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「それで、あんたたちは、このバカとどういうやり取りをしたんだよ?」
「はて、どのような邂逅でしたかな? なにせ三百年前の話ですからなあ」
ワンダートレントたちは俺の質問にいっせいに首(?)をかしげた。目も耳もないのに、なぜか普通に会話できる不思議生物だ。
というか、記憶があいまいにしても、三百年も前のことを覚えてるんだな、こいつら。
「もしかして、あんたたちって寿命がやたらと長いのか?」
「いえ、せいぜい三十年かそこらでございます」
「え? じゃあなんで、三百年前のことを覚えてるんだよ?」
「我々はそれぞれの意識や記憶をある程度共有しているのでございますよ」
「……なるほど、共有か」
個人のプライバシーも何もなさそうだなあ。
「じゃあ、それで自分が生まれる前のことも記憶にあるんだな」
「はい。ゆえに、我々はそれぞれの個体の生死にあまりこだわらないのですよ」
「ふうん?」
よくわからんが、人間とは生きている世界が違うみたいだ。まあ、植物系モンスターだし、こんなもんなのかなって。
だが、そのとき、
「おお、そうだ! こちらの方は確かジーグというんでしたな! 思い出しましたぞ!」
と、ワンダートレントの一体が叫んだ。おお、思い出せるやつもいるのか。
「そうか、じゃあ教えてくれ。こいつはここで、あんたたちとどういう話をしたんだ?」
「それは――」
と、そのとき、
「ウオオオオッ! オレ、ワンダートレント、クウ! クウ!」
野獣がものすごい速さでこっちにやってきて、俺に何か言いかけたワンダートレントを食い始めた!
「ちょ、待て! こいつの話がまだ終わってないんだが!」
俺はあわてて野獣を止めるが、野獣のやつ、俺の声なんて聞いちゃいねえ。
「いやあ。さすがカプリクルス。いい食いっぷりですな」
「遠くの地に根を下ろしかけた我々を食い尽くしたことはありますな、はっは」
他のワンダートレントたちもこんな調子だし。仲間が絶賛捕食され中なのにな。
「……ま、まあいい。あんたたち、記憶を共有してるんだろ? だったら、今食われたやつが何を言いかけたかはわかるだろ? 教えてくれよ」
「はあ。それが我々の記憶の共有は、昼間、眠っている時に行われるので」
「それぞれの一瞬のひらめきや感情のゆらぎなどは、すぐに共有されるわけではないのですよ」
「したがって、今食べられた彼が何を言いかけたのか、他の者たちにはわかりかねますな、フォッフォッフォ」
「そ、そう……」
そんなシステムなら、なんでヤギを止めてくれないのさ! ゆるすぎて、ちょっとついていけないんだが!
「わ、わかったわかった。死んでしまった彼のことはもう忘れよう。彼の言いかけたことも。それより今は、ベルガドへの連絡方法だ。あんたたちなら、ベルガドと直接コンタクトがとれるんだろ?」
「はい、もちろん」
「そうか!」
おおお! やっぱりこいつらを頼ってここまで来て正解だったんだな! 俺は歓喜に胸を躍らせた……が、
「ただ、今は無理ですな」
などと、ふざけたことを言っており。
「な、なんで無理なんだよ! そこは俺のために頑張ってくれよ!」
「いえ、せっかく我々に会いにここまでいらした方ですし、我々もそのご期待にこたえたいとは思うのですが、あいにく、今はベルガド様は睡眠中でして」
「知ってるよ、それは。ここの亀は、ずっとうとうとしてるようなもんなんだろ? そんなの、起こせばいいだけだろ」
「それが、容易にベルガド様を起こせる時期と起こせない時期がございまして」
「そんなのあるのか」
うたたねしてるだけなのに、めんどくせーな。
「人間やほかの動物の眠りには深い眠りと浅い眠りがあり、それを交互に繰り返しているのです。今のベルガド様も同じです。浅い眠りのときには、我々の呼びかけで目を覚ましていただくことは可能でしょうが、今はあいにく深い眠りの時期です。我々が何を言っても目覚めることはないでしょう」
「ふーん? じゃあ、次にベルガドが浅い眠りになるのはいつなんだよ?」
「二か月ほど先になるかと」
「え、そんなに?」
先の話すぎるんですけど!
「いや、さすがにそんなには待てないんだが……深い眠りの時でも無理やりたたき起こす裏ワザみたいなのはないのかよ?」
「ないことはないですが」
「あるんだ」
苦し紛れに質問してみるもんだな。
「で、なんだよ、それは?」
「それはもちろん、聖なる乙女の歌声です」
と、ワンダートレントたちはいっせいにユリィのほうに体を向けながら言った。
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