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「しかし、いったいあいつどこにいるんだ?」
食堂を出て、みんなで並んで城の廊下を歩きながら俺は言った。それなりにでかそうな城だ。ラファディとやらがそのどこかに隠れているとするならば、普通に探すのは大変だろう。
「なあ、こういうとき、あんたのお得意の魔法でぱぱっと見つけられないか?」
俺は変態女に言った。こういうとき頼れるのは、今のところこいつしかいないしな。
「ごめんなさい、勇者様。ここのセキュリティシステムに侵入できればそれも可能だと思うけれど、相当強固に構築されているみたい。そう簡単には介入できそうもないわ」
変態女は城の壁に手をかざし、何やら難しそうな顔をしている。ハッカーかこいつ。
「そもそもこの城自体が、外からの侵入を拒む障壁になっているようね」
「城自体が?」
「そう。ここにあるものはすべて、錬金術で作られているわ。そして、その形や性質は、術者の意思によって思うがままに変わるはず――」
と、変態女がひとりごとにようにつぶやいた直後だった。近くに置いてあった鎧の置物が、その言葉通り次々に形を変え始めた。にゅるっとな。
直後、俺たちの目の前に現れたのは巨大なスライムだった。半透明の体をほんのり黄金色に輝やかせている経験値高そうな集団だ。
「こいつらも錬金術で作られたものか」
「そうね。近くに侵入者が来ると襲い掛かるように作られているんでしょうね」
「防犯システムかよ」
こういうのが城のあちこちにあるのかな。めんどくせえな。俺はとりあえず、すぐ近くのスライムにゴミ魔剣で斬りかかった。とりゃ! とっとと魔剣様のエサになって消えろ!
だが、そのゴミ魔剣の一撃は、スライムを消し去ることはできなかった。正確には、一瞬だけ刀身に吸収したようだったのだが、次の瞬間に『ヴォエッ!』という汚い声ととともにスライムを吐き出しやがったのだ、ゴミ魔剣様は。いったいどういうことだ。
「おい、なんで戻すんだよ。ちゃんと食えよ」
『ムリムリ、マジムリ! こんなクソマズイ人造モンスター食えるわけネーっすヨ!』
なんかもう、ゴミ魔剣のやつ軽くキレ気味だ。
「ぜいたく言ってんじゃねえよ。こいつらまともな物理攻撃効かねえんだから、お前が食って消すしかねえだろ。好き嫌いすんな」
『いや、ものには限度がありますぜ? そもそもワタシ、前にも言いましたよネ? モンスターは天然もので頼むって』
「ああ、そういえば」
ドノヴォンに着いた直後ぐらいに、そういうやりとりがあったかなって。
『そーゆーわけなんで、こいつらはワタシが食べて消す以外の方法で倒してくださいネー』
「いや、だからこいつら物理攻撃効かない――」
『同じ色のやつを四つ並べると消えるんじゃないですかネー?』
「ぷよぷよかよ!」
そもそもここには金色のスライムしかいねえし。
「はっ、これぐらいのモンスター、俺だけでもなんとかならあっ!」
と、いらついた俺は近くのモンスターを殴ってみた。ぺちゃ! 俺の拳は普通にスライムの体にめりこんで終わった。まあ……そうなるよね……。なんとなくめりこんだ拳がぴりぴりするが、何か消化液でも出されてるんだろうか。
「アル、あぶない!」
と、そんな俺の後ろから、ものすごい勢いで矢が飛んできた。ヒューヴのブラストボウの矢だ。それは俺の右肩すぐ上をすれすれに通過し、スライムに命中し、衝撃波でその粘液を吹っ飛ばした。
「……なんだよー。お前の武器は効くのかよー」
俺は後ろに振り返り、得意顔をしているヒューヴをにらみつけた。見ると、魔術師二人もそれそれの魔法でどんどんスライムを倒している。これじゃあ、俺だけ役に立たない子みたいじゃん!
「こいつらはオレたちが倒すから、アルはそのへんでちんこでもいじって待ってろよ」
「ちょ、なんでそういう言い方するの! ヒマで手持無沙汰だからって、そうそうそんなことしないわよ! バカにしないでくれる!」
俺は再びただの剣と化したゴミ魔剣をスライムに振り下ろした。まあ、当然そんな攻撃、効くはずもなく、また後ろからヒューヴの援護射撃が飛んできただけだった。
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