第11話 勝つのはこの私だ
王様との謁見の後。
なぜか僕は王宮内に設けられた王宮騎士たちの訓練場へと連れてこられていた。
「あの……今からここで何を……?」
僕がおずおず問うと、王様は「うむ、実はだな……」と言い辛そうに前置きをして、
「これから君に、その武術大会の優勝者と戦ってもらおうと思っているのだ」
「ええっ?」
まったく予期していなかった展開に、僕は驚くしかない。
「……そうしなければ納得しないだろうからな」
タイミングの悪いことに、武術大会は数日前に終わってしまったらしい。
優勝者が決まってしまったということはつまり、その優勝者が、勇者が遺した伝説の武具を受け継ぐことが決まってしまったということ。
そんなところへ、ひょっこり現れたのが勇者紋を持つ僕。
だからといって、すんなりと伝説の武具を僕に渡してしまっては、その優勝者が納得しないし、王様は約束を反故にすることになってしまう。
そ、その言い分は理解できるけど……できるけど……。
もしこれで僕が負けちゃったらどうなるんだろう?
ていうか、負けそうだよね?
だって相手は国中から集まってきた力自慢の猛者たちを退け、頂点に立ったほどの人だ。
一方の僕は、手の甲に勇者の証だと言われている痣があるだけ。
確かに師匠に鍛えてもらって、それなりに強くはなったと思うけど……。
お母さん……もしかしたら僕、思っていた以上に早く家に帰ることになりそう……。
「君の戦う相手が来たようだ」
王様の声で我に返る。
その視線の先を追ってみると、訓練場に入ってくる人物がいた。
「えっ?」
僕は思わず目を疑った。
というのも、相手は身体がすごく大きくて、筋肉ムキムキで、なんというか〝ザ・最強!〟って感じの人かと思っていたから。
まったく違った。
かなり細身だし、身長も僕とあまり違わないみたいだし、銀色の髪は艶々だし、それに凄く整った顔立ちをしているし。
ていうか、もしかして女の人……?
胸甲を付けているため一番判別しやすい部分が隠れてしまっているけど、何となく女性っぽい身体つきをしている気がする。
本当に何となく、だけど……。
それに、若い。
たぶん僕と一つ二つしか変わらないんじゃないだろうか。
「彼じ……彼が武術大会の優勝者だ」
王様が言う。
「見ての通りまだ若い。確か今年で十七だったか。まだ王宮騎士の見習いなのだが、なんと正規の騎士たちを倒して優勝してしまったのだ」
それってすごく凄いんじゃ……。
「陛下。参上が遅れ、申し訳ございません」
彼女(?)はこちらにやってくると、頭を下げて王様に謝罪する。
「むしろ急に呼び出して悪かったな」
「いえ」
「それで話は聞いているな?」
「……はい、伺っております」
彼女はちらりと僕を横目で見て、それからすぐに王様へと視線を戻した。
「お前には悪いが、これから彼と試合をしてもらいたい。そして……」
「もし私が敗北すれば、伝説の武具を彼に譲れということですね」
「う、うむ」
「……ではもし私が勝てば、伝説の武具は私が戴けると考えてよろしいでしょうか?」
「そうだな……うむ、そう考えてよいぞ」
王様は歯切れ悪く頷いた。
本来の勇者に渡すべきものを、別の人に渡してしまったとなれば、きっと色々と問題なのだろう。
だけど彼女にとっては、せっかく武術大会を勝ち上がって得た権利だ。
それを守ろうとするのは当然。
ていうか、考えてみればこの試合、彼女には何の利益もないよね……。
まるで僕が横取りしたみたいになっちゃう。
もちろんそれは僕が彼女に勝てれば、の話だけれど。
それから僕は彼女と向かい合った。
こ、こうしてみると、やっぱりすごく綺麗な人だ……。
鋭い目でじっと見つめられると、こんな状況なのに僕はドギマギしてしまった。
「私の名はレイ。王宮騎士見習いだ」
あれ? 男の人の名前……?
僕は違和感を覚えつつも、名乗り返す。
「ぼ、僕はリオンですっ。よろしくお願いします!」
声がちょっと上ずってしまった。恥ずかしい。
「……まさか、こんないかにもひ弱そうな少年が勇者だとは……」
「えっ?」
レイさんが小さく吐き捨てた言葉に、僕は耳を疑う。
今、ひ弱そうって言われちゃった……?
「私は必ず勝つ。そしてどちらが本当の勇者かをはっきりさせて、貴様をとっとと田舎に帰してやろう」
もしかしてレイさん、怖い人なの!?
それとも怒ってる?
さっきから鋭い目で見てきてるなーとは思ってたけど、もしかして僕のことを睨んでたのかもしれない。
レイさんがすらりと鞘から剣を抜いた。
僕も慌てて剣を構える。
「はぁぁぁっ!」
まずレイさんから仕掛けてきた。
気迫の籠った声を上げながら、一気に距離を詰めてくる。
鋭い斬撃!
慌てて受け止めたけれど、レイさんは間髪入れずに二撃目を放ってきた。
キンキンキンキンキンッ!
目にも止まらぬ速さで繰り出される連撃を、僕はどうにか捌いていく。
……つ、強い!
重さはないけれど、その分、速くて正確で、何よりもこちらの嫌な部分を突いてくる。
筋力の乏しさを圧倒的な技術で補っている感じ。
王宮騎士の見習いだって言っていたけど、きっと師匠以上だ。
僕は師匠に勝てたことがない。
だから師匠以上の相手となると、どう考えても勝ち目はない――
はずなんだけど、どういうわけか、僕はレイさんの剣を普通に対処することができていた。
これってもしかして、僕が強くなったってこと?
「このっ……」
なかなか僕を崩せないことに、レイさんは驚いているようだった。
いったん距離を取って、息を整えながら、
「なるほど。思っていたよりはできるようだ。だが勝つのはこの私だ!」
そのときレイさんの剣が輝き始めた。
攻撃スキルを放つ気だ。
――攻撃スキル。
それは人の体内を循環しているエネルギーを集約させることで、通常の何倍もの威力の攻撃を繰り出すというもの。
習得の仕方は色々あるけれど、僕の場合は師匠との訓練の最中に急に使えるようになった。
確か、レッドグリズリーに遭遇して死を覚悟したときだったっけ……。
攻撃スキルには、攻撃スキルで対抗するしかない。
僕も間髪入れずに〝タメ〟に入った。
そして、僕とレイさんはほとんど同時に叫んだ。
「ラピッドピアス!」
「ソニックスラッシュ!」
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