同居人

激神

同居人

 俺の住んでいるマンションには同居人がいる、俗にいうルームシェアというやつだ。

 その同居人の部屋は玄関を開けてすぐのところ、距離にして5mもないだろう。

 しかし俺はその同居人と会ったことが無い。

 田舎暮らしが嫌になった俺は都会にあこがれを抱き上京してきた。

 しかし田舎でコンビニのバイトぐらいしかしていなかった俺には貯金が僅かばかりしかなかった。

 都会に行けばアルバイトでもそれなりのお金がもらえることは分かっていたため何とかなるだろうと思い今まで働いていたバイト先を辞めてしまったのだ。

 引っ越し先を探すためインターネットを使って物件を探したがそこで自分の無計画さに絶望した。


「一番安くて月8万……」


 PCのモニターで固まった自分を今でも覚えている、もちろんそれよりも安いところはいくつもあった。だがどこも狭く田舎の広い部屋に慣れ親しんだ自分には耐えられそうになかったためその選択肢は排除していたのだ。


「2LDKで月3万!?」


 訳アリ物件だろうか? そう訝しんだが有名な不動産会社のページの片隅に載っているためそこまで深くは考えなかった。


「なになに……ルームシェアにての特別価格か」


 間取りも申し分ないし駅やコンビニからも徒歩五分と好条件だ、すぐさま問い合わせの電話をいれ不動産業者と二つ返事で契約をした。

 物件の立ち合いの時に同居人とは折り合いがつかず会うことはできなかったが、先方は二つ返事でOKをもらったということだった。

 それから引っ越して三か月たつが、いまだにその同居人には会えていない、表札もないし契約の時の名前も浮ついた気持だったためあまり記憶に残っていなかった。


「ただいまー、おかえりー」


 深夜に差し掛かろうとした時刻、バイトから帰って玄関で靴を脱いだ、そこには同居人のスニーカーが玄関に置いてある。

 悪くない趣味だ、あくまで俺の主観でしかない感想だが。

 ということは同居人は在宅か……。

 同居人の部屋の前に行きコンコンと軽くノックをする。


「あのーすいません、よかったら一緒に飯でもどうですか?」


 扉の向こうには人が動く気配、しかし返答はない。

 むりに部屋に入ろうと思えばできるが、人様のまして同居を許可してくださった方のプライバシーは侵害したくない。


「そういうのがお嫌いなひとなのかな?」


 リビングに足を運び眺める、とてもきちんと整頓されていて毎回感心する、とてもきれい好きな同居人なのだろう。

 言い方が悪くなってしまうかもしれないが生活感が無いほどきれいになっているのだ、キッチンもそうだし風呂やトイレだってそうだ。

 もちろん俺だって同居人がいる手前自分の分のかたずけは欠かさずしているし、掃除だってしている。

 夕食を食べ風呂に入り自室へ戻り布団にもぐりこむ。

 明日は朝から近所のコンビニのシフトがあるため早々に寝なくては。

 うつらうつらととしたところで同居人が廊下を歩く気配がキッチンへ向かう。

 夜食でも食べるのだろうと思いながら睡魔が俺自身に襲い掛かる、そのときにコンコンと小さなドアを叩く音がしたような気がしたがそのまま睡魔にのまれていった。

 それなりに忙しい毎日、忙しい仕事をこなし毎日帰宅をする。

 都会の生活にも慣れてきた、生活にも余裕が出てきたしもうそろそろ同居人に挨拶とお礼をしたほうがいいだろうそう思い玄関を開ける。

 同居人の靴がない、今日は出かけているのか。

 仕事の帰りに買った高級肉を冷蔵庫にしまい込むと自室に戻りひと眠りした。

 ガチャリとドアが閉まる音で目が覚めた、時計を見ると深夜の1時。

 ドアが閉まったということは同居人は起きてるのか、そう思った俺はすぐに飛び起きると同居人のへやの扉をノックする。


「すいません、起きていらっしゃいますか?」


 すると部屋の奥から人が近づいてくる気配がする。


「あの、挨拶とお礼も兼ねて高級肉を買ってきたんです、よければ明日にでも一緒に食べませんか?」


 ガチャリ、とドアノブが動き扉が開いた。




 そこには『俺』がいた。

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同居人 激神 @gekikami

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