30.移民船再調査-1
いよいよシュンに具体的な危機が迫る段階に来ていた。
と言っても、泳がせていた部分も否めない。本人に謝りたいところだ。
「人類救済同盟」と「ディジェネラシー」。
いまだ、不透明な部分が多く、断言ができないが……。
人類救済同盟については、以前から存在は知られていた。
貧富を問わず一部の地球人たちがこの秘密結社に集まっているらしい、という話は、特にIRGが内密に留めて置くような内容ではない。
胡散臭い宗教グループの噂は街で立ち聞きさえできそうなくらい広まっていた。
背景には、彼らにかなりの経済格差があることが関係していると思う。
弱った個人にとって、閉塞した社会にはリセットの可能性が。平坦な孤独には口当たりのいい信念が必要なものだ。
それが科学的に正しいものである必要も、また、極論を言えば、ない。
つまり、我々は警戒こそすれ、人類救済同盟のことを「よくある陰謀論者グループ」だとみなしてきた。
それがシュンへのアプローチを仕掛けて来たとなると、正体が何にせよ、認識を改める必要が出てきた……というわけだ。
そもそも我々IRGは、いや、もっと上層の組織さえも、人類の技術レベルと移住目的などがほとんど共有されていない状態だ。
ゼーラールのネイティブと地球人は、表面の友好的さとは裏腹に、腹を割って付き合っているとは言いがたい関係だし、それもまた仕方がないように思われる。
「ディジェネラシー」に関してはさらに情報不足だった。何か災害のような事象なのだろうが……。
わずかに含まれた宗教的なニュアンスに、どこか苦い気持ちになる。
動くのが遅すぎたか、早すぎたか。
俺の立場からは判断できかねた。
決まったのは、あの(おそらくはわざと)地下洞に突っ込んでいた移民船の再調査に行かねばならないという事だけだ。
それは、場合によっては地球人類にとっては知られたくない秘密を詮索する事にも繋がっていた。
故に、今回の編成からは地球人が丁寧に取り除かれてしまっていた。
まぁ、垂直方向に移動しなければならない距離が長すぎるので、現実的ではないと判断されたのもあるが。
バックアップにも誰一人地球人がいないのは、やりすぎだと言いたくなる。
それにしても、後から揉め事どころじゃない事態にならないだろうか?
今回は、この懸念は誰にも言うつもりはないが。
「ひさびさにこいつの出番だな」
アシスト機のアームと、自身との噛み合いを確かめた。冗談のようなイメージが沸いた。こいつはジェットコースターの安全バーだ。背が伸びていてよかったな。
全員分の機体があるわけではなかったが、効率よくメンバーと物品の回収を繰り返すことはできるはずだ。
前回の仕事のおかげで、洞窟から地底湖まで通信が確立されているし、そこは悪い条件じゃなさそうだ。
問題は、また別個体のデスゲーターと鉢合わせる可能性だった。
当然ながら、俺も何度も単身で対決なんかしたくない。
そのため、調査メンバーと護衛という人員の組み合わせになるが、それはそれで安心とは言い難かった。
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