第5話  金満パーティ

 旧文明の遺跡ストフィ・シティ――


「なんだ、それ?」


 トールも初耳の遺跡の名に、思わず問い返す。

 エミライアは双子にも目を向け、首を横に振られてから説明を始めた。


「ここから北方にある山脈の中心地にある遺跡じゃ。山脈をくりぬいたトンネルで行くことができる。ストフィ・シティとその周辺にたむろする魔機獣は軒並みAランク相当じゃ」

「Aランク相当? そんな危険な遺跡なら聞いたことくらいありそうだが」

「箝口令が敷かれて久しい。二百年は誰も立ち入っておらぬじゃろ。そこは太陽聖教会が総本山としていた都市なのじゃ」

「……あぁ、そういうことか」


 クラムベローでベロー家当主から聞いた話では、太陽聖教会は吸血鬼に対抗するべく、旧文明時代に興った宗教だ。

 ほぼ形骸化していたその太陽聖教会が実力のある冒険者を勇者と祭り上げて何かを企んでいるとの話があった。

 加えて、エミライアの反応である。


「百里通しのファライが勇者にでもなってるのか?」

「察しが良いな」

「配役ミスだろ。あのド陰険が勇者とか」

「正確には勇者の仲間、じゃな。勇者役には太陽聖教会の現教主の孫がついている。こちらも実力は確かじゃ。光剣のカランという、序列四十位の冒険者じゃ」

「聞いたことないな」


 あまり序列を気にしていないトールは聞きなれない名前に肩をすくめた。


「何で攻略なんてしてほしいんだ? それと、なぜあんたが直接出向いたり、吸血鬼の連中に頼まない?」


 トールの確認にエミライアは胸を持ち上げる様に腕を組み、宴を振り返った。


「ストフィ・シティには太陽聖教会の創始者が書き上げた始教典が安置されている。それを勇者共に先んじて回収し、我の元へ届けてほしい。我は結界の維持のためフラウハラウを離れることができぬ」

「吸血鬼たちが行かないのは?」

「ストフィ・シティは太陽聖教会の総本山じゃ。対吸血鬼用の遺失魔法ライジングサンなどの文献が残っておる。勇者連中にそれを使われては吸血鬼はひとたまりもない。くわえて、ストフィ・シティにはサンルームと呼ばれる構造をはじめ、対吸血鬼用の罠がいくつも仕掛けられておる。デイウォーカーでもあの環境で魔機獣との戦闘を行うのはちと苦しい」


 ユーフィが質問したいと、手をあげる。


「あの環境、ということは出向いたことがあるんですね、その遺跡」

「旧文明がまだ健在の頃に、ちょいとちょっかいを掛けに行ったことがある。あの頃は魔機獣もおらず、刺激的なテーマパークみたいじゃった」

「て、テーマパーク……」


 仮にテーマがあるとすれば『吸血鬼絶対殺すパーク』だったはずだが、エミライアは近所の公園について語るような口ぶりだった。


「太陽聖教会側も始教典や遺失魔法の回収を狙っておる。今までは回収に人を派遣して失敗の繰り返しじゃったが、今回は顔ぶれが、な」

「そんなに凄腕が集まっているんですか?」

「凄いぞ? 序列五位Aランクパーティ金城、序列十九位、百里通しのファライ、序列三十二位、俯瞰のミッツィ、そして勇者にして序列四十位、光剣のカラン」


 トールが頭を押さえた。


「なんて金満パーティだ」

「序列五位ってトールさんより上じゃないですか」

「俺より上どころか、実質的に全冒険者のトップだ。序列一位はギルド創始者に充てて永久欠番だし、二位は権限の問題で現職のギルドマスターがつく。三位、四位は冒険者の犯罪を取り締まるための専門組織がクランの形をとることで与えられている」


 魔物や魔機獣と戦う現場の冒険者としては、序列五位は最高位である。


 序列五位、金城は要人の護衛を主とした活動で名をはせる三人組と事務方二人のAランクパーティであり、ギルド支部長が一堂に会する会合では警備の統括を任せられるほか、魔機獣の生産施設を攻略後、一か月に渡る調査期間中に魔機獣の猛攻をしのぎ切って調査活動の補佐を行うなど守りに重点を置いた活躍が目立つ。


「百里通しに俯瞰がついてるってのも、うんざりするな」


 序列三十二位、俯瞰のミッツィ。Bランク冒険者で三番目の序列であり、ソロで活動する凄腕の冒険者だ。

 戦闘能力はさほど高くないものの、エンチャントが他に類を見ないほどに索敵、捜索向きの能力を有する。

 エンチャントした物体を起点に視界を展開する能力と風を生み出す珍しいダブルエンチャントの持ち主であり、上空に物を放り投げて俯瞰視点で物を見たり、風で動かして対象を追跡する。


 狙撃手として活躍する百里通しとの相性は抜群だ。どちらも群れたがらないためパーティを組んでいないだけで、ギルド側は何度もくっつけようとしたいわくつきである。

 これだけの顔ぶれならば、Aランクの魔機獣の群れが相手でも強行突破が可能だ。トールはエミライアを見る。


「それで、報酬は?」

「受けてくれるのか?」

「報酬次第だな」


 トールの返答にエミライアは「ふむ」と頷くと報酬を提示した。


「ストフィ・シティは旧文明の遺跡。異世界から来たおぬしには有益な情報が眠っていることだろう。無事に攻略し、始教典を持ち帰ったなら儂からも情報提供を約束する」


 異世界からこの世界に渡ってきた始祖の一人、エミライアからの情報提供。

 トールが望む報酬そのものだった。

 しかし、同時に双子にとってはメリットが薄い情報でもある。

 トールはユーフィとメーリィを見た。

 視線を向けられた二人はなぜこちらを見るのか分からないといった様子で首を傾げた後、理由に思い至って苦笑し、トールの肩を左右から小突いた。


「私たちに気を使ってどうするんですか」

「こんな機会、もう訪れませんよ。私たちが嫌がるはずがありません」

「そうか。今度、埋め合わせるよ」

「楽しみに待っていますね」


 トールたちのやり取りをほほえましそうに眺めていたエミライアは、話がまとまったとみて口を開く。


「では。ストフィ・シティの詳細についてもう少し話すとしようか」

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