245
やがて俺たちは元の浜に戻った。当然、戻る前にユリィは学校指定の水着を着てしまった。さよなら俺のおっぱいの谷間。
浜に行ってみると、またリュクサンドールとルーシアの姿が目に入ってきた。すでにリュクサンドールは水着姿に着替えさせされていた。海パンではなくぴちぴちのブーメランパンツだ。それがあの女の趣味か……。
また、ルーシアはそのブーメランパンツ一枚の男の背中に何か塗っているようだった。聞き耳を立ててその会話を聞いてみると、どうやら塗っているのは不死族専用の日焼け止めらしい。高価なものだそうだが、たまたま手に入ったらしい。いや、どう考えてもこの男のためにわざわざ用意したんでしょう、ルーシアさん。
背中を塗り終えると次は前ということになって、リュクサンドールが自分で塗ると言ったが、
「いえ、先生は呪術以外のことは何かにつけて仕事が雑なので、私がやります。塗り忘れがあっては大変ですからね。念入りに!」
ルーシアは日焼け止めを手放さなかった。結局そのまま、その男の全身を舐めまわすように日焼け止めを塗り続けるのだった。俺もあんなふうにユリィの体に日焼け止めを塗りたいなあ……。
と、そのときだった。
「きゃあっ! 誰かー!」
湖の方から女子生徒の悲鳴が聞こえてきた。何事だろう。見ると――イルカが生徒たちを襲っているようだ!
しかも普通のイルカとは違って、目が赤く光っている。顔つきも凶暴そうだ。なんだあのイルカは?
「あれはベルガドイルカの
と、すぐ近くにいたセレナ先生の分身の一体が言った。
「ベルガドイルカの……ドクオ個体って?」
「ベルガドイルカは雄一体、雌複数のハーレムを作るんだけど、ハーレムを作れなかった負け組の雄は群れて凶暴化し毒を持つの。それがドクオ個体」
「へえ……」
なんか妙に切ない説明だった。とりあえず、すぐに湖に入って、そのベルガドイルカのドクオ個体とやらを彼方へぶん投げ、近くの生徒たちを助けた。
「ありがとうトモキ君!」
「助かったー!」
「あんな怖いイルカ初めて見たー」
みんな、すがるように一斉に俺にまとわりついてきた。あんなザコでも他の生徒たちには脅威らしかった。まあ、慣れない水の中だしな。
と、しかし、安心したのもつかの間、今度は浜の方から「きゃあっ!」という悲鳴が聞こえてきた。ルーシアの声のようだった。振り返ると――ちょうどリュクサンドールの胴体にドクオイルカの頭部が突き刺ささっているところだった。
「ベルガドイルカは水中から超高速で射出して体当たり攻撃することができるの」
と、近くのセレナ先生の分身の一体が言う。まるでカジキマグロみたいだな。
「あと、群れをつくれなかった負け組の雄だから、いちゃいちゃしているカップルを見つけると最優先で攻撃するみたい」
「なるほど、だからあいつら狙われたのか」
はたから見ると、どう見てもいちゃいちゃしてるようにしか見えなかったもんな。とりあえず、浜に上がってリュクサンドールの体からドクオイルカを引き抜き、殴り殺した。リュクサンドールもすぐ復活した。狙われたのが安い命の男でよかったな。
と、しかししかし、安心したのもまたしても束の間、今度は湖の方から生徒たちの悲鳴が聞こえてきた。見ると、ベルガドイルカのドクオ個体が複数、さらに現れたようだった。
「ベルガドイルカは群れをつくれなかった負け組の雄だから、キラキラした青春の時を過ごしているような若者を見つけると、優先的に襲ってくるの」
と、近くのセレナ先生の分身の一体が言う。
さらに、
「あと、体当たり以外に、口から毒の超音波を発して、精神攻撃することができるの」
「毒の……超音波? 精神攻撃?」
さすが異世界だ。地球での常識が全然通用しないぜ!
「というわけで、みんな逃げて―」
と、セレナ先生は叫ぶが、時すでに遅しだった。みんな、またたくまにその毒の超音波を浴び、一様に暗い顔になってしまった。
「あの超音波攻撃にはベルガドイルカのドクオ個体のいろんなものに対する嫉妬や恨みがこめられていて、当たるとすごく気持ちが鬱々として死にたくなるの」
「そ、そう……」
呪術か何かな? もう説明を聞くのもめんどくさくなってきた。そのまま湖に入り、ドクオイルカたちをボコボコにして倒した。無駄に数が多かったが、近くにいたアーニャ先生とヤギも魔法で援護してくれた。
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