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「ああ、そうでした。武術の指導に入る前に、自分からみなさんにお知らせがありました」


 と、ラックマン刑事は、懐から紙切れを一枚出し、生徒たちの目の前で広げた。


 見るとそれは、ハリセン仮面の手配書だった。ただ、今日のは懸賞金の額が、三千五百万ゴンスに増えている!


「あ、なんか懸賞金が増額してますね、刑事さん」


 おっさん先生もすぐにそれに気づいた。名前は確か、フェディニ先生だっけ。


「はい。自分たち警察は、今、血眼になってハリセン仮面の行方を追っています。懸賞金の増額は、そのやる気のあらわれなのです! みなさんも、何か逮捕につながりそうな有力な情報がありましたら、ぜひ、警察にご一報ください!」


 ラックマン刑事はまた威勢のいい声で言う。あくまでただの広報活動だとは思うが……、クソッ、なんて居心地が悪いんだ!


 また、さらに、


「実は、自分からの若い皆さんへのお知らせは他にもあるのです。これは、まだ公にはなってないことなのですが、被害者たちの目撃証言によると、ハリセン仮面はどうも、十代くらいの少年のようなのです!」


 なんかとんでもないこと言っちゃってるんだが!


「え、なんでそんなのがわかったんですか、刑事さん?」


 フェディニ先生が尋ねる。


「ヤツの立ち居振る舞いから若い感じがしたそうなんです!」

「そうなんですか。しかしあなた、そんなのここで話してもいいんですか? 捜査情報漏洩じゃ?」

「オフレコ、と、四文字の言葉を言えばいいそうです!」

「あー、はい。そうですね。オフレコで頼む、ですね。みんな、この話は黙っておくようになー」


 フェディニ先生は、実にやる気なさそうにラックマン刑事のフォローをした。


「つまり、ハリセン仮面というのは、異常に武術の能力の高い、十代くらいの若い男だと絞れてきているわけです! そこで、自分たち警察は、とある秘密兵器を導入したであります!」


 と、ラックマン刑事は再び懐から何か取り出した。見ると、それは――大きめの虫メガネ?


「実は、このレンズを通して見た人は、武術の数値にあわせて色が違って見えるのであります! 武術の数字が低い人は黒っぽく、高くなるにつれ赤くなるのです!」


 なんと、サーモグラフィのような仕組みで、武術の数値の高さが一目でわかるものらしい……。


「つまり、刑事さん。このレンズで若い人たちを見て回って、そこから武術の数値が異常に高い者を見つければ、そいつがハリセン仮面の可能性があるということですかね?」

「はい! すでにいろんな場所で、このレンズを使った捜査は始まっています! ただ、さすがにハリセン仮面相当の武術の数値を持つ若者は、まだ見つかってないみたいです!」

「でしょうね。つか、あなた、また捜査情報ダダ漏れじゃないですか」

「オフレコです!」

「あー、はい。聞かなかったことにしときますね」


 と、フェディニ先生は適当な感じで言うが……、俺は、内心生きた心地がしなかった。なんという、効率的で無駄のない捜査方法だろう。もしかして、今この場でそのレンズを使われたら、俺、終わっちゃうんじゃ?


 と、おののいていると、


「せっかくですし、ここでも使ってみるであります!」


 ラックマン刑事、いきなりそのレンズ越しに俺たちを見始めたんだが!


 そして、直後――、


「な、なんすか、この異常に赤い光――ぬわっ!」


 レンズはボンッ!という音とともに爆発し、砕けてしまった。


「なぜいきなり壊れるのでありますか! 魔科捜研の開発チームによると、勇者アルドレイの生まれ変わりの少年でもスキャンしない限り、絶対に壊れないという話だったのでありますが!」


 ちょ、なにその「象が踏んでも踏んでも壊れない筆箱」みたいなキャッチコピー! 魔科捜研ってのもなんだよ! 休日にリッツだかルヴァンパーティーだかしてるような女が科学捜査してるのかよ!


 いや、今はそんなツッコミをしている場合ではない……。


「確か、あっちを見たとたん、急にレンズが異常反応したっすね?」


 ラックマン刑事は俺のいるほうを指さした。いかにも訝し気な表情で……。

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