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「そんで、じいさん。こちらのザック君をこれからどのように使うつもりで?」


 俺はザックをじじいの映像の前に突き出しながら尋ねた。


「まさか、じいさんの魂をこっちのザックの体に転送して、記憶治療用の電撃魔法を使うとかじゃねえだろうな?」

「それは遠隔憑依の術のことでしょうか」

「あ、ホントにあるんだ、そういう術」

「はい、ございます。ただ、私はあいにく、そのような高度な交信術チャネリングの心得はございませんので、そのやり方は不可能ですね」

「ふうん? じゃあ、どうするつもりなんだ?」

「この通信で私から直接ザックに指示を与えます」

「……指示だけ?」

「はい」

「そ、そう……」


 そんなやり方で大丈夫なのかなあ?


「おい、ザック。じいさんはああ言ってるけど、お前はそれでやれそうか?」

「ああ……たぶん大丈夫だぜ?」

「たぶんかよ」


 また頼りねえ返事だな。


「まあいい。他に方法はないんだ。ダメもとでやってみようぜ」


 俺はさっそくじいさんに詳しいやり方を聞いた。それによると、まずはヒューヴが持つ魔力を最大限に封じる必要があるという。


「電撃魔法による神経系への超微細干渉においては、患者クランケ自身の魔力のゆらぎが非常に大きな妨げになるのです」

「まあ、なんとなく理屈はわかるが、魔力を封じるってどうやって?」

「魔封具という、専用の器具があります。それを使えばよいでしょう。これはベルガドでも比較的容易に手に入るはずです」

「あ、魔封具でしたら、ちょうどここにありますわ」


 と、シャンテリーデが言った。見ると、その手には首輪が握られている。おそらくヒューヴが警察でつけられていたものと同じものだろうが……なぜ、そんなものがここにあるんだ。ベルガドでは一家に一台的なものなのか?


「魔封具を患者クランケに装着させたら、次は患者クランケを椅子か何かに縛り付け、身動きが取れないようにしてください」

「え、なんで?」

「神経系への超微細干渉中には患者クランケが暴れだすことがしばしばあるので」

「はあ、なるほど」


 電気で脳みそビリビリするんだから当然か。俺はシャンテリーデの手から魔封具を受け取ると素早くヒューヴの首に装着した。


「なんだよ、またコレかよ! 外せよー」

「うるさい、お前はじっとしてろ!」


 抵抗するヒューヴを強引に近くの椅子に座らせると、道具袋からロープを出して、そこに縛り付けた。よし! 準備完了!


「お、お前ら、このオレをどうする気だよ! ここから放せよ!」


 ヒューヴは椅子の上でじたばたしている。魔力を封じられたことで素の腕力も標準以下に落ちたようで、ロープから抜け出せないようだ。


「じいさん、こっちのほうの用意はできたぜ」

「では、あとは私からザックに術式の手順を教えるだけですね」

「ああ、頼んだぜ」


 俺はザックとヒューヴをその場に残し、キャゼリーヌ通信カメラの前から身を引いた。俺にできることはもうなさそうだ。あとは、後ろから二人のやり取りを見守るだけだ。


「よいか、ザック。まずは魔力走査で患者クランケ脳内のケルピー器官の場所を探して……」


 ごにょごにょ。なんか専門的な会話が聞こえてくる。ケルピー器官ってのは、記憶を管理するという脳の部分、海馬のことだろうか。この世界ではそう呼ぶんだなって。


「……そうだ。魔力走査でイメージした通りに、そこに微細な電気刺激を――」

「こ、こう?」


 びびび。瞬間、ヒューヴの頭の上に置いたザックの手から火花が散った。


 そして、直後、


「ウヒョヒョヒョヒョヒョッ!」


 ヒューヴが奇声を上げて笑い始めた!


「あ、やべ! 違うところ刺激しちまった!」


 びびび。再びザックの手から火花が散り、今度は、


「にゃーん! ごろにゃーん! にゃんにゃん!」


 と、ヒューヴは鳴き始めた……。


「おい、こいつどんどん壊れてるけど、大丈夫か?」

「だ、大丈夫に決まってるんだぜ?」


 ザックは冷や汗をたらしながら、俺に答えた。

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