今すぐどうにか出来そうにはない
辿り着いた場所は、不気味に静まり返った宿屋通り。まるで誰も居ないかのようなその場所に、ヴォードは不穏を感じ周囲を見回す。
「誰もいない、のか?」
「逃げ出したんだろうね。此処で僕達が戦っていたから……」
言いながら、イヴェイラは地面を足で叩く。盛大に焦げた跡のある土は、この場で使われた火魔法の痕跡だろうか。分からないが……ヴォードは周囲を見回す。そして……自分に突き刺さる無数の視線を感じた。
「見られているな」
「うん。これは……来る!」
イヴェイラが剣を引き抜き叫ぶと同時に、周囲の建物から武器を構えた様々な人間が飛び出してくる。
それは身なりのよさそうな男やごろつきっぽい連中から、如何にも普通の人間っぽい者まで様々で……武器も剣だけではなく包丁やただの棒まで様々だった。
「な、なんだ!?」
「これは……! 恐らくは何らかの操作系の魔法です!」
「無関係の人間ってことか!」
「油断するなヴォード!」
イヴェイラの剣が斧を持って襲い掛かってきた男を切り裂き、振りぬかれた棒を弾き女を蹴りで吹き飛ばす。
「たとえ操られているとしても、今はやるしかないんだ!」
「……ああ、その通りだ!」
ヴォード自身は然程強くはない。殺そうとしてくる相手に手加減して勝てるほど、甘いものでない事は分かっている。
とはいえ、同じ人間……それも一般人にも見える者を殺すような度胸は今のヴォードにはない。【ファイアボルト】などのカードを使うのは、当然のように躊躇われた。
(殺さない程度に倒す……それには……!)
「来い……【木人召喚】!」
「KIKIKIKI!」
カードが消え現れたのは、鞭らしきものを持った成人男性ほどの大きさの木製の人型。
のっぺりした頭には顔は無いが、それでも戦意らしきものはハッキリと分かる。
「木人! 殺さない程度に無力化を!」
「KI!」
木人は答えるかのように叫び、鞭を振るう。その一振りで1人が悶絶し、続く一振りで敵の持っていた武器が奪われ宙を舞い、次の瞬間にはその男が鞭で縛られコマか何かのように大回転させられ倒れる。
「くそっ……なんだこのモンスターは!」
「囲め、囲んでやっちまえ!」
「KIIIIII!」
「ぐあああああああ!」
囲み一斉に襲い掛かった者達が、回転しながら繰り出された鞭に一斉に弾き飛ばされる。尋常ではない鞭使いに恐れた者達が次に狙ったのは、当然……。
「こ、こうなりゃ召喚士を狙え!」
「俺は召喚士じゃないんだが……」
「うるせえ、死ねぐはあ!」
「いや、普通にやらせませんよ?」
襲ってきた男を吹き飛ばしたのは、ミスリルの剣を構えたレイア。熟練の戦士の如き体術に、襲撃者達は慌てたように周囲を見回す。そこでは、他の襲撃者達を次々に倒しているイヴェイラの姿があり……男達はやけになったかのように斧を構えヴォード達へと突っ込んでくる。
「うおおおおおおおおお! 死ねえええええ!」
「断る! 吹け、【阻む暴風】!」
「う、うわああああああああ!」
ヴォードの取り出したカードが凄まじい暴風に変わり、襲撃者達を弾き飛ばす。
そして、倒れたその先には……剣を担ぎ、笑顔を浮かべるイヴェイラの姿。
「やっほー。残るは貴方達だけだね」
「ぐほあっ!」
イヴェイラのスタンピングで男が気絶し、残りの襲撃者達はすでに【阻む暴風】で気絶していた。
「やるじゃん、ヴォード! そのウッドゴーレムも強そうだ」
「ああ、頼りになる」
キメポーズなどをしている木人を見ながら、ヴォードはイヴェイラに答えるが……同時に、気になることもあった。
「だが……こいつら、自分で判断して戦っていたように見えた」
「そうだね。操られているようには見えなかったかな」
ヴォードにイヴェイラも頷き、倒れた人々を見下ろす。そう、操られているにしては自己判断が多かった。それはつまり、自分の意思があったという証拠に他ならない。
「となると、魅了の魔法だと思われます。かなり厄介ですよ。強度にもよりますけど、気絶させたくらいでは治りませんから」
「魅了の魔法か……どうすればいいんだ、レイア」
「簡単なのは術者をどうにかすることですね。事実、魅了の魔法の術者を倒して効果を解除した……という例も多くあります」
「今すぐどうにか出来そうにはない、ということか」
ならば、それはそれで仕方がない。そして問題はその先にも存在する。
そう、ニルファを含む捕まってしまった人達だ。そして何より、グラニ商会の者と思われる人間がこの中に居そうにないのもヴォードは気になっていた。
「それより、捕まった人たちを探さないとね」
「ていうか、【勇者】を倒す程の魔法の使い手も出てきていませんよ」
「ああ、それも気になる。イヴェイラ、この中にそいつは居るのか?」
「いや、居ないね……隠れて不意打ちする気かもしれない。探してみよう」
「そうだな」
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