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 その後、俺たちは暴マー復活後にそれぞれ何をするか話し合い、すぐにそれを実行に移した。


「さあ、ベルガド。これでやつを復活させてくれ!」


 やつのレジェンド・コアを差し出し、ベルガドに頼むと、


「ほいよ!」


 と、二つ返事で亀妖精は答え、なにやら神秘的な光のエフェクトとともにすぐに暴マーの姿が俺たちの前に現れたのだった。ふうん、伝説として伝えられている祝福のくせに、わりと演出はあっさりなんだなって。


 ただ、亀妖精のリアクションはあっさりではなかった。


「な、なんじゃ、この邪悪極まりない化け物は! 底知れぬ力を感じるぞ!」


 復活した暴マーを見るや否や、とたんにぎょっとする亀妖精だった。なんだこいつ? 自分で蘇らせておいてさあ。


「お、お主! なぜこんな邪悪の権化の復活をワシに頼んだのじゃ! まさか、お主も邪悪そのものなのか!」

「んなわけねーだろ。俺の事情はお前だって知ってるはずだろ」

「いや、ここまでのヤツとは聞いておらんぞ! こんなのはまさに生きた破滅そのものではないか! な、なんでこんなのがワシの甲羅の上にぃー! あわわ」


 と、殺虫剤を中途半端にかけられた羽虫のように、せわしなくそのへんを飛び回る亀妖精だった。そんな動揺するほどの相手か、これ? だいたいお前もディヴァインクラスのレジェンド・モンスターだろうがよ。


 そして一方、復活した当の本人、暴マーさんも、


「……な、なぜ我はこのようなところに?」


 突然の蘇生に戸惑っているようで、周りをきょろきょろ見回している。こいつはこいつで、朝比奈みくるのAA状態かよ。

「よう、久しぶりだな、クソ竜」


 とりあえず、こっちから声をかけてあげた。このままだと話進まねえし。


「き、貴様! 一度ならず二度ならず三度も、なぜ我の前にいる!」

「そりゃ、お前を復活させてやったの俺だし」

「えっ」

「すごーく貴重な『誰でも無料で生き返らせてもらえる権利』を、他でもないお前に使ってやったんだぞ、感謝しろ」

「え? え?」


 と、暴マーは爬虫類のくせに、ハトが豆鉄砲食らったような顔になった、まあ、さすがに唐突過ぎて意味わからんか。わかってもらう必要は特にないが。


「ついでに言うと、お前はここでもう一回死ぬ。生かしておく理由はないからな」

「な、なにを世迷言を! まるで我の命が、貴様のたなごころの上にあるかのような物言いではないか!」

「あるよ」

「えっ」

「だって、お前を殺すも生かすも俺の自由じゃん? お前、俺に生殺与奪の権利握られ過ぎじゃん?」

「ほざけ! 人間風情があっ!」


 と、暴マーはいきなりこっちにブレス攻撃してきた。ディヴァインクラス相当の竜らしい、相当な火力と威力だ。まあ、俺がゴミ魔剣を一振りすれば消えたが。


 そして、このまま反撃して終了――とは、いかなかった。それで俺が一発でこいつを倒せば、バッドエンド呪いをまた食らっちまうからな。


「お前ら、後は頼んだぜ!」


 ブレスを軽く払ったところで俺は素早くその場から後退し、後ろの二人、ヒューヴとリュクサンドールに声をかけた。


 そう、とりあえずこいつら二人に適当に暴マーのHPを削ってもらう作戦だった。一撃必殺で倒さない限り呪われることはないからな。我ながらナイスアイデアだ。


 最初に動いたのはヒューヴだった。


「よーし、十五年前と違って、ちゃんと活躍してやるぜ!」


 と、勇ましく叫びながら、暴マーめがけてブラストボウの矢を放つ! それは勢いよくやつの目めがけて飛んでいく! 相変わらず容赦なく弱点狙う仕様なんだな、コイツの攻撃。


 だが、その矢は、やつの目に当たる直前で不自然に曲がり、命中することはなかった。


「えー、なんで当たらないんだよ!」


 ヒューヴは不満げに頬をふくらませている。


「バカめ! 我はかつて風の精霊王とも呼ばれし大精霊と融合し、あらゆる風を自在に、瞬時に操れるようになったのだぞ! 風の加護により、どんな飛び道具も我には効かぬ! ただ一か所、風の加護が弱い部分があるが、それはお前たちにはわかるはずもないことだがな、ガッハッハ!」


 暴マーは何やら勝ち誇って高笑いし始めるが、


「ふうん、そうか。一か所だけ矢が当たる部分があるんだ。へー」


 直後、ヒューヴはブラストボウを再びぶっぱなした。それは今度は暴マーの右の前足の付け根にぶっ刺さった。そう、風の加護とやらに邪魔されることなく。


「ギャアアアア、痛い痛い痛い!」


 暴マーは悶絶し、その場を転げまわった。どすんどすん。


「やっぱそこかあ。目とそこのどっちか狙うか、迷ったんだよなあ」


 ヒューヴはへらへら笑っている。恐るべしこのバカの能力、鷹の目ホークアイ。もう完全に弱点見抜きやがった。一応、相手はディヴァインクラスなんだぞ。わかってんのか、このバカ。


「ぐ……ま、まさか、この我の弱点を一瞬で見抜くとは……」


 やがて、暴マーはふらふらと起き上がり、


「だ、だが! ここだけの話、我の弱点は、瞬時に体の違う場所に移動させることが可能なのだ! もう同じ攻撃は通用せぬぞ!」

「あ、次はそっちかー」


 シュババババッ! 瞬時に弱点が移動しようと、瞬時にそれを見抜かれちゃ意味ないよね。暴マーは再びヒューヴの矢を受け、悶絶した。今度は、矢が当たった場所は、背中の中央だったが。


「なー、アル? こいつってこのまま倒してよかったっけ?」

「いいぞ」


 と、答えながらも俺は内心複雑だった。というのも、俺はこの暴マーを倒し、世界を救った英雄としてたたえられていたんだ。この俺だからこそできた偉業、みたいな感じで。


 それがあんた、こんなバカでも余裕で倒せそうとか、正直かなり興ざめなんだが? もしかして、俺じゃなくても世界は救えたのかなって……。


 と、ぼんやり考えていると、


「うおおおお! 我はこんな攻撃でやられはせんぞ! 断じて!」


 暴マーは何やら叫び、体を金色に輝かせ始めた。


 すると、とたんにヒューヴの矢に撃ちぬかれた箇所の傷が癒えていった。おお、これは再生能力か。


「わ、我は、かつて水の精霊王とも呼ばれし大精霊と融合し、あらゆる傷を自在に、瞬時に治せるようになったのだぞ! 水の加護により、どんな攻撃も我には効かぬ! ただ一撃で殺されることを除いては! あと、傷を治すついでに魔力も全回復するぞ!」

「えー」


 ヒューヴは心底げんなりした顔をした。まあ、当然か。無限に回復されちゃどんな攻撃も意味ないからな。


「はっは、そうか。やっぱお前にはあいつを倒すのは無理か。そうかそうか。やっぱ俺じゃないとなー」


 俺は高笑いした。さすが世界を滅ぼす邪悪な存在さん! そんじょそこらのバカでは倒されない仕様になっている! 素晴らしい! やっぱお前を倒せるのは俺しかないかなって。


「よーし、ここはひとつ、俺が一撃で仕留めて――って、それはアカンやんけ!」


 それやっちゃうと、またバッドエンド呪いもらっちゃうやんけ! HPだけじゃなく魔力も全快してるみたいだし!


「さ、さすが、世界を滅ぼす邪悪極まりない存在。強敵だぜ……」


 一撃で倒さないとすぐ回復するのに、一撃で倒せない相手とか! それなんて縛りプレイだよ、ちくしょう!

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