測量技師の嘆き

夢美瑠瑠

測量技師の嘆き

     


 私は、伊野尾 貴子(いのお・たかこ)といって、女だてらに測量技師なのですが、測量を、「グーグルアース」を利用することで、うちに居ながらにして、全て済ませられる、そういうアプリケーションプログラムを開発できないだろうか?

 そういうことを思いついたのです。

 しばらく頭の中でシミュレーションをしてみて、十分可能だ、と結論しました。

例えば、ある高山やら高い建物やらを三次元的に大きさやらを表現しつつ、実物そのままの写真をあらゆる角度から切り取るようにして詳しく再構成する。

 これはグーグルアースを使えば比較的短時間で可能です。

 多くの画像から数的なデータを全て取得するというプログラムを作れば、もうそれで測量が完成してしまう。細かいデータが必要な場合は、さらに画像をズームアップして、同じシーケンスを繰り返す。

 こういうことは机上で実論として机上の実現が、現代では可能なはずです。

 画像から数値のデータを読み取るという技術であれば、それはコンピューターにはお手の物の分野ですから…

 丁度、国土地理院から、ある小都市のいろいろな地形やら建物、道路その他の測量を依頼されていたので、そういう理論仮説を実際に応用する実験をしてみたのです。なんということでしょう、試験的に作っていたアプリケーションプログラムを使うと、10年前であれば1ヶ月くらいいろいろと手間をかけてやっと出来上がったであろう測量の仕事が、一時間くらいで完成したのです!

 地球上の事象であれば、三次元的にあらゆる角度からの再現が可能だというのが

グーグルアース、ですからこういうことを考え付かなかったのが不思議なくらいで、

同じことはちょっと目端の利く人ならとっくにやっているかもしれない…


 手間やら人件費やらがミニマムになるという、素晴らしい発見ができたなあ、と自画自賛して私は悦に入っていたのです。

 ところが、国土地理院から、「こんなものはダメですよ」と、作成した測量の資料が、突き返されてきました。

 私は訝(いぶか)りました。

「どこに問題があったのだろう…?」

 グーグルアース、はリアルタイムの画像だからタイムラグもないし、それほど厳密に時間的な誤差を問うような作業ではないはずです。

… …


 しかし、私の発想には重大な死角があったのです!

 グーグルアースの衛星画像にも「解像度」による誤差があります。

 それをデータに変換していく過程でも無数の不可避的な誤差が生じる。

 さらに私のパソコン自体にも数値のバイアスが生じることは避けられない…

 そういう厖大な誤差を累計していくと、技術的に元々無理だという、そういう結論が専門家の間ではとっくに出ているそうなのです…


 あんまり美味しい話はなりたたないものですね。えへっ?



<終>

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