うんこまん星人ダブルゼータ
家鳴り
Prologue
その喫茶店の隅の方の席には気まずい空気が流れていた。
「…あのさ」
向かい合って座る男女。その男のほうがため息交じりに女へと切り出す。
だが、それを女が抑制した。
「やめてよ。聞きたくない」
男は肩を竦めて煙草を取り出した。
-沈黙。
*
「昨日のニュース見た!?」
「見た見た!ついに、って感じだよね!」
賑わう駅前の通りは人の声で埋め尽くされていた。
だが、どこからも同じような話が聞こえてくる。
「昨日の報道やばかったよね」
「Twitterでもトレンドになってたじゃんね!」
「ほんとなのかな?めっちゃ怖いんだけど…」
「でもメディアが取り立ててるってことはマジなんじゃない?」
人が行き交う中、ビルに設置された大型モニターではニュースキャスターがテロップの奥側で険しい顔をして原稿を読み上げていた。
「本日16時、先日から続く変死事件が200件を超えたと警視庁が発表しました。一連の事件の共通点としてSNSにて謎の人物とやりとりをしていたことが挙げられ、”うんこまん星人ダブルゼータ”と名乗る人物と連絡をとっていたことから、この人物が事件に深く関与していると-…」
*
「で、進捗は?」
夕暮れに照らされる建物の裏側にある喫煙所にて、男は煙草の煙を吐き出しながら目の前の男へと問いかけた。
「それがSNSを利用しているということしか…」
問いかけられた男が気まずそうな顔をしながらボソボソと答える。
「なぁ?」
煙草をふかしていた男は目元を擦りながら、怒りを抑えたような調子で静かに呼びかける。
「今日日、SNSを利用しているというのに足取りがつかめねぇってのはどういうことなんだよ大山?」
大山と呼ばれた男は目をそらして頭をポリポリと掻く。
「開示請求は通ってますし、現に特定先の情報は何度も送られているんですが、その度に位置情報がまちまちで…」
「その話も何度も聞かされてんだよ、その後の進捗を聞いてんだ」
男は煙を大きく吐き出しながら大山に詰め寄る。
大山は肩を竦めてため息をついた。
*
「おい、高橋!速報見たか!?」
放課後、夕暮れ時の教室の扉が勢いよく開くと、机に向かう少女に向かって少年が駆け寄り、少女の目の前の机に行儀悪く腰掛けた。
「うるさ!何、突然…」
高橋と呼ばれた少女は目の前の少年に怪訝そうな眼差しを向ける。
「相変わらずうるさいな瀬野は…変死が200件越えたやつだろ?」
少女の斜め向かいに腰掛けていた少年は気だるそうな声をして、息巻く少年に答えを返した。
「そうそう!…って、なんだ岸田は知ってたのかよ…」
瀬野と呼ばれた少年は肩透かしを食らった様子で岸田から視線をそらす。
「え、200件…?」
高橋は初耳だった様子で、瀬野の言葉に目を見開いた。無理もない。先日から続く一連の変死事件は日を追うごとに驚くべき勢いで数を増しており、昨日の段階では100件を越えるか否かという状態であったのだ。
「報道されてるだけで200件だぜ?絶対公表されてない死人もいるよな!うわーTwitter退会したほうがいいかもなー」
瀬野が少し意地悪な笑みを浮かべて高橋と岸田に笑いかけると岸田はそれを小馬鹿にするように笑った。
「Twitterは国内だけで4500万人が利用してんだぞ?そうそう抽選来ないだろ。そもそも、DMやリプライが来るだけで死ぬわけないし、そもそも死因だって変死って、Twitterが原因とは限らないじゃん」
嘲笑するような岸田の返答に瀬野は大げさに肩を落とす。
「大事件かもしれないっつーのに…ノリわりぃなァ…」
やりとりをする二人に対して高橋は、でも、と不安げに切り出した。
「ちょっと怖いよね。Twitterなんて私達もやってるわけだし…もし本当にうんこまん星人ダブルゼータからDM来ちゃったらどうしよう…」
高橋の言葉で教室が静寂に包まれる。
不意に高橋のスマートフォンが机の上でバイブ音を響き渡らせた。
誰もが鳩が豆鉄砲を食ったようにスマートフォンへと目を向ける。高橋は怯えた表情を見せながらも、少し戸惑いながらスマートフォンへ手を伸ばす。瀬野と岸田は息を呑みそれを見守る。
スマートフォンの画面には通知が表示されいた。
クラスメイトの柳生からだ。
高橋はすぐに緊張の糸が解けて肩をなでおろした。
「柳生からLINE来てる…びっくりしたー!」
それを聞いて二人もようやく落ち着いた表情を見せてうなだれる。
「タイミング良すぎだろー!」
叫ぶ瀬野を横目に岸田が高橋に尋ねる。
「柳生はなんて?」
「居残り補習終わったから一緒に帰ろだって、校門で待ってるみたい」
「校門?柳生がうんこまん星人ダブルゼータなんじゃねえか!?」
瀬野のどうでもいい推理は教室に虚しく散っていった。
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