第12話 ドラゴンスレイヤー

 ティアラが戦っている間、スーが率いるメイド隊が住民を避難させていた。

 避難先はキリア城の地下にひろがる巨大な空間だ。

 今キリア国民が、そこに向かってなだれこんできていた。

 その中で1人のピンク髪の幼女が声をはりあげる。



「おさないでくださいー、全員入れますので、おさないで下さ……」



 スーは住民の誘導をしていた。

 しかし、人の多さに、低身長だったスーはそのなかに埋もれてしまった。



「た、助けてくださいアァァァァァァィッ!」


「「「す、スーさんッ!?」」」



 他のメイド達もあわてて、列の中にうでを伸ばす。



「スーさん、大丈夫ですか? みんな、スーさんを探して!!」



 メイド隊は住民の長蛇ちょうだの中からスーをかろうじて引き抜くことができた。

 スーはモミクチャにされたのか、目をまわしていた。



「必死にユウドウしても、落ち着く気配がありませんね。めまいがしますゥゥゥー」


「そうですね、私たちも混乱しています。まさかドラゴンが攻めてくるなんて」



 スーをかかえていたメイド隊の1人が不安をあらわにする。

 しかし、スーは彼女を安心させるようにたいらな胸を張った。



「大丈夫ですよ、私がいますからッ! というわけで、ちょっと遊んできますッ!」


「はい、避難誘導は私達に任せてください」



 スーは頷くと、その場をメイド隊にまかせて外に向かうのだった。



         ※



「……クッ……」



 ティアラはなんとかドラゴンの攻撃からキリアを守り続けていた。

 展開された防御結界は無傷だったが、魔力がきようとしていた。

 『英雄の盾ファランクス』が発動できなくなれば、キリアは終わりだ。


 

(よく耐えたほうよね。実際、ドラゴン8体と正面からたたかっていたら、もっと早く負けていたわ。それにしても……)



 避難に時間のかかっているメイド隊にイライラし始めた『レヴィアタン』がティアラの脳内で怒っている。



(まだ避難は終わらないのかしら、は?)


「……しかたがない……みんなパニック……」



 ティアラは苦しそうになりながらも、『レヴィアタン』に返答した。



「……もう少し……頑張がんばる……」



 日が真上にのぼってきていた。

 ここで、ティアラたちにとって最悪なことが起きた。


 もともとドラゴンの真上から魔法を発動していたため、ティアラはドラゴンの視界に入っていなかった。

 

 しかし、太陽がティアラを照らしたことで、ドラゴンの視界に影が映りこんでしまう。

 ドラゴンは上空をにらむと、ティアラに向かって上昇していく。



『グァアアああアアアアアアアアアアアアァァァアアッッッッ!!!!!!』



 ティアラは防御に集中していたため、その接近に気付くのがおくれてしまった。



(ティアラッ!!)



 『レヴィアタン』の叫び声にハッとしたときには遅かった。

 ドラゴンの放った火球がティアラにあたる。

 とっさに『英雄の盾ファランクス』で防いだが、



「……けむりで見えない……」


(上よッ!!)



 爆発で生じた煙をかきわけながら、ドラゴンの巨大な手がティアラに迫っていた。

 防御が間に合わず、攻撃を受けたティアラは勢いよく地面に叩きつけられた。

 ティアラの身体全体から血がながれ、立ち上がることができない。



『グァアアああアアアアアアアアアアアアァァァアアッッッッッ!!!!!!」



 ドラゴンがティアラの目の前におりたち、ティアラを手で持ち上げめ上げた。

 ティアラの全身から血がき出す。



「……ウッ……」



 次の瞬間。



「……!?……」



 ドラゴンの手から力が抜けていくことに気付き、ティアラはその場から脱出する。

 ティアラをつかんでいたドラゴンの腕が地面に落ちた。

 少し遅れて、ドラゴンが咆哮ほうこうを上げた。右腕みぎうでから先がなくなっている痛みから放たれたものだ。



『ギャアァアアァあアアアあァアアァアアアアアアァァァァ!!!!!!』


「うるさいですよ」



 落ちたドラゴンの腕に幼女が降り立つ。

 彼女はその小さな身体と不釣ふつり合いなほどの巨大な剣を片手で持ち上げながら、ティアラに視線だけをよこす。



「遅れて申し訳ありません、ティアラちゃん。このドラゴンちゃんは任せてください」


「……スー……」



 苦しそうにティアラは援軍で来た幼女の名をつぶやく。

 スーは申し訳なさそうに、



「一応、ここに来る途中、1体たおしてきましたが、防御結界が破壊されていました。つらいのは分かりますがもう一度戦ってくれませんか?」



 と、ティアラに頼む。

 ティアラはうなずくと、重傷を負っている身体で立ち上がると、『飛行魔法』で浮かび、キリアに向かった。



「このドラゴンは私が倒しますから、結界をはりなおして時間をかせいでください」


「……わかった……」



 飛びたつティアラをつかまえようと、ドラゴンはのこった腕を伸ばした。

 しかし、ドラゴンの前を一瞬何かが通過し、残った腕も大量の血しぶきをあげながら切断された。

 そして次の瞬間、ドラゴンの視界がぶれたかと思うと、さけぶこともなく絶命ぜつめいした。



「これで2匹目ですか」



 スーの前に両断されたドラゴンの頭が転がっていた。

 スーは特別な能力を持っている。

 ドラゴンを見ると自身の身体能力が無限にふくれあがる『竜殺しドラゴンスレイヤー』と呼ばれている。

 この状態のスーに勝てる者は1人もいない。

 スーは転がったドラゴンの頭には目もくれなかった。



「あと6匹もこの調子で倒していきましょうッ!」



 スーはものすごいスピードで次のドラゴンに向かっていったのだった。

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