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「本物じゃなくて、残念です……」
ウーレの街の通りを並んで歩きながら、ユリィは重くため息をついた。心底がっかりしている様子だ。そろそろ日没というころで、空はオレンジ色で、あたりは薄暗くなりつつあった。
「でも、本物だからって、どうだって言うんだよ。実物はあんな綺麗じゃないし、見ても別に楽しいもんじゃないぞ」
「そんなことないです。本物にはきっと、本物にしかない輝きがあると思うんです!」
「そ、そう?」
前からうすうす思っていたが、なんかユリィって昔の俺のことを過大評価してるフシがあるような?
いや、それはもしかして、この世界に生きるすべての人々がそうなのかもしれない――と、ふと近くの屋台に視線をやった。ワッフルの屋台だ。しかし、なぜか「アルドレイワッフル」という名前で売っており、一つ一つのワッフルに俺の顔っぽい焼印が押されている様子だ。なぜ、勝手に俺の名前と顔で商売してるんだ、この店は。しかもそれなりに人だかりが出来ていて繁盛してるし。
「あ、智樹様のワッフルが売ってますよ。すごいです」
「いや、俺は知らんし」
「わたしたちも買って食べてみましょうよ」
ユリィは一人で屋台に走っていった。あいつ、金持ってないくせに何やってんだ。あわてて後を追い、勢いでそのままワッフルを二つ買ってしまった。店の看板には、俺の顔の似顔絵らしきものが描かれていた。本物のアルドレイ君とはまるで似てない、妙にイケメンな顔立ちだった。あのニセモノの剣といい、適当すぎるだろ、かつての俺の扱い。
「おいしいです、ワッフルの智樹様」
「変な言い方は止めろ。それじゃ、俺が食われてるみたいじゃねえか」
もぐもぐ。歩きながらワッフルを食べる俺たちだった。確かにうまかった。三時間も待たされた後だからかな。
「お、そうだ。ティリセのところに戻る前に、あの球を直せそうな店を探そうぜ」
「今からですか? でも、これ以上ティリセ様を待たせていいんでしょうか?」
「いいんだよ。どうせあいつエンドレスで酒飲んでるだけだろうし」
俺たちはさっそく、それっぽい店が並んでいる通りに向かった。大きな街なだけに、マジックアイテムを取り扱う店は多いようだった。
だが、
「うーん? これはちょっと難しいねえ」
どこへ行ってもこんな返事で修理を断られてしまった。なんでも、かなり高度な技術で作られているものらしい。
「そこをなんとか、直せないですか?」
とある店で、俺は魔化職人のおっさんに嘆願した。すると、
「そうだねえ。せめて、濃縮された魔力の源のようなものがあれば……」
よくわからんことを言われた。そんなもん持ってるわけないし。
と、そこで、店の奥から弟子らしき若い男が「親方、これどうします?」と言いながら出てきた。その手には剣を握っている。鞘に入ったままだが、見たところかなり薄汚れていて、ボロボロだ。
「これか。うーん、どうしたもんか……」
親方のおっさんは弟子からそれを受け取ると、俺たちの前で刀身を鞘から出した。錆だらけだった。
「あ、それってもしかして魔剣ですか?」
ユリィがふと、たずねた。親方は「一応ね」とうなずき、剣を鞘におさめた。
「二ヶ月前に、ここに持ち込まれたんだよ。元の使える状態に戻してくれってね。うちは魔化鍛冶もやってるんだ。でも、不思議なことに、何をやっても錆は消えなくてね。しかも、持ち込んだ人間はいつになっても取りに来ない。うちとしては、もう処分するしかないってところだよ。ただ……」
「ただ?」
「なんかこう、感じるんだ。これは捨ててはいけないような……」
「何だそれ?」
意味がわからん。こんなボロボロの剣、ゴミそのものじゃねえか。俺はふと手を伸ばし、その剣に触れた――と、とたん、全身に悪寒が走った!
「うわっ!」
思わず後ろに飛び上がった。
「どうしたんですか、智樹様?」
「い、いや、別に……」
なんだったんだろう、今の。すごくいやな感じだったぞ。
「ユリィ、そろそろティリセのところに戻ろうぜ」
「あ、はい」
俺たちはそのまま早足で店を出た。
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