ザザとわくわく大迷宮~魔法少女と遊園地~
桜川 ゆうか
第1章 わくわくランド
「……バッテリー」
「り……リフト!」
季節外れのスキー場を思い浮かべながら、切り抜ける。
ワゴン車の
梅雨のさ中、たまたま晴れた貴重な土曜日だ。
「と……トロイの木馬」
「何、それ?」
「コンピュータ・ウイルスの一種だよ。何もしないよってフリして入ってきて、悪さをするんだ」
「ば、ね?」
「ば」
4年生の弟、毅と私は1
だから、パソコンとかゲームの話題になると、私はしょっちゅう、毅に言葉の意味を
毅には、まだしりとりがおもしろいらしい。新しく覚えたパソコン用語や、アニメや
「ん、あれ? 今、実は答えてた?」
答えてたって、何がだろう。
「ば……」
「ああ、違うのか」
だからなのか、私が
「ほら、2人とも、そろそろ着くよ」
お母さんが声をかけてくる。私は
その先はまた小さなお店。あとは木とか葉っぱばかりだ。遠くにはうっすらと青く山が見えている。
っと、いけない。早く「ば」を答えないと。また毅に
「ばんそうこう」
「う……ウェブブラウザ」
「何、それ?」
「え、知らないの?」
そんなこと言われても。
「ネットで何か
「あるけど」
「あのソフト」
「クロームとかじゃなくて?」
「クロームは、そのひとつだよ」
「ふーん」
よく知らない。そのウェブブラウザがいくつあるのかも、わからない。
「……ざ、だよ?」
「ざ……ザリガニ」
毅が答えたあたりから、大きな
車はゆっくりと、
「マーサ、そろそろ
「はあい」
私はいったん、左手で髪を
お母さんは私のことをマーサと呼ぶのが好きだ。本名は
「外国の男の人たちにも、名前を覚えてもらえたほうがいいでしょ?」
お母さんはそう言うけど、それはお母さんの
お母さんが好きなテレビ番組に、ヨーロッパとかを旅行する番組があって、そこに出てくる景色とか建物とかをぼんやり
「人魚」
小さい「よ」が来たときは、その前の文字を採用するのが、私たち2人のルールだ。前に違うルールでやったとき、や、ゆ、よ、で始まる単語が増えてしまい、毅がせっかく覚えた単語を言えない、と文句を言ったからだ。
「ぎ……」
駐車場に車が停まったので、私はナップザックを背負った。遊園地で荷物を落としたくないから、ハンドバッグにはしなかった。
「入口を見る限り、代わり
いくつかのチケット売り場が並んでいて、窓口には人がいて、
上の部分には、ゲルで書いたような、ポップなカラフル文字で「わくわくランド」と書いてあり、その周辺に大きなイラストが描かれている。緑色のワンピースと
「お姉ちゃん、ぎ、だよ」
「ええと……」
入口の
「ギンガムチェック」
「何、それ?」
今度は毅が訊く番だった。
「チェック模様はわかるでしょ? たとえば赤と白のチェックだとすると、赤が重なってる部分だけが色が
「そっか」
駐車場をゆっくりと抜け、お母さんがチケットを買う間、私たちはもう列に並んでしまう。首から
「失くさないでね」
「うん」
ちょうどいい時間に着いたらしい。ちょうど開園になるところだった。
「あ、もう入れるみたい」
新しい遊園地。乗れないほど
銀色のバーを押すと、
朝早く来たせいか、まだそんなに、人は多くない。お父さんが
「今はここ。エントランス。遊園地全体は6つのエリアに分かれていて、今いるのがエントランス・エリア。目の前のそれは、アスレチックだな。右のほうにお化け
お父さんがエリア内のアトラクションの名前を読み上げる間、私は周りを見回していた。足元の地面は青いアスファルトで
「とりあえず、あれやりたい」
毅は目の前のアスレチックが気になるらしい。お父さんは地図を閉じると、下にもう1枚持っていた分を私に渡す。
「迷子になるなよ」
こういう広い場所では、よく迷子になる毅は、1人にならない約束になっている。お父さんは毅の手を引いて、アスレチックに近づいた。
「あんたも行って来たら?」
「うん」
お母さんは待っているらしいので、私は先に行く2人を追ってアスレチックの丘に向かった。
お父さんは私の
「代わりに行ってこいや」
アトラクション
まずは丘を登るところから始まった。木の
木の
目の前が開けると、丘の上に立っているのだとわかった。お父さんが言ったアトラクションなんて、ほんの一部でしかなかった。楽しそうなアトラクションが、あちらこちらに広がっている。
くるくると降りる
トロッコは半回転して、滑り台の下に降りる。
「おーい、楽しんだか?」
お父さんはどこかから先回りしたらしい。一緒に来るのかと思ったけれど、お母さんの姿が見えない。
「次は何だ?」
「船」
「お母さんが来てからな」
「じゃあ、あの落ちるやつ」
一本の柱のところから、何人かのグループが乗った箱が
「ええ?」
「よし、じゃあ、お父さんと2人な? 麻亜紗、
「はぁい」
でも、私が呼ぶまでもなかった。お父さんと毅の姿が見えなくなるのとほぼ同時に、左のほうから、私を呼ぶ声が聞こえた。
お母さんは、どこか見て回ってきたらしい。歩いてきた方向を指さす。
「魔法のホウキっていうアトラクションがあるよ。ホウキがいくつも並んでて、それに乗って空を飛ぶアトラクションだって」
その
「毅に教えるのは止めよう」
「お父さんと毅は?」
「ちょうど入れ違った。あそこで落ちてる」
私は例の垂直の棒を指さした。お母さんは一瞬、私の指の先を見て、すぐに私のほうを見た。
「なるほど」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます