第14話 カイ・バーサス・アサシン

 以前のパーティーは暗殺者・セナの侵入で延期えんきになった。

 それから2週間がたち、再度開かれることになった。

 ギフテル帝国に入ってくる馬車には東の各地にいる穏健派や過激派の重鎮が乗っていた。

 ギフテル城内でパーティーはもよおされる。

 兵達も見張りについており、城を囲むように立っていた。



「まさか、もう1回開くなんて。裏があるんじゃないだろうな。だが、重鎮じゅうちんの顔は標的と同じだ」



 城の入り口が見えるギリギリの遠さにセナがいた。獲物を虎視眈々こしたんたんと狙っている。

 城の外にはカイ、クロ、ラミア、ティアラ、そして複数の女性がいた。



「キリアの王子、女侍おんなはべらせすぎだろ……。まあ、全員強かったが」



 決して、その女性達がおかざりでないことに以前の襲撃で学んでいる。



「まあ、関係ないか。どれだけ外堀そとぼりを埋めようが、隙間すきまは必ずある」



 セナは詠唱えいしょうを始める。



暗殺者アサシンは闇にまぎれ、その姿を隠す、『不可視インビジブル』」



 セナの姿は闇夜に消えていくのだった。



         ※



 セナは『不可視インビジブル』で姿を消しながら、見張りの兵の間をすり抜けながら、城に潜入せんにゅうした。



(会場は……あそこか)



 その会場に入る重鎮が扉を開くと同時に、暗殺者はすり抜けるように室内に入る。



(コイツら、自分達が殺されるとも知らずに呑気のんきにしやがって……)



 暗殺者は周囲に注意を向ける。



(1人目のターゲットはコイツ……)



 暗殺者は短剣を取り出す。

 流れるように短剣を振り抜き、ターゲットの首を斬り落とした。

 しかし。



った感覚がない……。まさか!?)



 暗殺者は即座に理由に気付いたが遅かった。

 その会場にいた人物達は幻影げんえいのように消えてしまうのだった。



          ※



 扉が閉められた密室のパーティー会場。

 幻影が消えた先、明かりしかない部屋の中央には褐色肌の少女と1人の少年が立っていた。

 カイとクロだ。



「まさか、これが狙いだったなんてな……。気付かなかったぜ」


「クロが考えた案だ」



 セナの前にカイが姿を見せる。

 クロが考えた案は、彼女の『影魔法』の1つ、『幻影イリュージョン』を張ることだった。

 『幻影イリュージョン』、魔力で形成した物を相手に認識させる魔法。

 そして、あたかもパーティーが開かれているかのような錯覚さっかくを起こさせたのだ。

 セナは首をかしげる。



「……ギフテル全土を覆うほどの魔力。クロが保有しているとは思えない」



 『幻影イリュージョン』の影響はギフテル城全体に及んでいた。

 そんな膨大ぼうだいな魔力、クロ一人では絶対に不可能だ。

 カイは腰から剣を抜きながらセナに語る。



「確かにクロだけじゃ魔力は足りない。だから、ある人物にそれを分けてもらった」



 セナも得物である短剣を構えなおした。



「なるほど。『漆黒の魔女』……か。だが、そんなことしたところで、逃走できれば計画はおじゃんだ」


「ウチの魔女は優秀でね。魔力は無尽蔵だ。結界くらい……」



 カイの言葉に答えるように部屋全体を囲むように魔力結界が張られる。



「だけど、テメエに俺が止められるわけ? 前回戦ったときは全員やられたのに……」


「ああ、だからリベンジマッチだ」


「落ち着いているように見えて、けっこう熱いタイプなんだな。嫌いじゃないぜ!」



 セナは短剣を両手に攻撃を仕掛ける。

 カイも剣で激しく応戦する。

 獣人なだけあって、身体能力はカイより数段上だった。



「リベンジとか言っておきながら、その程度かよ!?」



 カイの攻撃を跳躍ちょうやくしてかわしたセナは『魔甲まこう』を足に展開した。



「ハッ!!」



 セナのかかと落としがカイの頭上から迫る。カイはそれを剣で防ぐ。

 セナは空中でさらに身体を回転させ、りを打ち込む。



「クッ!? まさか浮いたまま攻撃を仕掛けてくるなんて……」


 

 カイがバランスを崩したのを見逃さず、セナは短剣を取り出し、カイの足元めがけて投げつける。



「その手にはもう乗らないッ!」



 カイは投げられた短剣を弾き飛ばしていく。弾かれた短剣は床に突き刺さる。

 暗殺者はさらに2本の短剣を投げようとする。



「なら、これはどうだ! 『影移動』」



 カイの影から黒いもやのようなものが出現し、カイの視界が奪われる。

 短剣の軌道上にも別のもやが出現した。

 短剣がもやに入った途端、カイの目の前にあるもやから短剣が飛び出してくる。



(目を狙ってきたか……。『魔甲まこう』を展開しても、目に刺さればタダじゃ済まないな)

 

「カイ、『魔甲まこう』で全身をおおいなさい!」



 カイの真上から放たれた矢が短剣と衝突する。

 短剣は軌道をずらし、カイの左肩に当たる。

 セナは矢の軌道から相手のいる位置を探す。



「風魔法で天井近くにいたのか……。カルバの王女が弓の使い手だったわけか」



 敵の注意がそれた瞬間、カイは走りだす。

 しかし、セナは不敵に笑いだす。



「俺が放った短剣は2本だ。残りの1本は……」



 カイの動きが急に止まってしまう。

 彼の影に短剣が突き刺さっていた。



「……いつ……のまに……」


(視界が奪われたタイミングで別のもやに入れ、俺の影に刺さるように別のもやとつないだのか……)



 ラミアは弓の弦を引く。



「今、短剣を破壊するわ! 『イリュージョンショット』、『必中の矢ホーミング・ショット』!!」


「させるかよッ!」



 彼女の放った矢が分裂し、カイの影に刺さった短剣めがけて突き進む。

 それらをセナは短剣を投げて打ち落としていった。



「カルバの王女、アンタが一番厄介だ」



 セナは部屋の壁をつたって天井を逆さまに走り、宙に浮いているラミアにとびかかる。



「そんなことまでできるの!? キャッ!」



 ラミアは咄嗟とっさに矢を放ったが、セナは身をよじりながらそれをかわし短剣を振り抜いた。

 太ももをられたラミアは床に落下した。



「ウウウウゥゥゥッ!! イッ!?」



 斬られた太ももをおさえながらラミアは苦痛に顔をゆがめる。

 彼女の白い肌が血に染まる。

 セナはラミアの前に立つ。



「アンタはクロの恩人だから、殺しはしねえ。できれば止めてほしかったが」



 セナはラミアから視線を外す。

 カイも『影縫い』によって動けずにいた。



「テメエ、リベンジマッチとか言っておきながら、こうもアッサリやられるなんてな。これではばむ者がいなくなっちまった……」



 セナは肩を落としながら、カイからも視線を外す。



「……クロ、今度はオマエの番だ」

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