ああ……本当だ
山道を登り、登って……けれど、ドラゴンはおろかモンスターの一匹にすら出会う事はない。
元気にひょいひょいと山道を進むイヴェイラは全く疲れた様子もなく、一方のヴォードはかなり疲労してしまっている。
やがて山の中腹の広場らしき場所に辿り着いた時には、レイアに引っ張られてなお、ヴォードは疲労がピークに近くなってきていた。
「どうしたんだい、ヴォード? 疲れてるみたいだね?」
「ああ、流石にこの山道はな……」
「そっか。補正の問題かな。身体はかなり出来てるみたいだし」
納得したように頷くイヴェイラに、ヴォードは小さく溜息をつく。
そう、その通りだ。どれだけ鍛えても補正がないなら効果は限定的だ。
それを改めて知らされるような現状だが……こればっかりはどうしようもない。
「不思議だね。【カードホルダー】は役立たずだって言われてるけど……貴方はその通りであるようにも、そうではないようにも見える」
「俺のことなんて、今はどうだっていいだろう」
「そうだね。でも仲間の事を知っておきたいって気持ちも当然あるよ」
「仲間、か……」
「嫌かい?」
「そうは言わないさ」
【勇者】たる者にそう言ってもらえるのは、光栄ではある。
「そう? ならよかった」
そう言って、イヴェイラはヴォードに笑いかける。
それは、とても純粋さに満ちた笑みで……眩くすらあるものだった。
「僕は、もっとヴォードの事……知りたいって思うよ。ヴォードは?」
「俺か?」
「うん。この冒険が終わったら……僕達、もっと仲良くできると思うんだ」
「仲良く……か」
それと似た言葉を、ヴォードは数日前に聞いたことがあった。
ニルファ。彼女がこの先に囚われているというのなら……はたして、無事なのだろうか。
正直怪しくてあまり関わりたくない相手ではあったが……だからといって心配ではないというわけではない。
(せめて、無事かどうか分かればいいんだが……)
彼女もヴォードの能力に興味を持っていた。まあ、ヴォードのカードを見れば興味を持つのも当然と言えたが……。
「……ん?」
そこまで考えて、ヴォードはふと違和感に気付く。そういえばあの時、彼女は何故。
それに気付いた瞬間、ヴォードは先行するレイアの腕を引っ張る。
「ヴォード様?」
「ちょっと試したいことがある。俺の後ろに」
そう言うと、ヴォードは一枚のカードを取り出し小声で発動する。そうしてカードは消え……その効果は静かに発動する。
「今のカードは何だい、ヴォード?」
「ちょっとした警戒のカードだ。何があってもいいようにな」
「そっか。そういうのは大事だね」
言いながら、イヴェイラは再び前を向いて歩きだす。
【ところで、俺もお前に興味がある】
「ええ、本当かい!?」
その言葉に振り返ると、ヴォードは至極真面目な表情のまま……口を動かさずにイヴェイラへと語りかける。
【ああ……本当だイヴェイラ。いや……ニルファ】
「!? これは……いや、違う! まさか……念話!? こんな違和感のない精度で!?」
「ああ、その通りだ」
言いながら、ヴォードはイヴェイラを睨みつける。同時に木人がイヴェイラへと接近し、鞭を振るい……しかし、イヴェイラはジャンプして回避し、そのまま離れるように着地する。
そのまま警戒するように鞭を構える木人を通り抜けるようにイヴェイラはヴォードを見つめ……目元を手で覆う。
「驚いたな……でも、ヴォード。僕がニルファだなんて、どうしてそんな事を?」
「カード【念話】は、俺が出会った事のある任意の人物と念話をすることが出来る」
そう、それがカード【念話】の能力。
・【白】念話……このカードは使用者が知る【対象1人】との念話を最大10分の間可能にする。なお、この効果は一方通行である。
「そして俺は『ニルファ』に念話を繋げた。それに返事をしたな、イヴェイラ。なら……お前はニルファなんだろう。姿が全く違うのは何かのスキルなのか?」
そう、人間は勘違いしてもスキルは勘違いはしない。【念話】は、絶対に対象を間違えない。だからこそ、目の前のイヴェイラがニルファであるとヴォードは確信できる。
そして……イヴェイラは、ヴォードの追及を受けて無言。いや、違う。小さな、漏れ出るような笑いが少しずつ溢れてきていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます