第9話 逆襲の時間

 マリアートの端。

 『魔神教』の人間は村の中央にある教会に戦力が集中しており、村の端には『魔神教』の人間はいなかった。

 代わりにもともと村にいた衛兵えいへいが立っていた。



「……マリアートはどうなるんだ?」


「言うな。歯向はむかわないことが一番だ」



 2人の衛兵は苦渋くじゅうの表情を浮かべていた。

 彼らが『魔神教』に従っているのは、その勢力に立ち向かえないこともそうだが、親などの人質を取られ抵抗ていこうができないのだ。



「おい、そこの2人。来いッ!」



 そこに現れた『魔神教』の鎧を着た男が衛兵を呼んだ。

 衛兵たちはかたね上がらせる。

 『魔神教』の男についていき、路地の裏に入っていく衛兵は小声で話す。



路地裏ろじうらでコイツだけなら倒せるかもしれない」


「……やめとけ。かえちにあったら、タダじゃすまないぞ」


「お前たちはそう言って何もやらないのか?」



 『魔神教』の男の言葉に衛兵たちは動揺どうようして、剣の柄に手を置いた。

 『魔神教』の男は頭から鎧をいだ。



「まだ抵抗する気力はありそうだな」


「……お前は?」


「俺の名前はカイ。君達に連れてこられた捕虜ほりょだ」



 『魔神教』の男に変装していたカイの言葉に、衛兵の一人は驚きの声を上げようとするが、もう一人の衛兵に口をふさがれる。

 カイは2人に語りかけた。



「お前たちには他の衛兵たちと協力してをやってもらいたい。『魔神教』をこの村から追い出す」


「何をすればいい?」


「おい、信じるのか? 俺達をはめるつもりかもしれないぞ」



 カイは衛兵たちを観察かんさつする。

 一人は直情的ちょくじょうてきで、もう一人は冷静れいせいだった。



「大丈夫だ、と言っても信じられないだろうが、このままお前たちに説得せっとくしている時間はない。こっちも脱獄だつごくしてるわけだからな」



 衛兵たちが押し黙ったのを確認すると、カイは転がっていた石を拾って地面に絵をかき始めるのだった。



       ※



「本当にやるつもりなのか? とてもできそうには思えないんだが」


「味方が少ない以上、できる手を打っていかないといけない。正直、成功する可能性は5割だな」


「結構高めですね」



 冷静にツッコむ衛兵の言葉にカイは苦笑した。



「こう見えても腕には自信があるからな。ティアラさえなんとかすれば……」



 ティアラの名前に衛兵たちの顔がこわばる。

 この村が『魔神教』の手に落ちた理由をなんとなくは気付いているのだろう、と感じとったカイは2人に尋ねることにした。



「君達はこんな状況を作ったティアラがにくいか?」


「「……」」



 衛兵たちは黙っていたが、冷静な衛兵が静かに、



「憎いですね。あの子のせいで両親が連れて行かれました」


「おイッ!」



 もう一人が口をふさごうとするが、カイは静かに聞いていたのだった。



       ※



 私は教会の前に立っていた。

 見張りとして立たされていた。

 下手に動けばひどい仕打ちが待っているのは分かっている。

 痛めつけられるのは施設にいたかられていた。

 しかし、痛めつけられる姿は見たくなかった。

 ただ、それだけのこと。



(ちょっと期待きたいしてたけど、ダメだったかしら? あの人達なら何かしてくれると思ったけど)


「……人に……頼っちゃいけない……」


(まさか魔神である私が人間に期待するなんて思いもしなかったわ)



 すると教会の扉が開き、エセ神父が姿を見せた。



「そろそろ行きましょうか。ティアラ君もどうですか? 西では残虐ざんぎゃくな王子、東では無能むのうな王子として有名なカイさんに会いに行こうと思うのですが」


「……行かない……」


「そうですか。それは残念です」



 エセ神父が扉を閉めようとした瞬間。

 


「か、火事ですッ!」



 んできた『魔神教』の男が叫ぶ。

 男が指さした方向を見ると、けむりが上がっていた。

 私は一気に頭が真っ白になる。

 エセ神父は落ち着きながら、



「……フム。ティアラ君が何かやった、そう思っていましたが、その表情を見る限り違うようですね。ですが、数名送れば大丈夫でしょう」


「い、いえ、それが……」



 男が言葉にまると、今度は各地で大規模だいきぼ爆発ばくはつが起こる。

 盛大せいだいに上がった炎が村を飲み込んでいく。



「……なるほど、なるほど。ティアラ君が結界けっかいをはっている以上、外からの侵入者ではないようですね。おそらく衛兵たちが反旗はんきひるがえしたのでしょう」


「アイツらにそんな覚悟、ありますかね?」


「人間という物は追い込まれたとき、何をするか分かりませんからね。そうですよねティアラ君?」

 

  

 きっと私が施設を破壊した時の事を指しているのだろう。

 エセ神父はこの状況でも落ち着いた声で、



「教会を出ようと思っていましたが、予定変更ですね。貴方達は戦力を教会に集めてください」


「いいんですか?」


「火事の上がりどころは村のはし。おそらく、衛兵が結託けったくして行っているとしか思えません。おそらくですが、我々の戦力を少なからず、中央から外すことが目的。それならばここで敵をむかったほうが得策とくさくです」


「ですが、火が回れば逃げ道が……」


「安心してください。こちらにはティアラ君がいます。まずは状況を確認することが先決です」



 エセ神父が命令をとばすなか、私は炎に包まれていく村をただ見つめることしかできなかった。



        ※



「大丈夫なのでしょうか?」


「というと?」



 火事を引き起こした衛兵たちは各地に散らばっていた。

 もし『魔神教』の人間が攻撃を仕掛しかければ、瞬殺しゅんさつされる可能性もあった。



「この方法で上手くいくか、正直、常軌じょうきいっしてるとしか思えません」


「それを分かったうえで、カイって男に協力したんだろうが!」


「それはそうですが……」



 カイの作戦を聞いた衛兵2人はすぐに他の衛兵に作戦を説明し、実行した。

 油をぶちまけた屋根に火をつけ、あらかじめ火がうつらないであろう屋根上から状況を見守っていた。

 事前に村人にはひっそりと村の外に避難させた。

 村の中央近くに住む村人の多くは地下牢にぶち込まれていたので、たとえそちらに火がまわっても被害はないだろう、というのがカイの考えだった。

 そして、作戦を話し終えたカイはすぐにその場を去った。 



「やはり『魔神教』の連中れんちゅうが来ましたか」


「いや、でも……」



 2人が見つめる先には火を消すことを止め、村の中央にある教会に向けて走っていく男たちの姿があった。



「……まさか、ここまで状況が言われた通りに進むと、逆にはめられたのでは、と疑ってしまいますね」


「それにしてもお前が協力するとは思えなかったな」


「自分も驚いてますよ。こんな状況を作ったティアラを怒ってはいます。両親が殺されたら、自暴自棄じぼうじきになっちゃいそうです。それでも、ティアラはあの子と本当に似ていて……」


「見捨てることは出来ないよな。フェルダさんとミレーナさんが引き取った理由も分かってるからな」



 衛兵2人はカイに指示された通り、次の行動に移るのだった。

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