第18話 クロ
セナの話を聞いている間、その場にいたカイ達は一切動かずにいた。
話が終わると、クロがゆっくり口を開いた。
「セナとマルクが1つの身体に……」
「……そうだ」
セナは太ももをおさえながら
「まあ、クロは俺たちが苦しんでいる間に昔の元気な姿に戻っていやがった。そのことを
「……マルク」
そこで、口調がマルクの物からセナの物に変わった。
「私はね。城下でクロの元気な姿を見かけたとき、自分達の努力は無駄だったんじゃないかって、本気で思ったよ。……でもね。それ以上に嬉しかった」
「……セナ」
口調がマルクの物にもどる。
「俺らはミゲルとゲルダからある事を命令された。それが『ギフテルの穏健派の抹殺』、そして『サザンの王女・クロの抹殺』。俺らの意思とは無関係だ」
セナは短剣を構えようとして、それを
「この命令を無視すると、姉さんに激痛が走るんだ。クロと一緒に散歩したときもずっと……、姉さんは我慢していたんだ。これを止めるためにも……」
セナは苦しそうに。
「俺達を殺せ」
セナはクロめがけて走り出した。
※
クロとセナの
セナは短剣を投げつけ、クロはそれを弾く。
「こっちだ!」
セナの回し蹴りがクロの腹にめり込む。
鈍い音とともに地面を何回もバウンドする。
「まだまだ止まらないぞッ!」
「ッ!?」
クロが起き上がろうとしたときには、セナは彼女の頭上にいた。
そして、獣人特有の尻尾でクロを叩き、地面にめり込ませた。
そのまま短剣をクロに刺そうとするが、クロは身体を横に転がし
「クロが反撃しなきゃ、俺達は止まらないぞ!」
クロは一方的に斬られていく。
血が
「俺達が
「……できないニャ」
互いの得物がぶつかり、
「ミャーはセナとマルクを殺したくないニャッ! きっと助かる方法が……」
「そんなものあるわけないッ! あったところで今は俺達を止めなきゃ、オマエの友人にまで手をかけなきゃいけねえ……」
セナがクロのダガーを打ち上げ、回し蹴りを打ち込む。
「ギャッ!」
ノーバウンドでクロの身体が部屋の壁に打ちつけられる。
クロは苦しそうに
「……クソッ!」
セナは立ち止まり、『影縫い』で動けなくなっているカイに近づく。
「結局、リベンジならなかったな。テメエに
セナは握られていた短剣を持ち直し、カイの胸に突き立てようとする。
「ク……ソ……」
カイは口だけ動かすが身体はピクリとも動かない。
「やめるニャアアァアアアアァッ!!!」
崩れた壁からものすごい勢いでクロが飛び出す。
セナは反応に遅れた。今度はクロが突進の勢いをのせた飛び蹴りを繰り出す。
「ゴハッ!!」
セナの脇にクロの足がめり込み、骨の
暗殺者は地面を転がりながら受け身を取った。
「カイ、今、短剣を抜くニャ」
暗殺者がヨロヨロと立ち上がる間にカイの影に刺さった短剣をクロは抜き取る。
「すまない。俺も……」
カイが何か言おうとするのをクロは片手をあげて止める。
「ここはミャーだけで戦うニャ」
セナは立ち上がり、短剣を構えた。
「やっと本気か、クロ。昔は姉さんと2人がかりでも倒せなかったオマエとの決着がこんな形になるとはな……」
「ミャーも負けるわけにはいかないニャ!」
2人が走り出す。互いの刃が交差し、火花が散る。
セナが投げてきた短剣を
「やっぱり反射神経は獣人離れしてるな」
セナは接近してきたダガーを弾き飛ばした。
そのままセナはクロに短剣を振り抜く。
「まだニャ!」
クロは上体を後ろに倒しながら
「グハッ! ……まさか、頭突き……、グフッ」
クロの両肩を掴み、セナは
そして、回転しながら膝をクロの顔面にめり込ませようとする。
クロは顔の前で両腕をクロスさせ攻撃を防いだ。
「クッ! 左腕を持ってかれたニャ……」
骨折したであろう左腕が力なく
その
「これで終わりだ、クロ……。『
「……それを待っていたニャ……」
クロは床に転がっていた短剣を拾い、以前エルメローゼが見せてくれた技を
ダガーの先で魔力の
「ナッ!? どうして俺の『影縫い』が……」
動けなくなったセナに近づいたクロはダガーでいくつもの斬り傷をつけた。
「ガハッ!」
セナの身体から血が噴き出る。
「ミャーの勝ちニャ」
※
クロはセナの影に刺さった短剣を抜いた。
セナは力なく
「まさかクロまでこんなに強くなってたなんてな……ゴハッ」
吐血するセナにクロは近づこうとするが。
「近づくな。トドメまで刺してくれると嬉しかったんだけど」
「そんなことできないニャ。きっと解決策があるはずニャ」
セナの口調がマルクの物からセナの物に変わる。
「優しいね、クロは。でも、私達はもういいの。捕まったら殺されるだろうし、命令が
床に無数に転がっている短剣をクロに投げつける。
「クロッ!」
2人の闘いに入らず見守っていたカイがその短剣を弾く。
「もう命令に逆らい続けるだけの
セナは落ちていた短剣で自身の腹部に突き刺した。
「セナッ!? マルク!?」
悲鳴を上げながら、倒れそうになる暗殺者をクロは抱きかかえたのだった。
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