第12話 圧倒的な殲滅

 『深緑の樹海』、高い木々におおわれた森。

 その中で、大激戦が繰り広げられていた。

 


「エレインが魔法陣まほうじんを完成させるまで、持ちこたえるぞ!」



 カイが大声で指示を出す。

 森の奥から矢を放つ敵に向けてエレインが魔法を使う準備をしており、カイ達は彼女を守りながら時間稼ぎをしていた。

 


「地上のエルフはミャーに任せるニャッ!」


「私も手伝うッ!」


「助かるニャ、ミーシャ。ミャーは右を片付けるから、左は任せたニャ」



 ミーシャとクロはうなずきあうと、持ち前のスピードでエルフを倒していく。



(敵の動きにれてきたか……。もう、2人のことを心配する必要はなさそうだな)



 カイもエレインの前に立ち、スペアの剣を抜き二刀流のかまえを取る。

 彼女に迫りくる矢を叩き斬っていく。

 その間、エレインは地面にレイピアを突き刺し、地面に魔法陣をえがく。



「兄さん! もう少し前に行ってください!? 魔法陣をんでいます!」

 

「無茶言わないでくれ、これ以上前に行けばエレインを守ることができない!」



 エレインの怒声を、矢をかわすかのように冷静に受け流す。

 かなり高いところから矢を放っているのか、カイが少しでも前に出れば角度と高さ的にエレインに矢が刺さってしまう。



「もしかして、飛行魔法を使えないのですか?」


「エレインと違って魔法には才能がなかったからな……」



 息つく暇のないエルフの攻撃にカイは両手にそれぞれ握られた剣を振りぬいていく。

 すると、



「天をける鳥のごとく、かの者に飛翔ひしょうする力を、『ウィンド・ブーツ』!!」



 カイの足に魔力と風が集まり、身体がちゅうに浮く。

 不意のことだったが、徐々に落ち着いてくる。



「エレイン、せめて魔法をかけるなら一言、ことわってくれ……」


「私は忙しいんです。してもらえただけ感謝してください」



 カイに魔法をかけたのはエレインだった。

 カイの身体は、エレインと矢の間を浮いていた。これで高さや角度を気にせずに剣を振ることができる。

 すると、先頭の馬車で矢を放っていたミネルバが忠告の声を上げる。



「前方から強力な魔力が接近しています! 迎撃げいげきしてください!」



 森の奥から強大な魔力を感じとれる。

 奥から現れた数本の矢はまるで嵐のように激しく渦を巻き、森の木々をなぎ倒していく。



「兄さん、魔法陣が風で消えてしまいそうです! あの攻撃を防ぐことはできませんか!?」



 カイは次の一手を考える。 



(エルフは木を無暗むやみに傷つけることを嫌っているが、それらをなぎ倒してまで攻撃をする、ということは相手にとっても後がないのか。これさえ防げれば……)



 カイは両手に握りしめた剣を背中のさやに納め、前に向かって駆ける。



「全員、自身に魔甲まこうを展開して、離れるんだ!」


「何をするおつもりですか、カイ様!?」


「あの魔力を消しとばす。ミネルバも急いで離れろ。衝撃しょうげきで馬車も飛ばされるから、エレイン達を守ってほしい。魔法陣がもう少しで完成する」



 ミネルバはうなずくとメイドを引き連れて、エレイン達を守るように立ちふさがる。

 カイは両手を前方に出し、何かを握るようなかまえを取り詠唱えいしょうを始めた。



にくしみは限界を超え、我はそれにおどくるう。眼前の敵をほふって、その憎しみを解き放とう、『破滅剣はめつけんルーイナーッ』!!!」



 カイの手が紫の光に包まれ、両手に1本の大剣が現れる。

 黒と紫を基調きちょうとした禍々まがまがしさを持つ。

 カイはありったけの魔力を剣にこめていく。

 すると、紫の光の粒子が剣をおおい、その刀身は大樹にすら届きそうなほど伸びていく。



「はアアアアアアアアアアァァッ!!」



 近くにあった大樹もりながら、矢に直撃する。

 破滅剣の刀身に触れた瞬間、矢がまとっていた魔力が森に霧散むさんしていく。

 『破滅剣ルーイナー』は、れた物を打ち消す。どんな強大な魔力も触れさえすれば、消滅させることができた。

 辺りが静かになる。

 その静寂せいじゃくを破ったのは後ろにいたエレインだった。



「魔法陣が完成しました! 兄さん、急いでその場から離れてください!」


「と言われても、魔力が……」


 

 カイは今ので膨大な魔力を使い立っているのがやっとだった。

 突然、カイは身体が抱きとめられた。

 視線だけ移すと、クロがカイを抱えてエレインの後方まで運んでくれたのだ。



「無茶しすぎニャ。エレイン、もう大丈夫ッ!!」


「感謝します、クロ様」



 エレインは魔法陣形成のために使用したレイピアをさやにしまい、



豊穣ほうじょうめぐみをもたらす水よ、時に万物を飲み込むわざわいとならん、『水神の怒り』!!』



 魔法陣が水色にかがやきだすと、森の奥のほうから激流をまとった竜巻が発生する。

 エルフの悲鳴すらかき消すほどの轟音ごうおんひびく。

 空高く打ち上げられたエルフがカイ達の前に落下してくる。



「す、すみません……。森を破壊してしまいました……」



 エレインの攻撃によって木々があった場所は更地さらちとなってしまった。

 ミネルバは驚きながらも首を振る。



「気にしないでください、エレイン様。地中深くに根っこが残っているので、時間が立てばまたすぐに生えてきます」



 エルフは長寿なので、この『すぐ』というのがどのくらいかは不明だが、エルフ達にとっては気にする程でもないのだろう。

 ミネルバ達が気絶したエルフをしばり上げると、



「カイ様、エレイン様、エルフの長老はこの先にいるはずです。あとの敵は私達メイドがどうにかしますので、馬車の中で休んでいてください」



 その言葉に甘え、カイとエレインは同じ馬車の中で休養きゅうようを取ることにした。 

 が、外の激戦は続き、大して休むことはできなかったのだった。

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