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「よし、ここは罠を解除しながら少しずつ進むことにしよう。この中で罠に詳しい人ー」
と、俺はみんなに呼び掛けたが……誰も反応しやがらねえ。まあ、当然か。学生と野獣と無能教師しかいねえし。
「俺一人なら強引に突破できそうではあるが……」
そうそう、昔の仲間にレンジャースキル皆無のくせに自称盗賊やっていたエルフ女がいて、いい迷惑だったんだよなあ。あいつの罠解除は成功したためしがなかった。おかげで、俺たちは罠にはある程度耐性ができてしまったというか。
ただ、そんな「素振りもせずに不思議のダンジョンシリーズのモンスターハウスを普通に歩き回る」みたいな漢プレイはあんまりやりたくないなあ。ゲームのモンハウと違って、アイテム落ちてなさそうだしね。
と、そこで、ユリィが手を挙げた。
「あの、リュクサンドール先生の物理障壁に守ってもらえば、罠にかかっても大丈夫なんじゃないでしょうか?」
ああ、そういえばそんな便利機能がついたやつがいたっけな。すっかり忘れてたわ。
「というわけでお前、このフロアでは物理障壁で罠からみんなを守る係な?」
「いやー、それはちょっと難しいんじゃないですかねえ」
と、リュクサンドールはあいまいに首を傾げた。見ると、その頭には矢が刺さっている。
「なんだその頭の矢?」
「ついさっき、そこの壁に寄りかかったら変なボタン押しちゃったみたいで、飛んできたんですよ」
「いや、なんで普通に頭に刺さってんだよ。物理障壁どうした。夜なら自動で出るんだろ、お前」
「はあ。今は出が悪いみたいです」
「出が……悪い?」
レジェンドの物理障壁にそんなのあるのかよ!
「たぶん、さっきトモキ君に魔剣で滅多切りにされたせいだと思うんですよね。あれで、僕の物理障壁パワーがスッカラカンになった感じです」
「ああ、そういえば」
そんなこともありましたね……。
『ネー? ワタシ、めっちゃ仕事してるデショ? めっちゃカロリー使っちゃってまあ』
そうね、うん。一応はロイヤルクラスのこいつの物理障壁パワーとやらを一瞬でゼロにするんだもんね。正直やりすぎだよね、クソが。
「じゃあ、お前、闇の翼で防御はできないのか?」
「僕の闇の翼は基本的に他者の敵意に反応して動くので、罠のような意志のないものには反応しないんですよ」
「そう……」
なんだこのかゆいところに手が届かない微妙なスペック。こいつやっぱ、夜でもがっかりレジェンドじゃねえか。
ああでも、頭に矢が刺さっても普通に会話できてるし、何やっても死なない男には違いないんだよな。つまり……。
「じゃあ、お前、今から一人でこのフロアを一周して、罠全部起動させてこいよ」
そうそう。死なないこいつが罠を全部踏めば何も問題ない。
「え? それだと僕、全部の罠に直撃されることになっちゃうんですけど? 痛いんですけど?」
「お前は死なないんだから、別にいいだろ。これもみんなの安全のためだ」
「いやですよ、そんなの! 呪術で痛いのは慣れてますけど、呪術以外で痛いのって、ただ損なだけじゃないですか!」
くそ、ゴミ魔剣ごときに物理障壁封じられたがっかりレジェンドのくせに、猛烈に反発しやがって。どう考えても、これがベストなやり方だろうがよ。
しゃーねえな。ここは適当にうまいこと言っておくか。
「わかった。お前が今、俺の言うこと聞くんなら、俺もお前の望みを聞いてやらん事もない」
「え? もしかしてトモキ君、次の新月の夜に僕の呪術の研究につきあってくれるんですか?」
「ああ、その件については前向きに検討してやる」
検討だけだけどな、あくまで。フフ……。
「そうですか! それだったら、ここの罠を全部起動させるぐらいどうってことないですよ! ちょっとひとっ走りしてきますね!」
「あ、見つけた罠のポイントにはこれ貼っとけ」
俺は道具袋からマジックアイテムの蛍光シールを出し、リュクサンドールに渡した。やつはそれを受け取ると、すぐにその場から歩き出し、さっそく罠に引っかかって死んだ。まあ、一瞬で復活してまた歩き始めたわけだが。
「トモキ様、本当にこのやり方でよかったんでしょうか? なんだか先生がかわいそうです」
やさしいユリィはその様子を見て眉根を寄せるが、
「いいんだよ。あいつはマジで何やっても死なないんだから」
俺は軽く笑い飛ばした。なんせあいつは、三十日は毒で死に続けても大丈夫らしいからなあ。
「……トモキ、先生本人が納得していることだし、俺はこのやり方に異を唱えるつもりはないが、お前は本当にさっきの約束を守るつもりがあるのか?」
と、ヤギが尋ねてきた。
「いかにも思わせぶりなことを言っておいて、直前で約束を反故にするのは人として最低なことだぞ?」
「い、いや、ちゃんと約束は守るし!」
というか、ヤギに人として最低とか言われたくないんですけど!
「いいから、俺たちはあいつの仕事が終わるのを待とうぜ」
とりあえず、その場に座り休憩に入る俺たちだった。少し離れたところからは、時折、不死族教師の悲鳴が聞こえた。
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