第7話
田嶋のフルネームは田嶋貴男だ。タジマタカオ。人気のあった渋谷系バンドであるオリジナルラブのボーカルと漢字は一文字違い、読み方は一緒だ。一時期、オリジナルラブから派生して、あだ名を『ラブ』もしくは『ラブっち』と呼ばれていたことがある。田嶋は最初は抵抗感があったが、いつの間にか慣れてしまい、カラオケではオリジナルラブの『接吻』を持ち歌にしている。しかし、最近の時節柄、女性がいるところではセクハラと言われる可能性がゼロではないので『接吻』ではなく『朝日のあたる道』を歌うようにしている。もちろん『いつか見上げた空に』も捨てがたい。
外見は中肉中背だ。少しお腹が出てきたが肥満ではない。髪のコシは昔ほどはなくなったが、短髪にしており禿げてはいない。一応、裏原宿の美容室にわざわざ髪を切りに行っており美容師に勧められて数年前から少しだけモヒカンぎみにしている。
顔は恐らくブサイクではないと自負している。但し、カッコ良いとまでは言えないだろうし、印象的な顔ではない。目は一重で、昔の表現で言えば醤油顔だ。肌の色は白くもなく、黒くもなく。
子供はいない。妻と共働きだ。妻は大手ハウスメーカーの満水ハウスで営業職をしている。
田嶋の年齢は41歳。銀行での肩書きは上席調査役。いわゆるプレイングマネージャーだ。管理職だから残業代はつかない。
住まいは豊洲のタワーマンションだ。10年前に購入した。今よりは価格も安かったので手を出せた。階は12階。高層階ではないが、低層階でもない。低層階は嫌だったのだ。タワマンに住んでも、あまりにも低層階だったら、何のためのタワマンか分からない。
銀行の人事部は出世するポジションと言われている。銀行内部の様々なことを学び、不祥事を解決し、銀行内部に人脈を作るのだ。銀行は、内向きの組織だ。営業で結果を出すよりも、内部の役員・部長に気に入られた方が出世する。
田嶋の所属する人事部人事グループは、拠点の人事異動を所管している。そして、各拠点の人事的な問題の解決も担当する。田嶋は東京の主に西部の支店を担当していた。大きな店舗が多く、渋谷、目黒、新宿のような大規模店のみならず自由ヶ丘のような比較的富裕層を相手にする個人店舗も担当する。
業務範囲は広く、セクハラ・パワハラの相談対応から、支店の人員配置まで担当している。特に人事異動の時期になれば、深夜まで残業していることはざらにある。
業務は厳しいが、最終的には出世で報われるポジションが人事部人事グループだった。
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