59
「うおおおっ! 食らえ、新勇者稲妻キーック!」
新しい機械の体を手に入れ、バリアに吹っ飛ばされなくなった俺は、さっそくバジリスク・クイーンの頭に向かって飛び蹴りをはなった。
当然それはバリアによって防御されたが、それはもはや想定内だった。すぐに空中で身を反らしバク宙して、少し後ろに着地し、再びバジリスク・クイーンに襲い掛かった。拳を強く握り締めて。
「どりゃっ! 食らえ! 火中天津甘栗拳のような北斗百烈拳のようなペガサス流星拳のような、新勇者乱れ撃ち拳!」
ようするにただのパンチの連打だ! そして、それらの一撃一撃は当然、バリアによって防御された。だが、それこそまさに、俺たちの狙い通りだった。そう、こんなふうにバリアをやたらと使い続けていれば、いつかそれも枯れるに違いないからな。
「どや? バリアの反動ないやろ? イケるやろ?」
と、マオシュの声が聞こえた。俺の首にまたがっているはずだが、俺は今、白いロボと体の感覚が完全にシンクロしているらしく、その声は、頭の中に直接語りかけてくるように、遠く響いて聞こえた。でも、ゲロ臭いのは相変わらずだった。嗅覚はコックピットの俺の体に置き去りで、シンクロしてねえのかよ。
「ああ、攻撃しても吹っ飛ばされないってのはいいな。でも、なんで反動がないんだ? この機体にはレジェンドのバリアを弱める力でもあるのか?」
「いや、バリアを弱めとるわけやないで。攻撃の反動自体は普通に発生しとるはずなんや。ただ、ワイの開発した特殊な緩衝材で、それを打ち消しとるんや」
「特殊な緩衝材か。よくわかんねえが、スゲーな」
「せやろ? ワイ、やっぱ天才やし? いくらでも褒めてーな」
マオシュは実に得意げだ。ついさっきまでボロ雑巾のように転がっていたくせになあ。
「いわば、この機体は、魔剣が作れんワイなりに開発した、対レジェンド用の秘密兵器なんや。ただ、まだ未完成で、バリアの反動を相殺する以外、たいしたことはできへん。攻撃の決め手がなんもないんや」
「なるほど、未完成ってのはそういうことか」
「それにな、ここだけの話、内部のバッテリーがちょっぴり衝撃に弱いねん。ヘタすると、爆発するねん」
「え」
なにそれ怖い。褒めて損したわー。はよリコールしろ。
「なーに、あくまで、ちょっぴりや。アルが大事に、丁寧に扱ってくれれば、それでええんやで?」
「大事に、丁寧に、ってなあ……」
この状況でそれはさすがに無理ってもんだぜ。こうやって、話をしている間にも、目の前の緑色の大トカゲは鬼気迫る勢いで、俺に襲い掛かってきているのだ。今はその攻撃をよけつつ、バリアで防がれると承知のうえで、反撃しまくるしかなかった。うおおっ! バリアよ、とっとと剥がれろ!
「ねえ、もしかして、あなたは、私のバリア能力が尽きるのを待っているのかしら?」
と、そこで、バジリスク・クイーンはにやりと笑った。
「え……べ、別にぃ?」
口笛を吹きながら、すっとぼけるしかない俺だった。こいつ、爬虫類のくせに鋭いな、ちくしょうめ。
「言っておくけど、いくらやっても無駄よ。私なら、何万回と、物理障壁を展開することができるんだから」
「え、万単位なの?」
そんな、ほぼ無限じゃないですか、やだー。
「アル、あいつの言葉に騙されたらアカンで。確かに、体力万全のレジェンドなら、65535回くらいはバリアを使えるはずや。せやけど、今のあいつは、三つあるライフを二つ失って崖っぷちの状態や。バリア能力だって、たいして残ってないはずやで!」
「マジか」
「ほんまや。現に今、効いてないアピールしてきたやろ? わざわざそんなこと言うてくるってことは、ほんまは効いてるってことの証拠や!」
「なるほど」
確かに、本当に俺たちのやっていることが無駄だったら、それをわざわざ言う必要はないな?
「そうとわかりゃ、全力で行くぜ!」
バッテリーが爆発する前にな! 俺は再びバジリスク・クイーンに殴りかかった。この拳が、いつかバリアを破ってくれると信じて!
だが、そのとき――突然、俺は脚が動かなくなった。
「な、なんだこれは……」
下を見ると、俺の脚(正確にはロボットの脚だが)は、接着剤でも使われたかのように、石畳の床にぴったりとくっついて、持ち上がらなくなっているようだった。誰だ、ここにアロンアルファ撒いたのは!
「それは同化の魔法よ。あなたの乗っているカラクリの脚は、今、床と一つになっているということなの。だから、動けないのよ。床なんだから」
バジリスク・クイーンはそんな俺をあざ笑いながら言った。
「魔法? まさか、てめえの仕業か?」
「ええ。勇者様と一緒に楽しくエクササイズしながら、こっそり仕掛けておいたのよ。どう?」
「こっそりすぎるだろ……」
魔法使ってるそぶりとか一切なかったんですけど! そもそもトカゲモードで魔法が使えるって聞いてなかったんですけど! さすがはロイヤル。崖っぷちでも、一筋縄ではいかないってことか。
「勇者様には魔法が効かなくても、そのカラクリには効くんじゃないかと思ったのだけれど、正解だったわねえ。まさか、こんなに簡単に動きを封じられるなんて。ちょっと作りが粗雑すぎるのではなくて、このカラクリ?」
「おい、マオシュ、ダメ出し食らってるぞ」
「せやな。魔法耐性の強化は今後の最重要課題やな」
「今後なんてあるのかよ! この状況で!」
と、話している間にも、バジリスク・クイーンはじわじわとこっちに迫ってきていた。とっさに腕を動かし、抵抗しようとしたが、また何か魔法を使われたのだろう、それも動かなくなった。
「さて、どう料理してあげようかしら? せっかくの極上の食材だし、おいしくいただかないとね」
やがて、バジリスク・クイーンは、俺たちの乗っているロボットにぴったりと巻きつき、ゆっくりと締めはじめた。さながら、コブラツイストならぬ、バジリスクツイストだ。機体のあちこちから、みしみしといやな音が響いた。
「おい、マオシュ! このままだと俺たちやられちまうぞ! 緊急離脱だ!」
「いや、そんな機能、これにはないで?」
「なんで! スイッチ一つでぽーんと外に飛び出す装置とか、普通用意してるじゃん!」
「せやから、さっき言うたやん? これ、まだ未完成やって」
「未完成過ぎるだろ!」
さっきついうっかりこのキツネを褒めた自分を殴りたい。使えないにもほどがあるだろ、このポンコツ!
「ああ、そうだわ。このまま、カラクリごと丸焼きにしてあげましょう」
という声が聞こえたとたん、俺たちの乗っているロボットはバジリスク・クイーンごと業火に包まれた。あ、熱い! 熱すぎるう!
「勇者様のカラクリ包み焼き、どんな味かしらねえ」
「スズキのパイ包み焼きみたいに言うなあっ! あ、あつっ!」
やべえ。このままだと、本当においしく調理されてしまうぜ! キツネと一緒に! 早くコックピットの壁を破って脱出しないと……って、この状況でいまだにシンクロ率100パーで、意識がコックピットの俺の体に戻れないんですけど! なんだこのポンコツ、空気読んでとっとと意識を俺の体に返しやがれ。あと、やっぱゲロくさい。ゲロの焼けるにおいも臭い。こんなにおいの中で、焼け死ぬのはいやだあっ!
しかし、そのとき――何かがものすごい速さでこちらに駆けてきた!
「え……」
その人物は一本の剣を携えており、迅雷のような速さで、バジリスク・クイーンに斬りかかった。バジリスク・クイーンはとっさに俺たちから離れ、その直撃を避けたが、尾の先端を切り落とされてしまった。
「お、おま、なんで……」
俺は自分の目を疑った。その人物とは、よく見覚えのある、目つきのおかしい銀髪の男だったからだ。まだ三十分たってないのに、どうしてこいつは復活してるんだ?
「フフ……レジェンド、それもロイヤルクラスの登場とあっては、ワタシも黙って封印されているワケにはいかないですヨ? そんな極上の獲物、百年に一度、食えるかどうかですからネ!」
目つきのおかしい銀髪の男こと、ネム in ザドリーは、口からよだれを垂らしながら高笑いした。
そして直後――口を大きくあけたまま、ゲロを吐いた……。
「お前も吐くのかよ!」
もうやだ、このゲロくさい戦闘。俺もなんだか吐き気がしてきた。
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