2-9
意気込んだ俺は走って帰った。住宅街の一角にある我が家へと戻ると小学生の妹がリビングで俺のプレイスイッチを使っていた。
「……なにやってるんだ?」
「ユーチューブ見てるー」
妹はユーチューバーの大袈裟なリアクション芸にからから笑っている。
「親父のノーパソで見ろよ」
俺はコントローラーをふんだくり、ウインドウを閉じた。
「あー! みてたのにー!」
俺がどこまでやったか覚えていないRPGのディスクを取り出すと、妹は口をあんぐり開けて睨み付けてくる。無視して買ってきたゲームを入れると妹の瞳に涙が浮んだ。
「いや、でも俺もゲーム買ってきたからやりたいんだって。ユーチューブならノーパソで見れるだろ?」
「でも画面ちっちゃいもん! テレビの方が大きいんだよ?」
「知ってるけど、今は兄ちゃんの番だ」
ここでやろうかと思ったが、どうやら無理らしい。俺はゲームハードの電源を切るとよっこらせと自室に向った。部屋にはおさがりの古くて小さいテレビがあった。
画面が漆黒に包まれると妹は愕然とし、次の瞬間には泣き出した。
「おかあぁさああぁん! おにいちゃんがかなたが見てたのけしたぁ!」
「こら! バン! またかなちゃん泣かしたの? 女を叩くなって言ってんでしょ!」
お袋の怒声がキッチンから飛んでくる。
「ちげえって! 俺はゲームやらないといけないんだよ!」
「はあ? そんなことより勉強しなさい! 次赤点取ったらお小遣いなしだからね!」
「……いや、それはマジで洒落にならないんだけど。で、でも今はゲームだ! 男が負けっぱなしでいられるかよ!」
それを聞いて年の割に若く見えるお袋が包丁を持ってやって来た。
「ひぃっ……! ごめんなさいっ!」
俺は身構えた。防衛本能で謝ってしまう。お袋は静かに言った。
「あんた。負けたの?」
「……お、おう。ゲームで、女に。だから――」
「あっそ。なら勝つまでやれ。うちに負けたまま納得する奴はいらん!」
「だ、だよなあ!」
さすが俺のお袋だ。話が分かるぜ。
「でも赤点取ったら殺すから」
それだけ言うとお袋は踵を返してキッチンに戻っていった。
「……ですよねぇ」
やべえ……。二週間後中間あんのに……。
俺が命の危機に瀕しているといつの間にか泣き止んでいた妹が俺を見上げていた。
「バン君……。たたかうの? だれと? いのき?」
「いや。猪木じゃねえ。同じ一年の女だ。だからしばらくゲームは我慢な。ていうかお前もどうせユーチューブ見てるだけだろ? ほら、俺のスマホ貸してやるから」
「いいの!? じゃあがんばってね!」
俺のスマホを受け取ると妹は目を輝かせて応援し始めた。
「変なサイトとか見るなよ?」
「みない!」
ホントか? この前はひたすらプリキュアの検索してエロマンガサイトに辿り着いて泣いてたけどな。なぜか俺のせいになったし。
まあ静かになってくれるならいいやと、俺はスマホを生け贄に捧げ、ゲームハードを召喚することに成功した。
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