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「てめえ、トモキとかいったな? いい加減、全部タネ明かししやがれ!」


 ザックは俺をにらみながら、再び怒鳴った。


「タネ明かしってなんだよ?」

「アァン? てめえ、この期に及んでまだすっとぼける気か? さっきてめえが小刀から出して見せた真空の刃のことだよ。どうせ何か魔法を使ったんだろうがよ」

「え、俺、魔法なんて使えないけど?」

「なん……だと……」


 ザックはとたんに驚きで目を丸くした。


「て、てめえ! 何ふざけたこと言ってるんだよ! それじゃまるで、てめえの腕の力だけで真空の刃を出したみたいじゃねえか!」

「まあ、そうだが――」

「バ、バカなこと言ってんじゃねえ!」


 ザックは今度は驚きながらキレはじめているようだった。しかし、俺はそこまで驚かれるほうが逆に驚きだった。だって、この技、開発したのは、まだ冒険者としてはそこまでレベル高くなかったころだったはずだしな。攻撃力もしょぼいしなあ。


「だ、だいたい話がおかしいだろ! そんな木製の小刀じゃ、真空の刃は出せないって、さっきてめえ、先生に話してただろ!」

「あ」


 そういえば、そんなふうに小細工してたっけ、俺。


「いや、これは実は金属製でな。ぱっと見は木製に見えるように、ちょっと塗料使ってただけなんだわ。ほーれほれ、指で強くこすると塗料がはげて、この通りー」


 しこしこ。俺は小刀を指でこすった。しこしこ、しこしこ……。


『アッハイ、テクスチャー変えればいいデスネー。メタリックな感じに?』


 と、ゴミ魔剣もすぐに空気を読んで、形や大きさはそのままに、木製っぽい見た目から、金属製っぽい見た目に変わった。


「……なるほど。金属製の刀なら、物理的に真空の刃を出すこともできそうね」


 そばで俺たちの会話を聞いていたアーニャ先生も納得したようだった。


 しかし、


「ふ、ふざけるな! 使った武器の材質がどうだろうと、それでてめえが魔法を使ってないって証明にはならねーんだよ!」


 ザックはますます激昂したようだった。なんだこいつ、さっきから? イチャモンしつこすぎだろ。


「ザック君、落ち着きなさい。トモキ君がなんの魔法も使ってなかったってことは、私もはっきり確認したわ。さっき言ったでしょう、一連の動作から魔法の力を感じなかったって」

「で、でも、先生、それじゃまるであいつ――」

「そうよ。非力なザック君には信じられないだろうけど、トモキ君は間違いなく、腕の力だけで真空の刃を出したんだわ。なんでも、彼は昨日、あの勇者岩を素手で壊したそうだし、それぐらいのことはきっと簡単にできるのでしょうね」

「なん……だと! ヤツはあの岩を素手で!」


 ザックはますます驚き、ますますあらぶったようだった。昨日の俺の恥ずかしい武勇伝は知らなかったらしい……。


「あ、あの岩は確か、理事長の付与魔法エンチャントで、サイコーに固くされていたはず! それをてめえは素手で!」

「いや、俺が壊したとき、その付与魔法エンチャントはもう切れてたからね? あれ、もうただの岩になってたからね?」


 と、俺はあわてて言い訳するが、


「あら、何を言ってるの、トモキ君。あの岩にかけられた付与魔法エンチャントは、あと五百年は効果が持続するようになっていたはずよ。なんせ、あの理事長の魔法だもの」


 アーニャ先生がいきなり真実を暴露しちゃってるんだが!


「な、何を言ってるんですか、先生! 俺は確かに昨日、そういう話を理事長から――」

「やだ、それきっと何かの聞き間違いよ。だって、あの三年五組って私が担任やってたクラスだったのよ。私も理事長と一緒にあの岩の制作に立ち会ったんだんだから、ちゃんと強化の付与魔法エンチャントはバキバキのバキに超強力にかかってるはず――」

「し、知らんですよ、そんな話!」


 やめて! 魔術担当の先生という絶対的な立場から、俺の嘘を暴くのはやめてぇ!


「え、じゃあ、あの岩を素手で壊したトモキ君って……」


 とたんに、周りの生徒たちがざわつきはじめる。ざわざわ。


「確か、あれって勇者アルドレイ様でもないと砕けないように強化されてたんだっけ?」

「じゃあ、それを砕いたトモキ君はやっぱり……」

「いや、もしかすると、例の凶悪犯のほうかも……」

「いくらなんでも強すぎる……」


 うう! 俺が昨日うやむやにした疑惑が、再浮上してるんだが! 三組の生徒も巻き込んで!


「てめえ……。あんな真空の刃を魔法もなしに出したことといい、いったい、何者だ!」


 ザックは俺を指さし、激しく追求してきた。

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