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俺たちはそれからトレジャーハンター協会に戻り、ザックを新規ハンター登録してやった。これから一緒に行動するんだからまあ当然だ。そして、手続きを終えると、ザレの村を出て、再びトレハンという名の狩猟採集に向かった。
まあ、相変わらずモンスターを狩るのは俺一人で、残りは沼で採取活動だったが。そもそも、ザックなんてもやしっ子はモンスター狩りに連れて行けるわけないし、ユリィとヤギを二人きりにしないためだけに仲間に入れたんだからなあ。
モンスターからの素材集めは昨日と同じく順調に進んだ。ゴミ魔剣はやはりトレハンに使う分には、ゴミどころか神装備だった。まあ、こいつはもともと剣としての性能もチートなんだよな。性能は、な。
やがて日も暮れかけ、素材を集め終えた俺は沼に戻った。昨日と同じく、俺が帰った時にはヤギたちはすでに採取活動を終え、少し開けた場所で焚火を囲んでいた。
ただ、昨日とは違って、ユリィはヤギにもたれかかって寝ておらず起きていた。俺はほっとした。やはりザック氏の新規加入が奏功したか。
だが、すぐに違う不安もわいてくるのだった。
「……なあ、まさかお前たち、今日もベルガド冬虫夏草とやら見つけてたりする?」
そう、今日こそは、俺のほうが稼いでいたい。俺の方が上でありたい。みんな相手にマウント取りたい。そのためにはやはり超高額買取り素材の有無は一番気になることであった。
「ああ、すみません。今日は見つけられませんでした」
ユリィが申し訳なさそうに俺に言った。
「ふーん、そっか。残念だなあ」
と、答えてみたものの、内心はすごくほっとしていた俺だった。よし、今日こそは俺の勝ちで間違いなさそうだな。俺の圧倒的な稼ぎにひれ伏せ一般人とヤギども!
「あ、でも、今日はこれがあるんです」
と、そこで、ユリィは近くに置いていた籠を指さした。見ると、その中には魚がたくさん入っていた。みな、とれたてという感じでまだ生きているようだ。
「ザックさんが沼に電撃を流して集めてくれたんです」
「やり方を教えてくれたのはユリィだけどな!」
と、ザックは得意げに言う。すでにユリィとは気軽にタメ口を利ける仲になっているようだ。ぐぬぬ。
しかも、お得意の電撃魔法でこんなにお魚をゲットしたんですって! 晩御飯おかず代節約に貢献とか、何気に女子の好感度稼ぎまくりじゃねえかよ。このチビ、意外と有能な奴だったか。
「ま、まあ、その漁のやり方をユリィに教えたのは俺だし? 俺だし? 実際に使ってもらえて俺としてもうれしい限りだし?」
つとめて余裕ぶってこう答えた。
と、そこで、魚がいっぱい入った籠の隣に、小さい籠が一つ置かれているのに気づいた。見ると、そこには地味な色の小さなカニが一匹入っているだけだった。
「ああ、トモキ様、それは買い取ってもらう素材として集めたものですよ。食べちゃダメです」
「こいつはベルガドモクズガニって言うんだぜ。珍味だし、けっこういい値段で売れるはずだぜ」
ザックがまた得意げに言う。
「へえ、こんなカニがねえ……」
見た目はどこにでもいそうな地味な色のカニなんだがな。まあ、食材ならどうせたいした買取り額にもならんだろ。俺はすぐにそのカニのことは忘れて、集めた魚をみんなで食べ(ヤギは草食ってただけだったが)、そこで一夜を過ごした。
その夜、ヤギのお布団を使うのはよりによってザックだった。少し前までレオはザックには同性の同級生にしか見えなかったはずなのに、このなつきよう。やはりヤギの見た目には人間の警戒心を緩める効果があるようだな。もふもふだしな。俺はユリィが特にヤギに異性としての魅力を感じたわけではなさそうで、その光景にほっとした。
やがて翌朝、俺たちは再びザレの村に戻り、集めた素材を道具屋に持って行った。今回こそは、俺がモンスター狩りで集めたぶんのほうが、ぬくぬく採集活動してた連中のものよりも高額になるはず! はず!
……と、思っていたわけなんだが、
「こ、これは!」
道具屋の店主のおじさんは、俺たちが差し出したベルガドモクズガニを見るなり、ひどく驚いたようだった。
「これはまさに最近ではめったにお目にかかれない、超高級食材のベルガドモクズガニ! ここでの買取り価格は二百万ゴンスだよ!」
「なん……だと……!」
こんな小さい、地味な色のカニが、そんなに高い値段で売れちゃうのかよ!
「ちょ、ま……おかしいでしょう、いくらなんでも! なんぼ高級食材いうたかて、カニなんて殻ばっかりで、そうそう食べるところなんてあらへんのに、そんな値段で買取りとか、ただのぼったくりやないか!」
動揺のあまり謎関西弁になってキレてしまった俺だった。
「いや、この値段であっているよ。ベルガドモクズガニは別名、食べる宝石とも呼ばれる超高級食材だからね。最近は乱獲で数が減っていて、めったに市場に出回らないこともあって、価格が高騰しているんだ」
「た、食べる宝石……」
なにその、ドラクエのモンスターみたいな別名。
「そういうわけだから、ぜひこのカニを買い取らせておくれ!」
「おう、いいぜ!」
と、俺を差し置いて答えたのはザックだった。ただ、ユリィとヤギも無言でうなずいているようだ。
「そ、そうか。まあ、そんな破格の値段で売れるなら、特別に売ってやらんこともないが?」
さすがに俺もこう言うしかなかった。内心では、そのカニをすぐに沼に放してなかったことにしたかったわけだが。
しかも、
「このカニを見つけたのは、ザックさんなんですよ。すごいですね」
と、ユリィがザックを褒めたたえているではないか。ぐぬぬ……。俺がいないところでユリィの点数稼いでんじゃねえ、クソザコチビがっ!
結局、その日の売り上げも、俺が集めたぶんより、採取チームが集めたぶんのほうが上回った。まあ、総額約三百万の買取りで、カニ以外はほとんど俺の稼ぎなんだがな。俺の!
たった二日のトレハンで懐は大いにあったまったし、喜ばしい限りではあるが、このまま狩猟採集生活を続けていていいのだろうか。二度あることは三度あるだし、俺、このままじゃユリィにいいところ見せられずに終わる可能性も……?
と、悩んでいたそのとき、一人の男が店に飛び込んできた。
「おじさん、
どうやらそれは俺たちと同じようにトレジャーハンターで生計を立てているやつのようだった。
「モンスターにやられて? はて?」
店主のおじさんは首をかしげる。
「確かお前さんたちは、例の遺跡に行ったはずだよな? あそこはそんなに危険なモンスターが出るような場所じゃなかったはず――」
「それがいたんだよ! 超強いモンスター! 物理障壁も展開してたから、ありゃ間違いなくレジェンドだ!」
なんと、こんなところにレジェンド・モンスターがいるんですって!
これはもしや、戦うことしか取り柄のない俺にふってわいた千載一遇のチャンスなのでは? そう、まさに俺がユリィの前で最高に輝けるチャンス!
「おい、その話、少し詳しく聞かせてくれ」
俺はその男の肩を叩き、尋ねた。
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