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 それから、リュクサンドールにさらに詳しく話を聞くと、ミイラを発見した階段より前に調べた二つの階段はどちらも罠だったようで、階段の途中に落とし穴があったそうだ。


「どちらも落とし穴の下にトゲの仕掛けがあって、落ちて串刺しになったんですけど、その後は無事に闇の翼で無事に脱出できました」


 ……無事の意味ってなんだろうな?


「じゃあ、お前がまだ調べてない階段が正解か」

「そうですね。ミイラさんが安置されたところもただの狭い部屋でしたし、残りの一つでしょう」


 リュクサンドールは俺の言葉にうなずいた。ほかのみんなも同様だった。よし、意見はまとまったな。俺たちはすぐにその最後の階段に向かった。


 罠はすでに蛍光シールでマーキングされているので階段まではスイスイ進めた。そして、目的の階段もやはり正解だったようだ。途中で落とし穴やミイラに遭遇することはなく、普通に下のフロアに降りることができた。


 見ると、そこは地下二階までとはうってかわって、通路などはなく、だだっ広い空間が広がっているだけのようだった。なんだここは。地下駐車場か?


「おい、ここは何目的のフロアなんだよ?」

「それが、よくわかってないらしいんですよね」


 リュクサンドールは首をかしげながら言う。


「僕がこないだ読んだ本によると、この遺跡を最初に調査しに来た人たちは、地下二階まで降りて宝物庫にロクなお宝が残ってないことを確認すると、そこが罠だらけなこともあって調査のやる気がなくなって帰ったらしいんですよね。なので、ここ地下三階の詳細は誰にも知られてないらしいです」

「なんだそれ。そいつら盗掘団かよ」


 そもそも、なぜそんな適当な連中の話が本にまとめられているんだい?


「ただ、一説によると、ここは一般の人には見せられないような、秘密の儀式を行う場所だったらしいです」

「ふうん? 一般人に見せられない儀式ってことは、どうせ呪術絡みなんだろうな」

「何を言ってるんですか、トモキ君! そんなわけないでしょう! その言い方じゃ、まるで呪術が一般の人に見せられないものみたいじゃないですか!」

「みたいっていうか、実際そうだろ……」


 人にお見せできないような、残虐で悪趣味でろくでもない術しかないもんな。まともなのはマジで始原の観測者アビスゲイザー・ケイオスくらいだ。特別使用許可がこれだけ出るのもわかる。


「まあ、細かいことはいい。とっとと目的のモンスターを倒してザックを探そうぜ」


 俺たちはその場から歩き出した。


「おい、ネム。今度こそここに目的のヤツがいるんだろうな?」

『ア、ハーイ。そんなような感じですネー』


 なんか答えが適当だが、とりあえずこれ以上潜らなくていいらしい。


「じゃあ、どっちにいるんだよ? 場所を言え」

『イヤー、もうすぐ近くなんで。移動する必要ないっすよ? あっちから近付いてきてますし?』

「え」

『あ、どうやらあのチビもセットですネー』

「え? ザックも一緒? どういうことだよ?」


 さっぱりわけが分からんぞ――と、思った直後、俺はその言葉の意味を理解することになった。ゴミ魔剣の言う通り、確かにザックが俺たちのほうに近づいてきたからだ。


 そう、なんだかよくわからない、光る円盤状の何かに乗った状態で。それですいーっとフロアを移動してて。


 しかも、


「うっはー、たっのしー!」


 なんかめっちゃはしゃいでる。遊園地で遊具に乗ってる幼児みたいだ。これはいったいどういう状況だよ。


「おい、ザック! お前、こんなところで何やってんだよ!」


 当然、すぐに声をかけたわけだが、


「あ、勇者様もここまで降りて来たんだな。見ろよ、これ? すごいだろー」


 ザック氏、自分の乗っている謎円盤を自慢げに叩くだけだった。だから何なんだよ、それは。相変わらずすいーっと移動し続けてるし。


「とりあえずそれから降りてこっちに来い。詳しい話はそれからだ」

「ああ、そうだな。これに乗ったままじゃ話しにくいもんな。よーし、オルトロス、止まれ」


 と、ザックは円盤を叩きながらそれに命令したようだった。とたんに、それはぴたっとその場に停止した。


 そう、マジで一瞬のうちに急停止したわけで、当然……。


「うわっ!」


 慣性の法則で、ザックの体は勢いよく前に放り出され、床に落ちてしまった。


「おい、大丈夫か!」


 あわてて声をかけたが返事がない。どうやら、今ので頭を強く打って気絶したようだ。


「何やってんだよ、クソが。勝手に気絶しやがって。これじゃ話を聞けねえじゃねえか」


 あいかわらずの貧弱ぶりにため息をつきつつ、俺は道具袋から回復薬ポーションを取り出した。とりあえずこれで治療しておかないとな。


 と、しかしそのとき、


「ゴシュジンサマ、ハ、イシキヲウシナワレタヨウデスネ?」


 ザックにオルトロスと呼ばれた謎円盤がしゃべった。めっちゃ機械っぽい片言ボイスで。


「ジョウキョウヲ、ブンセキスルト、ゴシュジンサマガイシキヲウシナワレタゲンインハ、ソコノシンニュウシャニ、アルヨウデスネ? カレラニキヲトラレタセイデ、ワタシカラ、テンラクシテシマッタノデス。オオ、ナンテカワイソウナ、ゴシュジンサマ」


 謎円盤のやつ、なんかザックをご主人様呼ばわりしながら、その落ちた原因を俺たちのせいにしてるぞ。いや、どう考えても、お前が急停止したせいだろ。


「おい、そこの円盤。お前なんで、こんなチビを背中に乗せてたんだよ? チビの代わりに説明しろ――」

「ゴシュジンサマニ、キガイヲアタエルシンニュウシャハ、スミヤカニ、ハイジョシナクテハイケマセン」

「え?」

「オルトロス、チョウアグレッシブモードニ、イコウシマス……」


 と、謎円盤がしゃべった直後、それは瞬く間に変形した。


 がしゃーん、がしゃーん。


 円盤から細い脚のようなものが次々と生え、円盤自体も巨大化し、頭のような突起も出てきて、それは突然クモ型のメカに変化したようだった。その頭らしき部分の中央には巨大な目のようなものがあり、赤く光っている。


「シンニュウシャハ、スミヤカニ、ハイジョシナクテハイケマセン……」


 タチコマのようなクモ型謎メカは、俺たちを見ながら再度こう言った。

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