16
「そうか! もしかして、これか!」
俺はとっさにユリィの手からゴミ魔剣を叩き落とし、さらに蹴り飛ばして遠くにやった。
すると、たちまち、
「あ、あれ? 智樹様、わたし……」
ユリィは正気を取り戻したようだった。瞳のハイライトも戻っている。
「お前、今自分が何したか、覚えてないのか?」
「何って……ああっ!」
ユリィは足元に転がっている真っ二つに割れた球を見て、ぎょっとしたようだった。
「修理が終わったばかりなのに、何があったんですか!」
本当に何も覚えてないらしい。
「何って、そりゃ、お嬢ちゃんが割ったんじゃないか……」
店主も突然のことにかなり戸惑っている様子だ。
「え、わたしが、これを壊して……」
「いや、やったのはお前じゃない。たぶんアレだ」
俺は隅っこに蹴り飛ばしたゴミ魔剣を指差した。
「なんだかよくわかんねえが、あれはやばい。きっと、あれのせいで、おかしなことをしたんだと思うぜ」
「そ、そうなんでしょうか?」
「そうに決まってる! つか、なんであんなもん置いてるんだよ、この店は!」
俺は店主の親父をにらんだ。店主は俺の剣幕に一瞬びくっと肩を震わせた。
「なんでって言われても、だいぶ前に客が置いていって――」
「いや、その説明は昨日聞いたから! どう見てもヤバイもんだぞ、あれ! なんでもっと早く捨てなかったんだよ!」
「わ、悪かったよ。あれはちゃんと責任を持ってうちで処分するよ」
「ゼッタイだぞ!」
俺はこれでもかと強く念を押した。本当に、あの剣は心底気持ち悪いと思っていたし、とっととこの世から消えて欲しかった。
「よし、じゃあ行くぞ、ユリィ」
そのまま風のような速さでユリィとともに店を出た。一刻も早くゴミ魔剣から遠ざからなくてはいけない気がした。
だが、一緒に道を歩いているうちに、次第にユリィの足取りは遅くなっていき、ついには立ち止まってしまった。どうしたんだろう。振り返ると……ユリィは目に涙を浮かべてうつむいていた。
「お、おい、なんだよ、急に?」
「だって、わたしのせいで、召喚の球はまた壊れて……」
どうやら、ユリィはさっきのことをめちゃくちゃ気にしているようだ。
「お前のせいじゃない。あの剣は本当になんかおかしいんだ。俺は昨日からずっとそう感じてた。だから、お前は何も悪くない。気にするな」
「でも、智樹様と違って、わたしは簡単に剣の影響で正気を失ってしまいました。そんな自分がなさけないです。わたし、一応、魔法使いなのに、あれが危ない魔剣だって全然気づかなかった……」
「いいんだよ。あの店主のおっさんだって気づいてなかったんだから。あっちはその道のプロだぞ?」
どうやら、ユリィが日頃抱いている魔法使いとしての自信のなさが、落胆を加速させているらしい。めんどくさいなあ、もう。俺はユリィの背中をぽんぽんと叩き、「お前は悪くない」とか色々言って、必死に慰めた。
「ありがとうございます、智樹様」
やがて、落ち着いたようだった。ユリィは指で涙をぬぐい、顔を上げた。俺はほっとした。俺たちは再び並んで歩き出した。
だが、女神の後れ毛亭に戻ったところで、俺は再び壮絶に不愉快な思いをすることになった。そう、俺がちょうど自分の部屋に戻ったとき、突然、開けたままの窓から、ソレは部屋の中に投げ込まれてきたのだ……。
「うわあっ!」
俺は思わず悲鳴を上げてしまった。まさにそれは、さっきあの親父に処分を押し付けた、ゴミ魔剣だったのだから。
そして、それを部屋に放り込んだのは、数羽のカラスのようだった。俺が呆けている間に、カアカアと鳴いて、どこぞへ飛び去ってしまった。な、なんなの、これ? なんで勝手に戻ってくるの? わけがわからないよ……。
「ちょっと、何急にでかい声出してんの。うるさいんですけどー」
と、ティリセが不機嫌そうな顔で部屋に入ってきた。まだ隣の部屋で寝ていたようで、ぼささぼさの寝癖頭に、ネグリジェ姿だ。また、ユリィも何事かと思ったのか、一緒に来た。
「ユリィ、見ろよ、これ……」
「え、なんでここに?」
ユリィもびっくりしている。
「なんか知らんけど、ついさっき、カラスがここに持ってきて――」
「ふうん。またやっかいなもの拾っちゃったわね、あんたも」
と、ティリセは何か物知り顔でにやりと笑った。
「お前、何か知ってんのかよ、この剣のこと」
「たぶんね」
ティリセはふとゴミ魔剣に近づき、手をかざした。そして、何か魔法、おそらくは鑑定系のものを使ったようだった。手のひらうっすらと光り、すぐに消えた。
「なるほどねえ。こりゃ逃げられないわー」
ティリセはますますニヤニヤしはじめる。
「だから何なんだよ。この剣のこと知ってるなら教えろ」
「一つ言っておくけど、これ、剣じゃないわよ」
「え? どう見ても剣ですけど?」
「剣に擬態してるだけよ。これはつまり、そういうモンスター」
「もん……すたぁ……だとぅっ!」
なんだと! 斜め上の真実すぎる。
「正確には寄生生命体ね。いかにも使える剣のふりをして、あんたみたいなやつに自分の食料の獲物を狩らせるのが、こいつらの目的。どう、心当たりはない?」
「そういえば……」
これを使って一太刀浴びせただけでレジェンドが消し飛んだな。あれは、この剣に食われたってことか?
「ま、普通は寄生されても気づかれないんだけどね。単なる使い勝手のいい剣だし。何より、気づかれないように、他の生物の精神に干渉できる能力があるから、こいつらには」
「精神に干渉……」
俺ははっとした。そうか、そのせいでさっきユリィはおかしくなったのか。
いや、ユリィだけじゃない。今ここに剣を運んできたカラスたちもそうだ。剣に操られているに違いない。あの店主だってあやしいもんだ。厳重に処分しろって俺に言われた矢先に、カラスにそれを奪われてるんだから。
「あんたさ、もしかして、この剣のモンスターに超気に入られたんじゃないの?」
「え」
「だから、カラスを使ってここまでやって来たんでしょ。あんたと離れたくなかったんでしょ、この子は」
「ええええ」
ちょ、突然、何言うの、クソエルフ。こんな気持ち悪い剣――に擬態した魔物に俺が超気に入られた? イミワカランデスヨ……。
「俺はただ、そのゴミでデューク・デーモンに止めを刺しただけだぞ。他に道具なかったしな」
「へえ、レジェンド食べさせてあげたんだ。ごちそうじゃない。気に入られるわけだわねえ」
「だから、やむをえずだ!」
俺はさすがにイライラせずにはいられなかった。俺としてはこの目の前にある魔剣は生理的に受け付けないブツなんだ。それが、俺を追いかけてこの部屋まで来るとか、不快極まりないってもんだ。
「こんなもん、ぶっ壊してやる!」
ばきっ! ゴミ魔剣を渾身の力をこめて叩き折った――が、直後、それは何事もなかったかのように元の形に戻ってしまった。
「壊しても無駄よ。元はスライムとかと同じ軟体生物なんだから。すぐ元の形に戻るわよ」
「ふんっ! なら、思いっきり遠くに捨ててやる!」
俺は近くの窓を大きく開け、槍投げの要領でそれを空の彼方へ投げた! どぉんっ! それはロケットのように轟音とともに飛んでいった。
「よし、街の外までは飛んでいったな。これだけ遠くに飛ばせば……」
さすがに大丈夫――そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。
それから約十分後……。
「これ、お客さんの落し物でしょう? さっき、旅の人が届けに来たわよ」
女神の後れ毛亭の女将のおばさんが、俺の部屋に届けに来た物は、さっき俺がハイパー投擲で街の外まで投げ捨てたブツでした。つか、リターンはやっ!
「つまり、これ、捨てても捨てても俺の手元に返ってくる仕様なの?」
「そうみたいねえ」
ティリセは相変わらず面白がっている様子だ。
「いや、それってもう、ただの呪いのアイテムじゃねえか!」
手放したくても手放せないって、なあ! 俺は頭が痛くなってきた。
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