二人で破滅フラグから逃げましょう。

確門潜竜

第1話 二人の愛を応援しますわ!

「愛しているよ。セイ。」

「私もですわ。アラン様」

 木々に囲まれた小さな人口の池のわきのベンチで、二人の若い男女が手を握りあっていた。魔法の素質のある者は全てが集められているパリア聖王国王立魔法学校の年度末試験が終わった後の恒例の夜のお茶会という名のお祭り騒ぎから、王太子アランと男爵令嬢セイの二人は抜け出し、人目がない、二人のお気に入りの密会の場所で愛を語らっていたのである。王太子という身分はなくても、文武両道、成績優秀、品行方正、スマートで背が高く、甘いマスクの栗毛の髪の美男子で女生徒の人気度高位になることは確実。セイはというと、新興のアート男爵令嬢で身分的には上流の下だが、赤毛の髪の美人、中背でスタイルは抜群、成績優秀、誰にでも優しく、品行方正、努力家、料理も上手く、よく気がつく、とあって男子生徒の人気度は断トツの一番だが、貴族の女生徒からは見下され、庶民出身の女生特待生達からは嫌われ、双方から度々嫌がらせを受けてきたが、その一方で好感を持つ女生徒も多かった。その二人は、もう直ぐ卒業であり、卒業式からさほど日を経ずに結婚式が待っていた。

 しかし、そこには、一つ大きな問題があった。二人の結婚は決まっているのだが、それぞれ別の相手となのである。アラン王太子は、国内の最有力貴族であるエバンス公爵家の令嬢メリーウェザー、彼より一つ年上の昨年の魔法学校卒業生、アート男爵令嬢セイは、アランの5歳上の異母兄オズワルド王子、やはり魔法学校の卒業生、がその相手なのである。

「君を他の男になぞ渡したくはない。でも、兄上は、私のことを、いつも大切にしてくれた。感謝しきれないんだ。」

「オズワルト様は、身分違いで側室としての嫁入りなのに、自分には、そういうつもりないと言って、いつも親切に、優しくして下さっています。」

「君を愛していなければ、幸せな結婚だと、心から喜べたのに。」

「私もですわ。メリーウェザー様はお美しく、優しく、聡明で、しかも在学中、私に優しくして下さり、ご卒業後も心にかけて下さりました。私、それなのに…。」

「君が悪いのではない。君を愛した私が悪いんだ。」

 二人の手は、さらにしっかり握りあい、顔は次第に近づいていった。そして、互いの唇が重なった。

 木蔭から、二人の密会の様子を覗き、聞き耳を立てている者がいた。

「何よ!二人とも、いつの間にできていたのよ!婚約者の私がいたにもかかわらず、アラン様は!あんなに、情熱的な口づけなんか、私にしてくれたことなんかないのに。セイも、あれだけ親切にしてやったのに、この裏切り者!泥棒猫!エバンズ公爵家の令嬢を何だと思っているのよ!こうなったらめちゃくちゃに…。いや、そんなことをしたら、愛する二人を、家の力を使って引き裂く悪役令嬢そのものじゃない、悲劇の二人の愛は更に強まり…、悪役令嬢は、勧善懲悪で処刑、流刑、幽閉…。それじゃ、今までの努力が台無しじゃない!どうしましょう?どうしたらいいの?」

 あまりの混乱で、思わず立ち上がってしまった。

「メリーウェザー?」

「メリーウェザー様!」

「え?」

「これは私が悪いんだ。」

「いえ、私が悪いんです。」

「しまった。どうしたらいいのですの?」

 手を握りあい、半ば恐怖を感じながら、互いを思いやる目をして、かばい合うようにしている二人を見て、思わず、

「大丈夫ですわ!お二人の恋は、私が応援いたしますわ。任せて下さいまし!」

“は?”とメリーウェザーは、自分でも驚いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る