神事よりはむしろ政事に向くと判断した
「
「奴が
「そのようなお方が、今度は島主様を危険と判断されたということですね」
頭から顔まで純白の頭巾に覆われたキムの瑠璃色の瞳に見返されて、上紐恕は声を立てずに笑ってみせた。
島主ともあろう者ならてっきり馬車でも使って真っ直ぐに宮殿を向かうのかと思ったが、
「スイ、あんまりよそ見ばかりしてるとはぐれるわよ」
キムは口元に巻いた頭巾を片手で押さえながら、夢遊病者のようにうろつき回る
「迷子にならない程度なら大目に見てやれ。なんならキム、お前も一緒に見て回っても構わんぞ」
だが
「いずれ宮殿には着く。
そう言えば
「……あまりあからさまな時間稼ぎは、かえって怪しまれるのではないですか?」
キムの言葉を受けた
「さすが、この世界を書き著した天女にはお見通しか。そうだな、もしお咎めを喰らったらそのときには、迷子になった天女の世話役を探して遅くなったとでも言い訳させてもらおう」
そう言うと
***
港に着いたのは朝方だったはずの一行が
厳めしい面構えの衛兵たちが守る宮殿の門でしばし待たされた後、ようやく現れた案内人の後に付き従って歩く宮中は、噂に聞くよりもはるかに広大だ。白い玉石が敷き詰められた中庭を貫くように伸びる参道には、両脇に等間隔に備え付けられた篝火が列を成している。その中央を行く一行の足取りは、いささか重い。
「まさか本当にスイを探すのに時間を取られるとは思わなかったわ」
くるまった頭巾の隙間から覗くキムの瑠璃色の瞳に、少なからぬ疲労の色が見える。その後ろで
「……ごめんなさい」
「嘘から出た誠という奴だな。言霊の力を侮ってたわ」
「お陰で待ちくたびれた宰師殿は、さぞお怒りだろうよ。宰師殿の焦りを誘おうという主君の意を汲んだ
言葉の端々に嫌みを込められて、
身体全体で恐れ入る
「まあ、良い。この程度で焦れてくれるような宰師殿であればこちらも楽なのだが、そう簡単な相手ではなかろうよ。いよいよ王陛下との謁見だ。お前も同席するのだから、せいぜい礼を失せぬよう心懸けよ」
宮中でも最も奥深いところにある王宮に足を踏み入れた一行は、ついに
天井の高い、巨大な一室の手前から奥に向かって伸びる、金毛に縁取られた鮮やかな深紅の絨毯の中央に
絨毯が伸びる突き当たり、数段上がった床上に設けられた背凭れの高い椅子に腰掛けるのが
だがこの場で彼が口を開く必要はない。彼の一段下に立つ、真っ直ぐに背筋を伸ばした小柄な男が、
「
面を伏せたままの
「
その声はしんと静まりかえった広間によく響き渡り、だが氷を呑み込んだかのように冷ややかで、端から妥協を許さないという意志が込められていた。王の側に侍る
「そなたが今朝方にはもう川港に到着していたことは、港湾頭から既に聞き及んでおる。宮殿に参上するまで何故これほどの時間を要したか」
冷ややかな口調で遅刻を咎められて、震え上がったのは
「我らのような田舎者には、この
「そなたは過去にも参上しているだろうに、道に迷ったと申すか」
「その際の案内役を同伴させることがかなわず、このような不始末と相成りました。なにしろ近年、
釈明するようでいて、さりげなく
「さほどに懐具合が厳しいという割に、
いよいよ喚問の本題に、
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