18

「おい、そこの無駄に年食ってるだけのロリババア。こういうとき、どうすりゃいいんだ? 教会とかにもって行くべき案件か? それとも大学とか? この世界の病院に魔剣外来とかあったっけ?」

「さあね。自分で何とかしなさいよ。自分の問題でしょ」

「わたしは悪いことではないと思いますけど。旅をする上で、剣は何かと必要になるでしょうし」

「ヤダヤダ! 俺、こんな剣ヤダー!」


 ごろごろ。いらだちのあまり、床を転がっちゃう俺だった。ごろごろ、ごろごろ。


 と、そのときだった。誰かが俺たちのいる部屋の扉をノックした。


「あの、トモキ・ニノミヤ様にお会いしたいという方がお見えで……」


 女将の声だった。でも、客って誰だろう? 俺はとりあえずふてくされモードを解除し、扉を開けて出た。


 すると、


「トモキという名の少年はこちらか!」


 と、廊下の向こうから、見覚えのあるおっさんが怒涛の勢いで近づいてきた。また、さらに後ろからは、数人の兵士たちが、あわてたようにおっさんに駆け寄ってくる。


「はあ。俺はトモキですけど?」

「探しておったぞ! 我が街を救った勇者よ!」

「救った? ああ、そういえば、さっきのアレかー」


 なんかその場の流れででかい魔物を一匹倒したな。そういえば。よく見れば、このおっさんも、昨日、あの領主の館で会ったし。態度からして、領主なんだろう。特に名乗った覚えはないけど、俺の名前はユリィとの会話をそばの兵士が聞いてて知ったのかな。


「あの後大丈夫でしたか? 兵士の人たち、バタバタ倒れてましたけど」

「問題ない。けが人はいるが、死んだ者はいない。これも、トモキどののおかげだ」


 おっさんは、感謝の微笑とともに力強く俺の肩をつかんだ。後ろの兵士たちも、「ありがとう、少年!」「勇者トモキばんざーい!」とかなんとか、騒ぎ始める。


「そうですか、無事ならよかったです」


 ぶっちゃけこういうノリは勇者アルドレイのときにイヤというほど経験してるので、うっとうしかった。いくら感謝されても元の世界に帰れるわけじゃないしな。


「そこで、私としては、貴殿に褒美を授けようと思う」

「褒美? 金とか? いや、それは別に――」


 そばのクソエルフの目がきらっと光るのを確認しつつ、すぐにお断りした――が、


「その手の褒美も、ささやかながらももちろん用意している。だが、私が用意できる一番の褒美は、近く王都レーナで開催される武芸大会への推薦状だ。どうだ、うれしかろう? 並みの剣士ではまず出場できぬのだぞ」

「武芸大会? トーナメントっすか?」


 なにそれ? そんなめんどくさそうなのに出られる権利がご褒美だなんて、ちょっとおかしいんじゃないの。


「いや、そういうの俺、興味ないんで」

「何を言う。貴殿なら、かなり上位にまで食い込めると思うぞ。そして、それはとてつもない名誉なことなのだぞ」

「名誉って言われてもなあ」


 一度、アルドレイのときに、そのパラメータ、カンストしたしなあ。その後、バッドエンドだし、俺の人生の幸福に意味なさ過ぎ無駄ステ過ぎだろ。


「やっぱいいです。俺、他にやることあるんで。お金だけもらいます」

「そうか? 残念だな……。貴殿なら、優勝候補のアルドレイの息子を倒せるかもしれぬと思ったのにな」

「え」


 俺は一瞬耳を疑った。このおっさん、また何を言ってるの。


「あの、今の言葉、もう一度リピートしてもらえますか?」

「ああ、ここ最近のレーナの武芸大会では、毎年のように、アルドレイの息子、ザドリー・バーンハウツという青年が優勝しているのだ」

「ア、アルドレイの息子?」


 意味がわからない! 俺、死ぬ前に子供作った覚えないんですけど!


「そ、そのザドリー君は、本当にアルドレイの息子なんですか?」

「ああ。アルドレイ財団の理事長にして、アルドレイ研究第一人者、ルルカン大学、オールソン教授のお墨付きだ。間違いない」

「またその謎組織、謎人物かよ!」


 うそだ! そいつはあの剣と同様、過去の俺の名前を利用している真っ赤な偽物だぁ!


「すみません、さっきの話、取り消してもいいですか。武芸大会への推薦状、やっぱり欲しいです」

「おお、そうか! 出てくれるか!」

「はい、ちょっと一発殴らなきゃいけない人がいるみたいなんで……」


 俺はまぶたを怒りでぴくぴく痙攣させながら、拳を硬く握り締めた。

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