第11話 魔機獣の巣攻略作戦、開始
魔機獣の巣攻略戦当日の朝、集合場所に出向いたトールたちは参加人数の多さに目を見張った。
「都市防衛は衛兵がいるとはいえ、こんなに戦力を出して大丈夫なのでしょうか?」
メーリィが不安そうに周囲を見回す。
攻略に参加する冒険者の数はざっと四十人。後方支援と退路確保を担う冒険者が別に三十人いるという。
ほとんどがBランク以上であり、ロクックと同じくオーバーパーツの装着者も数人参加するようだ。
攻略チームは何組かに分かれて魔機獣の巣に乗り込むらしく、振り分けが行われている。
トールを見つけたロクックがオーバーパーツの腕を振って歩いてきた。
「よう、トール。双子はわかるが、その人は?」
「魔機師のコーエンさんとゴーレムだ」
「あ、あんたがコーエンさんか。お噂はかねがね。俺はロクック、Bランク冒険者だ」
ロクックが握手を求めるとコーエンは差し出された魔機の腕に目を細めた。
「オーバーパーツを使って何年目?」
握手に応じず、コーエンは細めた目でロクックを見つめて問う。
ロクックは苦笑して腕を引っ込めた。
「五年目だけど?」
「そう。あなたが両鉄腕のロクックね」
「なんか目つきが怖いな。そっちのゴーレムは戦闘用? それとも護衛かな?」
ロクックはコーエンの視線に怯んだように肩をすくめ、話題をゴーレムに移す。
「トールさんに評価してもらって、護衛として使うように言われているわ。もともと、目的はアルミニウムや希少鉱石の運搬だからね」
「トールが評価してるなら心配はいらないな。ここの五人で一チーム、目的は魔機獣の巣の最深部だ」
ロクックが地図を広げる。
魔機獣の巣は旧文明の遺跡群の中心地にあるが、面積が広い。四十人、五チームが手分けして各所の重要施設を破壊することになる。
ロクックがチームの破壊目標として指さしたのは魔機獣の巣の最深部にある制御施設だった。
「部品加工場や保管庫、魔機獣の製造施設、調整施設なんかとは違って制御施設の周囲には魔機獣があまり配置されない傾向がある。ただ、無数の固定防衛装置、タレットってやつが設置されているから注意が必要だ」
「タレットの配置は?」
「決まってない。現場にいかなければ分からないな」
状況に合わせた対応方法などを話しあい、トールたちは魔機獣の巣へと出発した。
途中までは街道沿いを歩き、しばらくして道を逸れて森に入る。
手入れがされていない森だが冒険者と魔機獣が日々戦う森だけあってあちこちに戦闘の余波で倒れた木が転がり、地面が抉れている。
最後尾のトールは、双子とコーエンの周囲を固める五機のゴーレムを見る。
「ゴーレムも楽々通れるな」
木々が密になっている場所もあるが避けても魔機獣の巣にはたどり着ける。
先頭を行くロクックが右手を上げて全体に静止を促した。
「左右からくる。どちらも中型だな。左は俺がやる」
オーバーパーツの左腕をまっすぐに左に伸ばしたロクックがエンチャントを発動する。金属製の腕の周囲に白い霧のようなものが発生した。
左右から金属製のたてがみが特徴的な大型の魔機獣が駆けてくる。人の胴体ほどもありそうな四本の脚が地を蹴りつけ、金属のたてがみが風を切ってうなりを上げる。
魔機獣はロクックを視認すると勇ましく吼え、鋭い鋼鉄の牙を見せつけるように牙を剥いて襲い掛かる。
直後、ロクックの左腕から発生した白い霧が爆発的に広がった。
魔機獣の視界が白い霧に阻まれたその瞬間に、ロクックは右腕をすくい上げる様に振り抜く。
魔機獣の顔面を捉えたロクックの右腕は金属の硬さと重さを活かし、重々しい打撃音を響かせる。
「もう一発!」
のけぞった魔機獣の腹部を、ロクックは貫手で突く。魔機獣の腹部を覆う金属装甲を紙のように貫いたロクックの左手は、魔機獣の腹の中をぐちゃぐちゃにかき回した。
「――おお、良い鳴きっぷりじゃん」
絶叫する魔機獣にロクックはニヤニヤ笑い、左手を引き抜くと魔機獣の首を右手で掴み、あおむけに地面へと叩きつける。
痛みにのたうち回る魔機獣を楽しそうに眺めていたロクックは、いきなり興味を失ったように真顔に戻ると、魔機獣の首をへし折って殺した。
血まみれの左手が白い霧にたちまち洗浄されていく。その手には貫手を行った際につかみ取った魔機獣の魔石が握られていた。
「トール、そっちはどうよ。――って、マジか」
同行者に託した右側の魔機獣はどうなったのかとロクックが視線を向けると、双子が槍を振るって魔機獣の尻尾を斬り飛ばすところだった。
トールは構えてもいない。完全に双子に任せるつもりのようだ。
ユーフィとメーリィは無言で、互いの姿を視界に入れてもいない。しかし、まるで踊るように流麗な動作で互いの死角や隙を完全に埋めて魔機獣を圧倒していた。
基本に忠実な型で魔機獣の動きに対応し、片方にしか見えていないはずの魔機獣の予備動作にも二人同時に反応する。無駄のない、ひとつの生き物のようなコンビネーションで魔機獣を挟み込んでいる。
魔機獣は巨大な生き物の腹の中にいるような感覚を覚えているはずだ。予備動作をことごとく看破され、双子のどちらかが必ず死角に入って攻撃してくる。魔機獣よりも機械的な正確性で追い詰められ、なすすべもない。
抵抗を一切許さずに魔機獣の四肢を斬り払い、首と心臓を貫いてとどめを刺したユーフィとメーリィはトールを振り返って揃って胸を張った。
「これで私たちもBランク冒険者」
「トールさんと肩を並べましたよ」
どうだ、と得意げな顔を見せるユーフィとメーリィに、トールは首を振る。
「慎重なのはいいが時間をかけ過ぎだ。今回は仲間がいるからいいが、魔機獣は狡猾で、群れを成す場合は戦略的に行動してくる。戦闘時間は可能な限り短くしろ。だが、立ち回りは良かったし、周囲への注意も怠っていなかった点は評価する。大体、七十点ってところだな」
「評価が辛すぎます!」
「再考を求めます!」
「帰ったら戦闘訓練な」
双子がトールの両腕を掴んで再考を求めるが取り合わず、トールはロクックを見た。
「先に行こうぜ」
「お、おう。というか、その二人もかなり強いのな」
「ちょっと特殊な双子だからな。それより、ロクック、なんでそんなに離れてるんだよ?」
トールは離れた位置に立っているロクックに問いかける。
戦闘は終了しているが、この森には魔機獣が大量に巣食っている。いざというときに連携に支障が出るほど離れるのは感心できない。
ソロBとして活動するロクックは連携を取るのが下手なのかと勘繰るトールに、ロクックは苦笑気味に機械の左腕を叩いた。
「発熱するから、あんまり近寄れないんだ。先を目指そう」
薄らいだ白い霧を左腕を振って払い、ロクックは魔機獣の巣へ歩き出す。
後に続くコーエンが観察するようにロクックを見つめていた。
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