第15話 コンビニにて その1
コンビニの中に入ると、齋藤さんが、入り口のそばにおいてあるカゴをひとつ手に取った。
「えっとじゃあ、まずは山本さんから」
「えっ?」
齋藤さんの言葉に思わず問い返してしまった。
すると彼が気さくに話しかけてくれる。
「買い物に付き合う約束ですから、まずは山本さんの欲しい物をカゴに入れましょ」
「あっ、そういうことね、えっと私は、び――」
『便箋』の「び」と口走ってハッとする。
し、しまった……。コンビニで何を買うか、考えてなかった。齋藤さんと一緒にコンビニへ行く事になるなんて思ってなかったから……。便箋の代わりに何を買う? って、すぐ思い浮かばない、ど、どうしよう!
「山本さん?」
ビクッ!?
私の両肩が軽く跳ねる。齋藤さんに視線を向けると、何だか不思議そうな顔付きだった。
や、やばい。とりあえず時間を稼がないと。
「えっと私のは、後で……」
「え?」
「その、先に齋藤さんの買う物からで良いよ」
「それは何だか悪い気が――」
「い、良いの! その……、え、選ばなきゃいけないから!」
「選ぶ?」
「そ、そう! 私が買う物は選ばなきゃいけなくて! ちょっと時間かかるから……」
嘘は言ってない。だって、今から何を買うか決めなきゃいけないから。
すると、齋藤さんは何だか納得してくれたみたいだった。微笑みながら、「りょうかいです」と小声で私に返した後、
「じゃあ、僕先に買う物を取ってきますね」
「う、うん」
齋藤さんは、コンビニ店内へ進んでいく。
私はひとまず胸をなでおろした。しかし、何を買うべきか、すぐに思考をめぐらす。そう時間はない。
まずはスナック菓子が並んでいる陳列棚へ。ポテチやチョコレートなどに目を向け、何でも良いか、と思い手を伸ばすも、途中で手が止まる。
わざわざ、夜遅くに出かけて買う物がこれって……ちょっと、どうなの。
私は別の商品棚に向かう。
齋藤さんに見られても変に思われない物をできれば買いたい。そしてあわよくば女性らしいといいますか、女の子らしいものを……、ってそんなの何買えばいいの!?
私は1人でプチパニック状態だった。とりあえず、色んな商品に目を向ける。
あっ。
気になる物を見つけた。
シュークリームやプリン、チーズケーキ、ティラミス、いわゆるコンビニスイーツである。
わあ~! プリン美味しそう~!
ふわふわのホイップクリームがトッピングしてあるプリンの容器から、ただならぬ甘~い妖気が。
甘さを想像する。やばい、これ口に入れたらすごく幸せ味だ。食べなくても分かる。でも、食べたい……。
足取り軽くならぬ、伸ばす手軽やかだった。
スーッと、伸びる手を、ガシッ!
もう片方の手で、力強く食い止めた。
あっ、危ない! もう少しで魔が差すとこだった!! ダメだよこんなの! 食べた後の後悔はすっごいからっ!!
そう自分に強く言い聞かせ、コンビニスイーツの場から離れる。
とりあえず、飲み物が並んでいる所へ。
まったく買う物が決まらない。
目の前のジュース類を見つめる。変に気が焦り、喉が渇いてきた。
もう、ジュースで……、いやいやいや、それもわざわざ夜遅くに買いたくなるものじゃないでしょ。
なんだか疲れが見え始めた時だった。
ドクン。
鼓動が大きくなる。
ジュース類が陳列されている大きな冷蔵庫のガラスに、齋藤さんの後ろ姿が見えたのだ。
私は、慌てて後ろを振り返る。齋藤さんの持っているカゴには、お弁当が入っていた。これはもう買う物を決めちゃって、今私を探しているのでは。
あっ!
齋藤さんがこっちを振り返った。
私は気付かない振りをして、慌てて今の場から離れる。
ど、どうしよう!? 私、一体何を買えば―
「山本さん!」
齋藤さんの少し張りのある声に、呼び止められた。私は、ぴたりと歩みを止める。
ぎこちなく後ろを振り返ると、彼が気さくな笑みを浮かべ、こちらに歩み寄ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます