終わり
「二人ともっ!怪我は…」
半重力ブースターで崖上まで飛んで戻ると雫さんが慌てて此方に駆け寄ってきました。
「イリス…その、左腕は?」
「左腕の損傷が激しかったので部位を
「ちょっと…それホントに大丈夫なのっ!?」
「問題ありません。イリスはロボットですから。」
「ちょっと待ってて。」
雫さんは徐に服の上着を脱ぎだし上着をイリスの切り離された左腕部分を覆うように隠して右肩に袖を回してしっかりと結び付けてくれました。
「ワタシにはこんなことしかできないけど…昴を助けてくれて…うぐっ…ホントにありがとう…」
「ごめんなさい…うわあああぁぁぁぁんっっっ!」
「二人とも問題は既に解決しました。それよりも、今はやるべきことがある筈ですよ?」
「やるべき事って…ああ…そうだね。その為に来たんだもんね。」
「ほら、昴くんも涙を拭いて。朝日をバックに写真を撮りましょう。」
「うぅ…ぐす…うん…わかったぁ…」
「あんなことがあったのにイリスは全くブレないわね。フフ…なんか笑える。」
涙を拭いながら雫さんが徐に立ち上がった。
「さぁ昴!イリス!ばあちゃんにこの景色を笑って見てもらう為にウチらも笑顔で写真を撮ろう!」
「うぅ…ずずっ!うん!」
昴くんも少しは落ち着いて笑顔が少し戻ってきておりました。
「それではお二人とも朝日をバックに其方に並んでください。」
「イリス…今更何言ってるの?」
「へ?」
雫さんが優しくイリスの右肩に手を回して二人の方へイリスを引き寄せました。
「やるなら「一緒!」って何度も言ってるでしょ。」
雫さんの右手にはポラロイドカメラが握られています。
「「はい、チーズっっっ!」」
そのポラロイドカメラからは目を真っ赤にしながら笑う昴くん、舌を出してイリスに頬擦りする雫さん、そしてイリスの顔が画面いっぱいに写り込んだ写真が現像されました。
「あの…朝日が少ししか映ってませんが…これで良いのでしょうか?」
「良いの良いの!まだまだいっぱい撮るから!ほら、昴は絵も描くんでしょ。その様子もどんどん撮っていくからね!」
「描く描くーっ!でも…お腹すいちゃった…」
「ではここで皆「一緒」に朝食を食べましょうか。」
「イリスも少しは分かってきたようだね。食べよ食べよ!」
それから暫くの間、山頂には三人の笑い声が優しく、心地よく、響き渡っておりました。
◇
「ばーちゃん!」
「まぁっ!二人ともこんな時間にどうしたの!」
山頂からそのまま二人を担いで病院まで移動したイリス達。
「ちょ…昴待って…アタシまだ少し吐き気が…」
「雫さん、大丈夫ですか?ゆっくり口を開けて…」
「んぐっ…イリス、ありがと。」
「雫大丈夫?それにイリスちゃんも確か今日までお休みって聞いていたのだけれど…」
「それはね、イリスが私達をここまで連れてきてくれたんだよ。」
「ねーねー!ばあちゃん寂しくなかった?今まで来れなくてごめんね。」
昴くんは相馬さんの膝元で寝そべりながら楽しそうにおしゃべりしています。
「ほら、雫さんも。」
「あー…うん。なんだか分からないけどちょっと照れるね。」
雫さんもゆっくりと相馬さんに歩み寄っていきます。
「今日はねー、ばあちゃんにプレゼントがあるの!」
「プレゼント?それは楽しみだねぇ。」
「ほらこれ!僕とイリスとお姉ちゃん!」
「あら、良く描けているじゃないっ!でもどうして昴とイリスちゃんが崖にくっついてるの?」
「ハハハ…その構図は多分私達じゃないと書けない構図かな…ほら、これも!」
「あら、これは…山頂の写真かしら?もしかして三人で山登りをしてきたの?」
「そうだよ!今日山登りしてきた!ほら、これ!ボクが絵を描いている写真!」
「今日山登りをしてきたの!?大変だったでしょうに…」
「イリスのおかげでそんなに大変じゃなかったよって…あれ?イリス?」
「あら、イリスちゃんどこ行っちゃったのかしら?」
二人がイリスに声を掛けようと振り返ると其処にイリスの姿はいなかった。
「イリス、何処に行ったのー?」
雫が病室の廊下に駆け出し周りを見渡してみたが誰も居ない。
「多分報告に行ったのかもしれないわ。イリスちゃん、お仕事熱心な子だから。」
「そんな…ちゃんとお礼、言いたかったのに…」
「イリス、どっか行っちゃったの?」
雫の服の袖を強く握りしめる昴。
「帰りに受付に聞いてみると良いわ。私も見かけたらちゃんとお礼を言っておいてあげるから。」
「…うん…わかった。」
一緒にって何度も言ってたのに。イリス、本当にどこ行っちゃったんだろう。
おばあちゃんと山での出来事等色々な話を終えてそろそろ帰ろうかと昴と二人で受付に立ち寄った。
「あのーすいません。イリスは今何処にいますか?」
「相馬さんのお孫さん達ですね。イリスはただいま別の業務を行っております。」
「はぁ!?あんな腕のなくなった状態で!?ちょっとアンタイリスになんて事させてんのよ!」
「腕の修理も含めての業務です。既にイリスは当施設には居りません。」
「そっか…ごめんね。怒鳴っちゃって。」
「おねーちゃん…もうイリスに会えないの?」
「今度はちゃんとお金を貯めてここに来よう。あの馬鹿両親にも直談判すれば何とかなる筈だよ。それよりもどうやって家まで帰ろうか…」
「今回はこちらをお使いください。」
受付から差し出されたのは緑色の一枚のカードだ。イリスの瞳の色と同じだね。
「これは?」
「当日限り有効の全路線無料券です。これがあればどの交通機関でも無料で自宅まで帰ることが可能です。」
「そんな便利なものが…当日限りというのが中々小賢いな。」
「お気をつけてお帰り下さいませ。」
「ねぇ、一つ聞いていい?」
「何でしょうか?」
「貴方達はやっぱりロボットなんだよね。」
受付に立つ職員は見る限りごく普通のイケメンが私達の対応をしていた。
「はい。イリスと同期の介護用心体保全ロボットです。」
「なんだかイリスとは大違いだね。」
「…」
「ほら、昴いくよ!」
「はーい…」
それから私達は夕闇に染まった施設を出て自宅への帰路に着いた。
◇
『介護用心体保全AIプログラム・仮称イリス、当機の運用を完全に停止する。』
「了承しました。」
『罪状はロボット工学三原則 第一条・第二条の重大な違反行為、及び業務禁則事項の度重なる警告無視、その他諸々…おい、これ本当なのか?こんなのが世に知られれば大問題だぞ!?』
『行動履歴を確認する限り全て事実です。幸い怪我人が出ることはありませんでしたが情報隠蔽の為一刻も早くこのロボットを凍結させるべきでしょう。』
『だな。では回収次第、極秘裏に作業を進めてくれ。』
その会話以降、上位プログラムからの通信が完全に途切れてしまいました。
「イリスは今日、最後の日を迎えるのですね。」
杭はありません。
雫さん、昴くんに出会えたから。
二人と「一緒」に居られたから。
相馬さんの心の底からの喜びを感じ取ることが出来たから。
「介護用心体保全AIプログラム・仮称イリス、抵抗せずそのまま床に伏せ頭の上で両手を組め。」
目の前には防護服に身を包み銃を構えた特殊工作員が合計五名。
命令通りにその場で伏せ額を地につけ、両手を頭の後ろに回した。
「これより「介護用心体保全AIプログラム・仮称イリス」の緊急停止作業に入る。」
次第に瞳の光が暗闇へと呑み込まれていった。
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