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 それから、ユリィは目の前の黒ヤギに何か癒されたのか、俺をそっちのけでやたらと撫でまくった。そして、黒ヤギも人の姿から本来の姿に戻って野性が目覚めたのか、ユリィから離れるとすぐに俺の頭に乗るのだった。なんでも、久しぶりに俺の頑健な姿を見て蹄が大いにうずいたそうだ。俺は一応、やめろと言ったのだが、やはり登ることに関しては言うことを聞かないヤギだし、ユリィはそんな俺たちの様子を楽しんでいるようなので、あきらめた。


「ふむ。さすが新月の夜の先生にも勝った勇者アルドレイの頭蓋だ。踏むほどに、蹄から力強さが伝わってくるようだぞ!」


 久しぶりの俺の頭頂への登頂なせいか、ヤギのテンションも高めで、俺の頭の上でやたらと足踏みするのだった。相変わらず重いんだが。


 それに、俺を褒めるその言い方にも引っかかるところがあった。俺は確かにあの男に勝ったが、それは俺一人の力によるものじゃない。俺の魔剣にたまたまユリィの魔法の効果が残っていたから勝てたんだ。それで果たして、俺があいつより強いと言えるのか?


 と、ヤギを頭に乗せたままぼんやり考えていると、また客が俺たちのところにやってきた。


「わあ、なんだかトモキ君、すごく楽しそうなことになってますねえ」


 と、いつもと変わらないのん気な口調で言うのは、リュクサンドールだった。噂をすれば影がさす、みたいなもんだろうか。どうやら学院からそのままここに来たようで、教師の制服姿のままだ。俺は休みをもらったのに、こいつは普通に今日も出勤か。さすが女帝様の家畜野郎。


「お前は、いったい何の用でここに来たんだよ?」

「ああ、トモキ君にお渡しするものがあったんですよ」


 リュクサンドールはコートのポケットの中から紙切れを出し、俺に手渡した。見ると、俺宛ての手紙のようだが、差出人は――。


「あ、それは!」


 と、それを見たユリィはぎょっとしたようだった。いきなり俺の手からそれを奪い取ってしまった。らしくないほどの素早い動きで。


「どうしたんだよ、ユリィ?」

「そ、それはそのう……」


 ユリィは両手で手紙をくしゃくしゃに丸めながら、顔を真っ赤にしている。


「それは僕が、ユリィ君からトモキ君あてに預かっていた手紙なんですよ。本当は、処刑の直前に面会に行ったときに、他のみなさんの手紙と一緒にトモキ君に渡すつもりだったんですが、ユリィ君の手紙だけ違うポケットに入れていて渡し忘れていたんです」

「へえ……」


 あったんだ、ユリィの手紙。いったい何が書いてあったんだろう。めちゃくちゃ気になる。


 気になる……が、


「こ、これはもういいんです! いまさら読まれなくても!」


 ユリィは相変わらず恥ずかしそうに手紙を握りしめていて、俺に読ませてはくれないようだ。しかし、そんな顔をされるとますます内容が気になってくるじゃんよ。


「なるほど。そういうことなら、俺の出番だな」


 と、そこでヤギが俺の頭から飛び降り、ユリィのすぐ目の前に移動した。


「そうですね。レオローンさん、お願いします」

「うむ。ありがたくいただくとしよう」


 もしゃもしゃ。あっというまに、俺への手紙はヤギの口の中に消えてしまった……。くそう、俺への手紙なのに、俺を無視して勝手に処分しやがって。


 しかも、


「ふむ。やはり、大切な想いを込めて書かれながらも読まれずに終わった手紙の味は格別だな」


 なんか意味わからん食レポしてるし! さっきの俺の手紙食ってる時は何も言わなかったくせに! 俺だって五時間かけてあの手紙書いたのにさ!

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