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 く……! まさか、ゴミ魔剣を使ってラックマン刑事を操ったことがバレたのか?


 俺はフェディニ先生のただならぬ眼光に肝が冷える思いだった。必死に頭をめぐらせ、言い訳を考えた。


 だが、みんなに声が聞こえないところまで来ると、フェディニ先生は、


「トモキ、お前、接待するならもうちょっとうまくやれよ」


 と、言ってきたのだった。


「え? 接待?」

「お前、さっき、ラックマン刑事相手に、あからさまに手を抜いてただろうが」

「え、あ、はい……」

「さすがにアレは失礼だろうがよ。確かに、わざわざ外部からお呼びした人だし、相手の面目を考えると、この場は空気読んで負けてやるのが正解だが、それにしたって、もうちょっとやりようが……なあ?」

「そ、そうですね」


 よかった。ゴミ魔剣のことはバレてないっぽい! ちょっと俺の演技力が足りなかっただけっぽい!


「わかりました。次からはもっとうまく接待プレイします」

「お、話がわかるな。お前ぐらいの歳だと、普通はイキって、自分の腕を見せびらかしたくなるもんなのになー。さてはお前、世渡り上手か!」


 フェディニ先生はガハハと笑って、俺の肩をバシバシ叩いた。豪放磊落でフランクな性格のおっさんのようだった。


 それから、俺たちはすぐにみんなのところに戻った。


「あー、さっきの剣術一本勝負で、トモキが腕を痛めたように見えたので、あっちで調べてみたが、特に問題なかった。みんな、わざわざ時間を取らせてすまん」


 と、適当に言い訳するフェディニ先生だった。


 その後、武術の授業は無事に再開する――はずだったが、


「先生、今の勝負、俺にもやらせてくれ!」


 突如、チビのツッパリ、ザックが先生の前に飛び出してきた。その右腕にはやはり包帯が巻かれ、首からつるされている。


「いや、お前は見学でいいだろ。その腕――」


 と、フェディニ先生が、右腕の包帯を指さした途端、


「ハッ、勘違いしちゃいけねえぜ、先生! これはケガなんかじゃねえ。俺の中の闇のチカラを押さえるための封印なのさ!」


 ザックは威勢よく答え、右手から包帯を取り始めた。するする、すーるすーる、っと。なんだこいつ、これから邪王炎殺黒龍波でも使う気かよ? チビなところだけかろうじて被ってるが、お前、どう見ても、連載初期のザコ臭しかしないほうの飛影だろうがよ。


「おい、ザック。痛みはなくても、脱臼はクセになるんだぞ。いいから、お前は、おとなしく腕に包帯巻いて見学してろ」


 フェディニ先生は床に散らばった包帯を拾ってザックに差し出すが、邪気眼スイッチ入っちゃったザックは当然それを無視した。そして、近くの台から絶対安全魔剣を取り、いきなり俺に向かって斬りかかってきた!


「おおおおっ! 食らえ、俺の必殺――」


 と、続けて何か技名を言いたかったのだろうが、俺たちは、それがどういうものかは聞けずに終わった。その直後、ヤツは、自分のズボンのすそを踏んでしまい、派手に前に転んでしまったからだ。ボンタンみたいに、制服のズボンをふわふわに改造するから……。


 しかも、転んだだけではなく、


「ぐあああっ! 指がっ! 俺の指があああっ!」


 なんと転んだ拍子に、左手の指を痛めたようだ。右手で左手を押さえながら、悶絶し、床をごろごろ転がっている。


 な、なにこの、超カッコ悪い自爆……。


 一連の流れがひどすぎて、さすがに笑うよりもドン引きしちゃう俺たちだった。


「あー、こりゃ、突き指しちまってるな」


 フェディニ先生はザックのほうにしゃがみ込み、冷静に言い切った。


「ほら、ザック。立て。保健室行くぞ」

「うう……」


 フェディニ先生に肩を担がれ、ザックは青い顔で立ち上がった。


「そういうわけなので、ラックマン刑事、すみませんが、しばらく生徒たちをみてやってくれませんか」

「イエーッス。ワタシに全部おまかせでオールオッケー、ティーチャー!」


 ネム in ラックマン刑事は、大げさな身振りでフェディニ先生に敬礼しながら答えた。二人はそのまますぐに外に出て行ってしまった。


 というか、この状況……ネムに生徒たち全員丸投げかよ?


「アッハ、というわけで、これからワタシが、てめーらウジムシどもを徹底的にシゴいちゃうZE! 泣き言たれるクソの口には、ケツの穴からほじり出したモノホンのクソをねじ込んじまうから、覚悟しやがれってんでい!」


 ネムはなんかノリノリだ。


 うう、悪い予感しかしねえ。というか、なぜこんな目つきのおかしい男にすべてを丸投げしてしまったんだ、フェディニ先生……。

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