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「えーっと、つまり、僕たちがそれぞれ別々にこの扉の向こうに行けばいいんですかね?」
と、リュクサンドールが周りを見回しながら言った。
「そうじゃ。何も考えずにまっすぐ扉の向こうへ進めばよいのじゃ」
「いや、そうじゃ、じゃねえだろ。なんで俺たちそんなことしなくちゃいけないんだよ。まず理由を説明しろ」
俺はさすがに亀妖精に尋ねずにはいられなかった。なんのことやら、さっぱり意味が分からんし。
「理由はそこの男に直接きくとよかろう」
と、亀妖精は青白く光る永劫地縛霊の男を指さした。
「あいつ、話ができるやつなのか?」
と、俺は首をかしげたが、バカと間抜けは何の疑問も抱かなかったようで、
「おーい、そこの光るおっさん、元気かー」
「ちょっと僕たちにお話を聞かせてほしいんですけど」
そう呼びかけながら、男にズカズカ近づいていく。さては怖いものなしか、こいつら。
「……おお、私が見えるのか、そこの人間たちよ……って、あれ? 二人とも人間ではない?」
男もバカと間抜けの呼びかけに普通に?反応したようだった。
「見たところ、ものすごく頭の悪そうな有翼人の男と、ものすごく頭のおかしそうな不死族の男のようだな? 私にいったい何の用だ?」
ってな感じに、話し方も普通だ。しかも一目でバカと間抜けの本質を見抜いてやがる。さすが永劫地縛霊だ。
「なーなー、オレたち、ここの魔物全部倒さないといけないみたいんだよ。だから、おっさんも早く死んでくれよー」
「はは。残念ながら、すでに私はもう死んでいる。これからさらに死ぬことはできないな」
「あ、そうだな! それは気づかなかったな。はは」
「はっはっは」
と、何やら笑いあうバカと永劫地縛霊だった。やべえ、あいつらに任せておくと話がろくに進まねえ。あわてて三人のもとに駆け寄った。
「おい、亡霊のおっさん。あんたは何の未練でこの世にとどまっているんだよ? 言えよ。俺たちがそれを断ち切ってあんたを成仏させてやるからさ」
そうそう、こいつを成仏させないと、俺たち先に進めないって話だったよな。
「未練か。それはもう、たっぷりあるとも! ぜひ私の話を聞いてくれ!」
「ああ、できれば手短に頼む」
「それは私がまだ生きていたころ、今からおそらく五百年は前の話だ……」
永劫地縛霊の男は遠い目をして何やら語りだした。
「私は当時、とある国の王様のお抱えの発明家としてバリバリ活躍していた」
「お抱えの……発明家?」
発明家って王様が囲い込むものだったのかなって。
「私の発明はどれも素晴らしいものばかりだった。王は大変私を気に入り、国家予算をじゃぶじゃぶ開発資金に投入してくれた。まさに私の黄金時代と言ってよかった!」
「国家予算をじゃぶじゃぶ? だいじょうぶなのか、その国?」
「まあ、わりとだいじょうぶではなかったな」
「あんたが言うのかよ」
こいつのせいで国がだいぶ傾いてたんだろうなって。
「そんな日々の中、私は王から、とてつもなくエキサイティングな遊具を作ってくれと依頼を受けた。使える予算は国家予算半年分。私はさっそく腕によりをかけ、その遊具を開発した!」
「半年分の国家予算で遊具か」
絶対その国、今はもうないだろ。そんなアホな国、とっくの昔に滅んでるだろ。
「だが、その遊具を試しに使ってもらったとたん、けが人が続出した。エキサイティングすぎたのだ。ゆえに、その発明はお蔵入りとなり、私は――」
「処刑された?」
「いや、しばらく暇を出された」
「国家予算半年分も食いつぶしたのに、首にもならなかったのかよ」
その王様、アホな上にやさしすぎか。
「だが、暇を出されて久しぶりに家に帰ってみると、ちょうど私の妻と私の浮気相手の女が口論しているところだった。私はあわてて二人の喧嘩を止めようとしたが、二人がほぼ同時に近くにあったツボと皿を投げてきて、それらは私の頭に見事に命中し、私は死んでしまったのだ!」
「そ、そう……」
自業自得過ぎる死因でコメントに困る。
「で、あんたのその人生の、どこが未練のポイントなの?」
「もちろん、私の開発した遊具が人々に認められなかったことだ! 私はいつだって全力で素晴らしい発明品を作ってきたというのに! なんと恨めしく、憎々しいことだろう!」
「わかります、その気持ち! 自分の努力が認められないほど、辛いことはないですよね!」
と、リュクサンドールが何やら男に共感したようだった。お前の狂った努力が認められる世の中になってたまるかよ。
「……せめて、私の遊具を心から楽しんでくれる人が現れれば。それだけで私は満たされるのだが」
永劫地縛霊の男は、そう言うと、ホールの周りにある四つの扉を指さした。
「そうか、あの向こうにあんたの開発した遊具があるんだな」
そしてそれを俺たちが遊んでやれば、この男は満足するってことだな。なんだ、簡単じゃねえか、はは。
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