相合い傘

烏神まこと(かみ まこと)

1.

 クラブ活動の帰り。今日は昼からどしゃぶりの雨が降っていた。天気予報を見ていたママが持たせてくれた青い傘を差して友達のカズキを待つ。

 ここは近所で有名なネコ屋敷の前だ。ネコ屋敷といっても、洋風のお屋敷ってわけじゃない。単にネコが多く出入りしてる古びた家だ。長方形の石でできた塀にびっしり苔が生えてたり、外から見える白いカーテンが少し日に焼けてたりする。


「遅いなあ」


 傘を少し持ち上げて空を見ようとすると、顔に雨粒が勢いよく飛び込んできた。わずかに見えた空は濃い灰色で不安になる。

 あんまりモタモタしてると日が落ちて、もっと暗くなるのに。街灯の少ないこの道を夜中に歩くのは苦手だ。家までほとんど一本道だけど、道中は砕石の敷かれた駐車場とボロボロのアパートが並んでいるくらいで夜まで開いてるお店もない。


「カズキのやつ、また忘れたのかな」


 カズキは約束をよく忘れるやつだ。何度も放課後の遊びの約束を忘れるから一度絶交しようとしたこともある。絶交だって言ったら僕の手を握って、鼻水を垂らしながら泣いたからやめたけど。あいつは僕と友達をやめたらたぶん仲良しがいないんだと思う。それもたぶん忘れっぽいからだ。


「だとしたら、もう帰ってるよな」


 そう思ったら、ただ突っ立って足元を濡らしていることがバカらしくなってきた。


「早く帰ろ」


 早く帰ってママのご飯ができるまでゲームがしたい。動画配信主のさじ太がやってたやつ。パパにねだってようやく買ってもらったところなんだ。

 離れようとしたそのとき、雨の音に混じって、やけにハッキリとペタリ……ペタリ……って音がした。

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