それでも俺は今
ファルグニールの放った火弾の群れはその全てを合わせたかのような火炎放射で返され、その巨体を焼こうと襲い掛かる。
自分の……魔王たる「火艶のファルグニール」の、それもこの身体と力を解放した上での攻撃が効かない。跳ね返される。
何故こんな事が。有り得ない。有り得ない。その思考は、自然とファルグニールの口をついて出る。
―馬鹿な! 馬鹿な、こんな……私が、こんな……有り得ない……!―
「……当然の事ですよ」
レイアは、小さく呟く。
「虹カードは、世界の行使する無限の力そのもの。その輝きの前に、有り得ない事など存在しません」
だからこそ、あれ程までに【カードホルダー】には厳しい試練が課される。その過程で死んだとしても仕方がないとされるほどに。神の愛ですらそれを救わぬほどに。
そうでなければ【カードホルダー】の力を託すことなど出来ないからだ。
そして、そうしてまで【カードホルダー】の力を地上へと送り出すのは。
「……ファルグニール。貴方は世界の敵です。だからこそ、此処で敗れるんです」
世界の敵。あらゆる生命の敵。そうした者が現れる時、【カードホルダー】もまた秘されし希望として……輝ける希望たる【勇者】とは別の隠し札として現れる。
たとえ、そのほとんどが目覚める前に消えるとしても、それを許容せねばならぬほどの力を、その身に宿して。
―ふ、ふざけるなああああ! 私は死なない! 貴様等を殺し、私はああああ!―
「いいや……終わりだ」
ヴォードの手の中で、一枚の虹カードが輝く。
「世界を侵せ……【火点かぬ世界】」
虹カードが光と変わり、広がっていく。それはファルグニールの居た場所をも通り過ぎ、その瞬間、ファルグニールの放とうとしていた炎が消え去る。
いや、それだけではない。ファルグニールの身体そのものが色褪せ始めていた。
―これは……これはまさか! 私の力が消えている!? 馬鹿な、何故! 何をした!―
「簡単な話だ」
そう、実に簡単な話だ。それはヴォードの使用したカードの効果。
・【虹】火点かぬ世界……5分の間、効果範囲から【火】の力が消え去る。此処に一切の例外はなく、消えた力は戻る事が無い。
「今この場から、火の力は全て消え去った……お前が火の邪精霊が元になっているのであれば、きっとその力も消え去るのだろう」
―う、おおおおおお……なんだ、それは……そんなズルのような力! そんなものがあってたまるか……!―
ファルグニールは炎を生み出そうとして、しかし出来ない。
この場には5分の限定とはいえ、火の力は存在しない。存在しないものを出せるはずがない。ファルグニールの巨体から、火の力を示す赤色が消え、冷めた溶岩のようにひび割れていく。
そう、簡単な理屈だ。火から産まれし精霊が火を失えばどうなるか。その形を超えし魔王であるからこそ消えていないだけで、ファルグニールの命は確実に、そして急速に蝕まれていた。
だからこそ……ファルグニールは思う。
―貴様は……危険だ。貴様のようなモノは、この世界にあってはならない!―
「お前に言われたくはない。俺はお前のように世界をどうにかしようとは思わないからな」
―戯言を……! そんな力を持って、貴様は何処を目指す!―
叫びながら、ファルグニールはヴォードへ向けて進む。
火の力が消え去ろうと、魔王としての力はその身にある。ならばそれをもって、この巨体でもってヴォードを押し潰す。
そう決めて、ファルグニールは山を削りながら進んで。
「俺か? 俺の目指す場所は……レイアの、隣だ」
―……は?―
その足が、止まる。何を言っているか、理解できなかったからだ。
「この力は世界からの借り物で、俺自身は未だ何も持ってはいない」
ヴォードは知っている。自分は所詮【カードホルダー】……カードを保持するものでしかない。カードの力は、ヴォードのものではない。
だが、それでも。それでもこの力が今、自分の手の中にあるのならば。
「だが……それでも俺は今、カードを託されている。ならば、それを使ってでも俺は、彼女の隣に立つに相応しい人間になりたい」
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