第12話 君こそが真の勇者だ

 勝負は一瞬で決した。

 剣と剣が激突した直後、僕の剣がレイさんの剣を破壊。

 そして互いにすれ違った。


 僕の剣にも少し罅が入ってしまったけれど、まだ辛うじて使えそう。

 一方のレイさんの剣は、真ん中あたりでぽっきりと折れてしまっていた。


「勝負あり! 勝者、リオン!」


 王様が自ら結果を宣言した。


「わ、私が、負けた……?」

「勝っちゃった……?」


 レイさんは愕然としているけれど、僕もまた自分のしたことが信じられない思いで呟く。


 レイさんは間違いなく強かった。

 たぶん師匠よりも。

 なのに、まさか勝てちゃうなんて。


 だけど互いに必殺技を使い、全力と全力をぶつけてのこの結果だ。

 レイさんの様子を見るに、手を抜いたとは思えないし。


「「……あ、ありがとうございました」」


 僕とレイさんは互いに向き直って礼をする。

 そして顔を上げた瞬間、僕はレイさんの頬を光るものが流れるのを見てしまった。


 泣いてる……?


「あ、あの……」

「素晴らしい戦いだったぞ、リオン!」


 そこへ何とも晴れやかな顔をした王様が近づいてきたので、僕はレイさんに言葉をかけることができなかった。

 レイさんは踵を返し、振り返りもせずに去っていく。


「君こそが真の勇者だ! おめでとう!」


 訓練場内に万雷の拍手が巻き起こる。

 けれど僕は素直に喜ぶことはできず。訓練場を出ていくレイさんの後姿が気になって仕方がなかった。






 勇者として認められた僕は、王様から伝説の武具を授与されることになった。


 それは次の三つだ。


勇者の剣(正式名称不明)

 特殊効果【自然治癒】剣を手にしていると自動的に傷が癒えていく。


勇者の鎧(正式名称不明)

 特殊効果【万能耐性】ありとあらゆる環境および状態異常への耐性を得る。


勇者の袋(正式名称不明)

 特殊効果【携帯収納】実際の大きさの数千倍もの容量のアイテムを保存できる。


「こ、こんなに凄い特殊効果が付いた武具、本当に僕が使っていいんですかっ!?」

「もちろんだ」


 僕はあわあわしながら武具を受け取って、壊したらどうしようと、そんな心配ばかりしてしまう。


「早速、身に着けてみてはどうだ?」

「は、はいっ」


 剣や袋はともかく、鎧は上着を脱がないと着ることができない。

 僕は別室へと移動してそこで装備してから、王様のところへと戻った。


「ほう、なかなか似合っているではないか」

「そうでしょうか……?」


 自分ではよく分からないけれど。

 でも身に着けるとき、鎧が少し僕の体格に合わせて小さくなったような気がした。

 ちょっと大き過ぎるんじゃないかと思っていたのに、お陰でサイズはぴったりだ。

 もしかして僕のことをちゃんと主人として認めてくれたのかな?


 それに、この剣……。

 何だか柄が手に吸いつく感じというか、初めて持ったとは思えないくらい馴染んでいる。


 あと、すごく軽い。

 金属でできているとは思えないくらいだ。

 それは鎧の方もで、まるで布の服でも着ているような感覚だった。


「さて、それでは勇者リオンよ。伝説の武具を手にした今、いよいよ魔王討伐の旅に出発――」


 ごくりと息を呑む僕。


「――と言いたいところだが、その前にまだやらねばならないことがある」

「え?」


 何だろう、と首を傾げていると、王様は玉座から立ち上がった。


「付いてくるがよい」

「は、はい」


 僕は慌てて王様の後を追う。

 ちなみに宰相のモダロさん、それから王様の護衛のためか、王宮騎士団の団長を務めているというブラットさんも一緒だ。

 ブラットさんは四十歳くらいの男性で、細身だけれど背が高く、真面目ですごく神経質そうな印象。


「しかし一体どこでそれだけの強さを身に着けたのだ?」


 歩きながら王様が訊いてきた。


「あの……故郷で、師匠に教えてもらって……」

「師匠?」

「は、はい。えっと、実は元王宮騎士で……ケイン、という名前なんですけど……」

「ケイン?」


 最後の声は後ろから聞こえてきた。

 騎士団長のブラットさんだ。


「知っておるか、ブラット?」

「はい、陛下。今から七、八年ほど前のことでしょうか、そのような名の騎士が確かに在籍しておりました。剣の腕は団の中でもトップクラスであったと記憶しています」

「そのような者がなぜ退団したのだ?」

「……少々素行に問題があり、当時の騎士団長が解雇を言い渡しまして」


 ブラットさんは言いにくそうに答えた。

 たぶん僕が近くにいたからだろうけれど……。


 師匠の素行が悪かった……?

 そんな話、初めて聞いた気がする。

 そういえば、そもそも何で騎士団を辞めちゃったのか、一度も話してもらったことなかったっけ。


 やがて王様が足を止めたのは、重厚そうな扉の前だった。


「ここは……?」

「うむ。この扉の先にあるのは〝勇者の試練〟と呼ばれておる」

「……勇者の、試練……?」


 王様の言葉を僕は鸚鵡返しに反芻した。


「左様。勇者のために用意された訓練施設と言ってもよいだろう。これもまた、伝説の武具と同様、我が国に古くから伝わるものなのだ」


 王様が言うには、この扉の先はダンジョンになっているらしい。


「つまり、それを攻略するってこと……ですか?」

「その通りだ。確かに君は現時点でもかなりの強さを持っているようだが、魔王とその配下たちは強大だ。奴らに打ち勝つためには、それらの武具だけでなく、君自身にもさらなる強さが必要になるだろう」

「……」


 王様の言う通りだと思う。

 レイさんにはどうにか勝てたけれど、これからの戦いを思うと、僕はもっともっと強くならなくちゃいけないはず。

 そしてそのために用意された試練だというのなら、僕はこのダンジョンに挑み、攻略してみせないと。


「分かりました! 僕、やります!」

「その意気だ。だが、今日は色々あって疲れただろう? ダンジョン攻略は一日でできるものでもなし、まずしっかりと休んだ方がよい」

「は、はい、分かりました」

「モダロ、部屋を用意してくれ。無論、貴賓待遇で持て成すのだ」

「畏まりました」


 き、貴賓待遇っ?

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