第二話 瑠璃色の瞳
「これ、本当に人なの?」
それはおそらく、彼女の周りに居並ぶ船員たちの内心を代弁したものであったろう。
目を閉じたまま甲板に横たえられたその人物は、おそらくは妙齢の婦人なのだろうと推測出来る。「おそらく」と言うしかないのは、彼女の見た目が
海運業者の娘である
だが目の前の女性は、これまで目にしたどんな人種にも当てはまらない。
目がひとつしかないとか、足が三本あるとか言うわけではない。両の瞼をつむっているから断言は出来ないが、顔立ちはむしろ整っている方だろう。背丈は
だが
背中までありそうな長い髪、その一本一本がどれもこれも見事な黄金色なのだ。海水から引き上げられたばかりのせいだろう、水分に浸された髪は陽の光を照り返して、その輝きは目に眩いばかり。こんな色をした髪があるとは想像したこともない。
彼女のような容姿の持ち主を、
「さて、こいつは伝えに聞く『天女』様って奴か。それとも
金髪の女性の傍らで膝をつき、彼女の様子を診ていた
「とりあえず息はあるようですが、どうします?」
すると
「生きているなら十分だ。といってもこんな別嬪を、うちの野郎どもに世話させるわけにもいかん」
「ということは」
「お誂え向きに、この船には女がいるじゃねえか」
そう言うと
「無駄飯食ってばかりのお前にはちょうどいいだろう。
金髪の女性が運び込まれたのは、船尾にある居住区画の一室である。密航が早々にばれた
「それにしても何者なのかしらねえ、この
床に敷いた布の上に寝かされたまま、未だ目を覚まさない女性の顔を、
金色の髪にも驚かされたが、改めて見るとその肌の白さが際立っている。そして彫りの深い顔立ち。額が前に迫り出して、そのために鼻の付け根も高い。己の顔と見比べても、随分と凹凸が激しい。
「見れば見るほど、見たことない顔立ちだなあ」
そう呟きながら女性の顔や髪を乾いた布で拭く。そして濡れた服を着替えさせようとして、
見たところ女性の
これはいったいどうやって脱ぎ着するのだろう?
疑問に思った
女性の口から呻くような声が漏れ聞こえた。
はっと顔を見返すと、女性は眉――それさえも金色だ――の間にわずかな皺を寄せて、苦悶するような表情を浮かべている。頭をゆっくりと左右に振り、薄い唇を何度かぱくぱくと開いて、ついに女性の瞼がうっすらと持ち上がった。
そして
二重の瞼の下から覗く、女性の瞳の色は、青い。それもどこまでいっても奥底の見えない、広大な海原を思わせるような深い瑠璃色であった。
焦点の合わない女性の瞳はしばらく室内をぼんやりと彷徨っていたが、やがて彼女を覗き込む
「あっ、気がついた?」
「……誰? ここは、どこ?」
女性の唇からおずおずと吐き出された言葉にも、両の碧眼にも不安の色がよぎる。
「私は
「……船?」
まだ状況を把握出来ないのだろう。彼女は混乱した表情を浮かべたまま、おもむろに上体を起こした。痛がったりする様子がないところを見ると、どうやら身体は無事らしい。
「あなた、空から降ってきたのよ。で、派手に海に落っこちたところを、私の船が助けたってわけ」
「空から……」
「そうよ、私、なんで……生きてる?」
「生きてるわ。その調子だと、どこも大した怪我もないみたいね」
そして
「あんな派手に落っこちておいて、不思議だとは思うけど。それを言うなら、何もない空から落っこちて来たところからして信じられないし」
冗談めかした
「少しは緊張が解けたみたいね」
「ありがとう。ええと、スイっていったかしら?」
彼女が
「そう。
「名前? ああ、そうね、名前。私の……私の名前は、キンバリー。そう、確か、キンバリー・ホープ」
「……きんば、何?」
彼女の名乗りがはっきりと聞き取れなくて、
すると少女の戸惑いを察したらしい彼女は、今度は口元だけではない、大きな瑠璃色の目を心持ち細めながら、改めて己の名前を口にした。
「キムでいいわ、スイ。助けてくれてありがとう」
それが
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