第5話 暗殺者

「最近色々なイベントがあったわけだが、ここからが本題だ」


「急にどうしたの? 確かに色んなことがあったのは認めるけど、アナタ、疲れているんじゃないの?」



 エルの正体がばれた次の日の正午、カイは食後に突然口を開いた。

 カイは真剣な顔つきで、



「ラミアとクロに頼みがあるんだ」


「嫌よ、ろくなことじゃなさそうだし」


「そんなこと言っちゃダメニャ、ラミア」


「君達は俺をなんだと思ってるんだ……」



 カイは1枚の紙を取り出す。そこにはとある人物が描かれている。

 黒のローブを深々とかぶり、フードの空いた穴からは獣人特有の耳がとびだしている。顔は全く見えない。



「この絵は獣人かしら?」


「ああ、今ギフテル帝国を震撼しんかんさせている暗殺者アサシンだ」


「暗殺者……、獣人……、もしかしてミャーが関係しているの?」



 カイは気まずそうに一度だけうなずく。

 ギフテル王との会話を2人に話した。



「まさかギフテルから和平を持ち掛けようとしているなんて。カルバが応じるか分からないわね」


「怪しみはすれど、断るとは思えない。今回の件でカルバやギフテルだけでなく第三の勢力が姿を見せたからな」


「ええと、カイの話に出てきた『邪神教』って連中かニャ?」


「ああ、サイラスはその片鱗へんりんに過ぎなかった。そして……」



 人相書にんそうがきを見ながら、カイの言葉に続けるようにクロは沈んだ声で。



「サザンの中にも『邪神教』がいるかもしれないニャ……」


「そうだ。だから、ギフテルはクロには協力してもらうかもしれない」



 彼の言葉にラミアがバンッとテーブルをたたきながら立ち上がる。



「そんなの認められるわけないでしょ! アナタはそんな危険なことを承認しょうにんしたわけ!?」


「いや、クロの意見を優先させるから、こうして話している。こちらとしては協力してもらいたいが」


「どうしてよ!?」



 クロに協力してもらうメリットを話した。

 これはギフテル王・メルクーリと話したことだった。

 カイはうったえるように続ける。



「この暗殺者は見逃すことができない。今回の標的は穏健派おんけんはのリーダー的存在の人ばかりだ。このまま殺され続ければ、穏健派の勢力が弱まってしまうんだ」



 ラミアは今の説明でカイが言いたいことを理解した。



「だけど、他に手があるはずよ! わざわざクロが危険な目にあう必要なんて……」



 テーブルについていたラミアの手をクロは握っていた。



「心配してくれてありがとうニャ、ラミア。でも、ミャーが行かなきゃ、カイの立場も悪くなるかもしれない。それに、サザンについて何か知ることができるチャンスかもしれないニャ」



 クロの前向きな発言に、何も反論できなくなるラミア。

 ラミアの手を握っているクロの褐色かっしょくの手は汗をかいておりふるえている。



「分かったわ。クロがそこまで言うなら。だけど、私もついていくわ」


「何を言ってるニャ!? ミャーだけでも……」


「私もそのギフテルの王に会ってみたいから、そのついでよ。カイ、いいかしら?」


「ああ、かまわない。君達の安全は俺が保障する。それと、クロを危険な目には合わせないよう尽力じんりょくする」



 すると、部屋のとびらがノックされる。

 カイが扉に近づくと、外から女性の声が聞こえた。



「ミネルバです。お邪魔じゃましてもよろしいですか?」


「どうぞ」


「失礼します。カイ様、私も同行させていただいてもよろしいでしょうか?」



 カイがギフテルから戻ってきた後、メルクーリとの話を一番最初に伝えたのはミネルバだった。



「ぜひ頼む」


「人数はどのくらいがいいですか?」


「少人数がいい。あまり目立つといけないから」


「わかりました。私を含めて5、6人を同行させたいのですが……」


「それで頼む。出発は3日後だ」


                

        ※



 3日後の昼頃、2台の馬車がギフテルに向かって出発し、数日が過ぎ、カイ達はギフテル帝国に着いたのだった。

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