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「不審物は、リボンのかけられた小さな箱でした。包み紙はとってもファンシー。ウスラトンカチのリュクサンドール教諭は何の疑問もなくそれを開けてしまったそうですが、中身はなんと毒入りのお菓子だったんですヨ!」
「え、いや、毒入りなわけは……」
ルーシアは急におろおろしはじめた。やっぱりこいつがあのお菓子を贈った張本人だったのか。俺はニヤリと笑った。ネムのやつ、ここでその話を切り出してくるとは、なんという腐れ外道だろう。ルーシアにとってはきっと、誰にも知られたくないことだろうにな。さすが俺のゴミ魔剣様だ。俺にできないことを平然とやってのけるッ! そこにシビれる! あこがれるッ!
「なんの罪もない教諭に、毒入りのお菓子を二度も送りつけるとは、なんと卑劣極まりない行為なのでショウ! ねえ、そこのガールもそう思うでショウ! これはモー、殺人未遂事件といっちゃっていいんじゃないカナー? カナー?」
「そ、そうですね……」
完全に調子づいているネムとは裏腹に、ルーシアは額に汗をにじませ、焦りをあらわにしている。
「実はここだけの話、同封されていたメッセージカードなどを鑑定した結果、すでに犯人は特定されているわけなのですヨ」
「え!」
「うっふ、犯人はこの学院の女子生徒さんでしたネー。名前はなんといいましたかネー? ここでそれを言っちゃうのはその生徒さんのプライバシーを侵害するような気もしますケド、そこのガールはワタシのプライベートなエピソードをさんざん小ばかにしくさったようですし、ワタシとしては、そんな配慮はいらないんじゃないかって気がするんですヨネー? ネー?」
「い、いや、あの……」
「このままぬるっと捜査情報漏洩、しちゃおっかナー?」
「そ、それはやめてさしあげたほうがいいでしょう!」
ルーシアはもはや、完全に追い詰められた袋のネズミだった。
「か、彼女にも何か考えがあって、先生に贈り物をしただけでしょうし。毒入りなのも、きっと何かの間違い――」
「ハア? もしかして、アナタ、事件性はないと主張なさる気ですかい?」
「し、知りません、そんなの! ただ、先生には毒なんて効くはずないし、贈った誰かもそれぐらいはわかってるはずだし……」
ごにょごにょ。ルーシアの言葉の歯切れはかつてないほど悪い。言葉遣いもなんだか子供っぽくなってるし。どんだけ動揺してるんだよ。
「ま、そうデスネー。事件性があるのかどうか、まだハッキリしないところもありますし? ただの好意のあらわれの贈り物だとしたら、ここでその女子生徒の名前を言っちゃうのはかわいそうかもしれませんネー」
と、ネムはニヤリと、また不気味に笑った。
「つまり、ワタシはその女子生徒のプライバシーというものを尊重してあげるわけなのデスネ? なので、そこのガール、アナタも、ワタシのプライベートなエピソードを尊重し、ワタシにスミスとの約束を守らせてやってもいいんじゃないですかネ?」
「そ、そうです、ね……」
ルーシアは苦渋の顔でうなずき、手にしていた絶対安全魔剣を台の上に戻した。
うっふっふ、今度こそ勝った! ざまあないな、クラス委員長様! イキってチート魔剣様にたてつくからこうなるんだよ! 俺は心の底から快哉を叫ぶ思いだった。やっぱり、俺の相棒のネム様、マジぱねえ……。
と、俺が勝利の美酒に酔いしれていた、そのとき、
「うわああっ!」
という叫び声と共に、誰かが、開け放たれていた扉から俺たちのいる建物内に飛び込んできた。
見るとそれは――リュクサンドールだった。しかも、その周りには大量にカラスがいて、カアカア鳴きながら、やつに襲い掛かっているようだった。
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