110
「う、嘘だ! 俺の知っているエリーは、お前みたいに口の悪いババアじゃなかったぞ!」
「誰がババアだ、クソ勇者が!」
ババアの理事長は俺をギロリとにらんだ。俺の知っているエリーに比べると、口だけではなく、目つきもめちゃくちゃ悪くなっているようだった。
「てめえが死んでから十五年にもなるんだ。そりゃ、アタシだって変わるさ。いつまでも若いまんまじゃないんだよ」
「いやでも、ちょっと変わりすぎだろ。お前、昔はもうちょっと愛想よくて、やさしい感じだっただろ?」
「ああ、あの当時は、そういうキャラだったからね」
「キャラ?」
「相変わらず頭の回転が悪い男だね。本性はどうであれ、若い女がああいう感じにニコニコしてりゃ、男受けもいいだろうがよ」
「まさか、演技してたってことか? 気立てのいい女っぽく装って」
「当たり前だろ。冒険者稼業なんて、ただでさえリスクまみれのヤクザな仕事なんだ。ちょっとでも周りの好感度上げといたほうがいいに決まってんだろ。幸か不幸か、アタシは別に美人でもなかったからね。ああいうふうに媚び媚びでも、同性の嫉妬は買わずにうまくやっていけたし」
「そ、そう……」
全部打算で生きてたのね、この女。仲間の俺にも本性見せずに、欺き続けて……クソがっ!
「お、俺は、お前のことは評価しているつもりだったんだぞ! あのクソエルフと違って、お前の
「なんだっていうんだい? ちゃんとアタシは
「う……」
そうよね。こいつ、性格はどうであれ、冒険者仲間としては極めて有能でまともだったよね。
「いや、でも、そのう……。周囲を騙して生きていくのは、よくないと思いますよ?」
「だからこうして今は本音で語り合ってるじゃあないか。何か不満があるのかい?」
「え、あ、はい……ないですね」
なぜ俺は十五年ぶりに再会した仲間に論破されているんだ。おかしいだろ、俺の勇者人生。
「それはそうと、あんた何しにこんなところに来たんだい? まさか編入早々、理事長であるアタシにあいさつに来たってわけでもないだろ?」
「ああ、実はだな……」
かくかくしかじか。卒業制作だという勇者岩(この略称でいいのか?)をぶっ壊してしまったことを正直に話した。
「あの岩を素手で? あっは、相変わらず頭悪いことしでかすねえ、あんたは!」
エリーはとたんに爆笑してしまった。なんだこのリアクション。怒られないのはいいが、これはこれでむかつくんだが?
「エリー、俺だって別に、わざとやったわけじゃないんだぜ。てっきり、ただの岩だと……」
「まあ、そうだろうね。実際あれは、そのへんで拾ってきたただの岩だしね」
「本当か? だったら強化魔法ってのもかかってないのか?」
「かかってるさ。そこは卒業制作としての体裁ってもんがあるからね。それはもうバキバキに」
「そ、そうか……」
やべーな。そんな岩を素手で壊すところをルーシアたちに見られちまったぞ。
「まあ、やっちまったことはしょうがないさ。あんなのはしょせん、ただの手抜きの卒業制作だし、適当に破片集めて元の形にくっつけとけば、めんどくせー処分はナシにしてやるよ。あんたとアタシの仲だしね」
「本当か! サンキュー、エリー!」
「修繕にかかる費用は、そこの昼行灯の間抜け教師の給料から天引きだよ」
「う……」
リュクサンドールはたちまち苦しそうに顔をしかめた。ああ、コイツ、ただでさえ給料少ないんだっけ。悪いことをしてしまったな。
と、そこで、ユリィが何かに気づいたようだった。
「理事長、あれはなんですか?」
エリーの後ろを指さして、尋ねる。見ると、その視線の先にあるのは――剣? そう、エリーの背後に一本の剣が飾られていたのだ。
それも、俺にとっては、とても見覚えのある……。
「お、お前! それ、俺が昔使ってたやつじゃねえか!」
そう、それこそまさに、かつて勇者アルドレイ様が愛用していた魔剣そのものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます