第13話 ドラゴンスレイヤー2

 ティアラがドラゴンにやられたせいで、キリアを守る結界がなくなった。

 ドラゴンの放った火球はキリアを大規模に破壊した。

 とびちった瓦礫がれきが国中に飛び散る。瓦礫が落ちた建物はつぶされてしまう。

 侵入しんにゅうしてくる4体のドラゴンにむかって、ティアラはとんでいく。



(もう防御結界は間に合いそうにないわね)

 


 『レヴィアタン』の声に答える代わりに、ティアラが右手にもっていた魔導書まどうしょをまえにつきだすと、とあるページがひらかれ光りだす。



「……『超重力グラビティ』……」



 詠唱すると、ドラゴンの体格ほどの大きさの魔法陣が地面に映し出され、ドラゴンが地面にうちつけられた。

 『超重力グラビティ』は指定した範囲の重力を自由にあやつる魔法。



(4体をおさえるのが限界そうね……)


「……話しかけないで……」



 今、ティアラはドラゴン4体を対象に魔法を使っている。

 一瞬でも気を抜けば、この魔法は破られるだろう。

 ティアラが魔法に集中している間、『レヴィアタン』が忠告した。



(ティアラ、最悪よ。またドラゴンが入ってきたわ。まっすぐこっちに向かってきてる)


「…………」



 ティアラは左手を迫りくるドラゴンにむけると、



「……『超重力グラヴィティ』ッ……」



 迫ってきているドラゴンのスピードが少しだけおちた。

 しかし、4体にさいている魔力のせいで、たいして動きを封じることはできなかった。

 5体目のドラゴンは魔法陣を破壊し、重力から解放される。

 距離をつめられたティアラはそれでも動けなかった。



「ティアラちゃん、ナイス時間かせぎです」



 肉薄にくはくするドラゴンの頭上からスーが攻撃をたたきこんだ。

 大剣がドラゴンのかたい頭を粉砕ふんさいする。



「……ごめん……」



 ティアラは足止めしかできなかったことを謝る。



「なにを言っているのですか、時間をかせいでくれたおかげで、外にいたドラゴンを倒せたのですから。ティアラちゃんは休んでいてください。わたしにあとは任せてくださいッ!」



 スーの攻撃で頭をくだかれたドラゴンはヨロヨロと立ち上がり右の腕をふりあげ、スーにたたきつけた。

 地面に亀裂きれつがはしり、上空からでもわかるほどの巨大なクレーターがたったできてしまった。

 しかし。



「会話中に邪魔じゃまをしてはいけないとしかられたことはないのですか? まったく……、悪い子にはお仕置しおききですよッ」



 たたつぶされたはずなのに、スーは何事もなかったかのようにドラゴンの腕をはらいのけた。

 スーは体勢をくずしたドラゴンの腹にすかさず大剣でりこむ。

 スーの何十倍もあるドラゴンの巨体が、一振りで大きくとばされた。



「……ごめんなさい……もうもたない……」



 そのタイミングでティアラの『超重力グラビティ』の魔法が切れ、4体のドラゴンはスーにおそいかかっていく。

 スーは大剣に魔力をこめ、



「剣よ、我の願いにこたえ、その身を大きくし、敵のことごとくを斬りさけッ、『巨大な剣ギガントスライサー』」



 そうさけぶと、襲いかかるドラゴンの1体の背中から刃渡はわたりが異常なほど大きなやいばが姿をあらわす。

 そのまま4体のドラゴンを一振りで身体を両断した。

 地面にドラゴンの上半身じょうはんしんが落ちていく。

 その中からドラゴンより大きな大剣を持ち上げているスーの姿。



「ふー、これで終わりですかね」



 しかし、



「スーちゃん、うしろよッ!!」



 満身創痍まんしんそういで口が動かないティアラの身体をのっとった『レヴィアタン』が大声をあげ忠告した。

 スーに吹き飛ばされたドラゴンがスーの真後ろから突進してきていた。

 しかし、スーは疲労ひろうを感じさせない声で、



「大丈夫ですッ!」



 魔法で巨大化したままの大剣を持って走りだし、ドラゴンが突進してくるいきおいを利用して頭からその胴体どうたいぷたつにした。

 頭上から大量の血がふりそそぐ中、巨大剣を元に戻したスーが立っていた。



「ふー、今度こそ終わりです。このドラゴンが一番ガッツありましたね。そうだった。ご忠告、ありがとうございます。ティアラちゃん、ではなくてレヴィアタン様」



 ティアラの体格が変わっていることに気付き、スーは呼び方をかえる。



「もう驚かせないでちょうだい」


(……ちょっと……私の身体……)



 脳内にひびく声にためいきをつくレヴィ―。



「勝手に身体を使って、ごめんなさい。すぐに戻るから」



 そう言うと、美しい女性の姿から少女の姿にもどった。

 スーは自分のこしポケットにしまってあった木製のボトルをティアラにさしだす。

 それは先程の戦闘でドラゴンの返り血をあび、かなりよごれていた。



「水分をとってください、ティアラちゃん」


「……ウっ……」



 血塗ちぬられたボトルを見て、ティアラはためらってしまう。



「ダメですよ。疲れているのは分かりますが、水分はとらないといけません!」



 スーの押しに負け、ティアラはボトルをイヤイヤながら受け取った。

 口をつける部分はフタが付いていて綺麗きれいだったが、それ以外は変色したドラゴンの血がこびりついていた。

 目をつぶって、ティアラは一気にのんだ。

 中身は水で、ヒンヤリしていて美味しいはずなのにティアラの気分は悪くなる。



「……気持ち悪い……」


「よくできました。ティアラちゃんは休んでいてください。このドラゴンの死体はわたしたちが処理しょりします」


「……ありがとう……」



 ティアラはその場にひざをついて座りこんだ。

 彼女達の視線の先には、ドラゴンによって滅茶苦茶メチャクチャにされた城下が広がっていた。



「おそらく先程のドラゴンは敵の差し金ですよねー。とんでもない怪物を従えていたものです」



 スーの言葉を受けて、ティアラの脳内で『レヴィアタン』が声を出すが、その声音はいつもの余裕よゆうはなかった。



(戦場はもっと悲惨なことになっていそうね……)

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