265
それからしばらく、俺たちはその場でザコモンスター狩りに専念することになった。俺はひたすらゴミ魔剣を振り回すだけの単純作業で、リュクサンドールは完全にルーシアのポケモン状態で、指示されるがままに
やがて、ザコモンスターが枯れたようだった。もう何も寄ってこなくなった。あたりには当然、その屍が累々と並んで……るわけでもなかった。ゴミ魔剣で吸収したり、
「……よし、行くか」
俺は全員無事なことを確認すると、ゴミ魔剣を鞘に戻し、みんなに声をかけた。
と、しかし、その直後、すぐ近くの床に宝箱が置いてあるのに気づいた。そう、いかにも冒険者様に開けてくださいと言わんばかりのデザインの、木でできた箱。
「おお、これは!」
とたんに胸がときめいちゃう俺だった。宝箱なんて見るの、久しぶりだ! いったい何が入っているんだろう。ドキドキするなあ。楽しみだなあ。すぐにそれを開けた――ら、
ガブッ!
と、宝箱に手を噛まれてしまった。
「……なんだ、ミミックかよ」
そうそう、宝箱に擬態して冒険者を襲うモンスターね。アレね。まあ、こんなところに未開封の宝箱なんてあるけないけどさあ。ぬか喜びさせんなよ、クソが。すぐに、そのクソモンスターを手から振り払い、ゴミ魔剣で一刀両断した。ハァ、中身はしょぼくてもいいから、本物の宝箱開けてみたかった……。
「トモキ様、手はだいじょうぶですか?」
と、ユリィがそんな俺のそばまで駆け寄ってきた。
「ああ、これぐらいどうってことないぜ。ちゃんと柔道の受け身を取れたからノーダメージだ」
柔道の受け身は万能なんだなあ。
「本当に? 見せてください」
ユリィはそっと俺の右手をつかみ、顔を近づけまじまじと見つめ始めた。そのあたたかい手の感触が急に伝わってきて、俺はとたんに気恥ずかしくなってきた。
「な、なんだよ。大丈夫だって言ってるだろ!」
どうしてこいつのスキンシップは毎回不意打ちなのか。思わず手を引っ込めてしまった。
「そうですね。怪我なんてどこにもないきれいな手でした。トモキ様相手に余計な心配でしたね」
ユリィはほっとしたように俺に微笑みかけた。うう、相変わらず、笑うとすごくかわいいなあ、こいつ。ますます顔が熱くなってくる。
それからすぐに、俺たちはそこを離れ、さらなる地下へと続く階段を探した。一階から地下に降りる階段はこの階層で終わっていたので、違うところに階段があることは間違いなさそうだった。
ちなみに、なぜこんなめんどくさい構造になっているかというと、
「この建物は地下二階からは一般の人は立ち入り禁止だったみたいなんですよ」
と、この遺跡についてあらかじめ下調べしていた呪術オタが言うのだった。なるほどな。だから階段がつながってないんだろう。
「で、地下二階とやらは、何目的のゾーンだったんだよ?」
「宝物庫だったらしいです」
「ふーん?」
まあ、いまさら何か宝が残ってるとは思えんが。さっきの宝箱だってミミックだったしなあ。やがて俺たちはその地下二階へ続く階段を発見したので、そのまま下に降りた。目的のモンスターはよ出てこい、と、思いながら。
地下二階に降りてみると、そこは地下一階までと違ってあまり荒れてなかった。おそらく人やモンスターの出入りが少ないんだろう。
「おい、ネム、例のモンスターはここにいるのか?」
『いや、もっと下ですかネー』
「まだ地下があるのかよ」
俺たちがさっき降りてきた階段はこのフロアで終わっていた。さらに違うところに地下三階への階段があるのだろうか。とりあえず、それとザックを探したほうがよさそうだ。俺たちはそのまま適当に通路を進んでいった。
「おーい、ザック、いるなら出てこーい!」
ドラクエ風の縦列隊列の先頭で俺は叫んでみたが返事はなかった。ここにもいないのか。さらに下にいるのか。それとももう死んで返事ができない状態なのか。めんどくせえな、もう。
と、そこで、俺の足元の床板がごりっという音を立て、下にズレた。
この感じは――、
はっとして、あわてて上体をそらした。直後、俺の上体がさっきまであったところに、矢が飛んできた。
「あ、言い忘れてましたけど、このフロアは宝物庫なので、外部からの侵入者対策の罠がたくさんあるらしいんですよ」
と、リュクサンドールはのん気に言う。
「そういうことは先に言え!」
まあ、俺ならあんな矢、当たってもどうってことないけどさあ。罠に引っかかるのって普通にいやじゃないの!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます