第7話 大規模な復興作業 パート2

 城に戻ると、周囲からは異様な視線を受ける。

 それもそうだろう。

 エドとカイは超巨大なキングボアを外から持って帰ってきたのだから。



「すげえ注目されてるな」


「おい、調理器具の準備は広間にしてあるから急ぐぞ」


「はいはい」



 しばらく1本道を歩くと、広間に着いた。

 カイはそこで城から持ち出した調理器具やら食材やらを広げた。

 カイはイノシシの肉を、綺麗にした剣で一口サイズに切っていき、城からもってきたミルクをもちいてホワイトシチューをつくった。

 それをパンとともに国民に配る。



「これはただでもらっていいのかい?」



 食事をもらった老人がカイに歩み寄ってくる。

 以前、国門の近くで話した白髪の老人だ。



「もちろん。また明日も3食ここでき出しをおこなうつもりだ」



 人々は深く感謝の言葉を口にした。

 しかし、列をつくっているところに複数の男たちがおしよせてくる。

 我が物顔で列をみだしカイの前まで来た。

 キリア国民は彼らを恐れるように離れていく。

 カイはその男達をにらみながらも、落ち着いた声音で言った。



「全員並んでいるから、オマエ達も並んでくれ」


「ああ、なんだ。俺様が誰か知っていてそんな口きいてるのか? ってテメエ、あの時の!?」



 ならず者は以前、子供に小石をぶつけられ斬りかかった際にレオンに返り討ちにあっていた。

 しかし、カイはそのことを覚えていない。



「覚えていない。いいから並んでくれ」


「こ、このクソガキ……」



 ならず者達の先頭に立っていた男がシチューの入ったなべをけりたおした。



(まだ食材も余ってるからもう一度作ることはできるが、このならず者はどうにかしないとな)



 とカイはならず者の先頭に立つ男に近づく。



「ああ、やる気か、テメエ?」



 ならず者は右拳をふりかぶる。

 カイにとってはスローモーションであり、相手が拳を繰り出すまえに、自分の拳を顔面に叩きこむ。

 さらに5発顔面にめりこませる。

 レオンも手加減はしたから、男の鼻の骨が折れた程度で済んだだろう。

 男が倒れ伏すと、他の連中も攻撃しようとする。

 が。



「これ以上は手加減してもらえると思うなよ」



 カイが放った威圧に、ならず者は全員動けなくなった。

 祖父であるガリッタからおそわった技であり、魔力を全身から放出することで相手をひるませることができる。

 一人の男が両足をふるわせながら叫んだ。



「お、覚えてろよ! 今日はこれくらいにしといてやる」


(これくらいって、一方的にやられただけだろ……)



 ならず者たちは最初に倒された男をひきずって逃げていった。

 彼らにけりたおされた鍋を拾う。



「また、作り直さないと……」



 カイの独り言は周囲からあがった歓声に打ち消された。

 中には涙を流す者もいた。

 白髪の老人がワナワナと震えている。



「ま、まさか、君みたいな少年がアイツらを倒してしまうなんて」


「アイツらはなんなんだ?」


「ここらへんで人の食べ物を奪って回っている盗賊で、特に君のたたかっていた男は群を抜いて狂暴きょうぼうだったんだ」


「そうなのか……。また料理、作り直すから待ってもらっていいか?」



 人々はカイになんども感謝しながら、食事を再開した。

 久しぶりの御馳走ごちそうなのだろう。

 あんなに大きかったキングボアは今や骨だけになってしまっていた。

 カイは今後の食料事情に頭を悩ませていたが、暗くしずんでいた国民の顔に光が差したのを見て、気合を入れなおした。

 食事が一通り終わると、白髪の老人が感謝を述べた。



「本当になんと、感謝すればいいか……」


「別に感謝なんていらない。だが、明日からは少し頼みたいことがあるが、いいか?」



 カイは人々に明日の朝に城壁の外に集合してもらいたいと伝えた。

 なかにはしぶった人もいたが、御馳走ごちそうをもらっていたため断りにくかったのか承認してくれた。

 


          ※



 次の日の朝、炊き出しをしたあとに国壁こくへきの外に人を集めた。



「な、なんだこれ?」



 人々は目の前にひろがる光景に驚きを隠せずにいた。

 彼らの前には広大な畑がひろがっていたのだ。

 厳密には、何も植えられていないが。

 彼らを集めた張本人であるカイは、畑を眺めている人々の前に立った。



「ここに集まってもらったのは、この畑の管理をしてほしかったからだ」



 ここらへんは雨が少ないらしいが、近くを流れる川から水をひいてくれば農業ができるようになる。

 カイは集まった人々を2グループに分ける。



「今からお前たちには、ここにある道具を用いて畑をたがやしてもらいたい。残りの人はすこし汚れ仕事になるが、ここまで水をひきたいから水路をってくれ」



 人々はカイが指示をいぶかしく思う。

 しかし、彼らも徐々に作業を進めた。

 はじめからバリバリ働くことはせこけた彼らにはできない。

 カイも毎日炊き出しを行いながら、人々の食料事情も改善されていき、痩せこけていた身体にも筋肉がついてくる者も現れた。



「ヤバいぞッ! じいさんが倒れた! 誰か運ぶの手伝ってくれ」


「もう身体が動かない……。腹がへった……」


「オイッ、耕したのに踏み荒らすんじゃねえよ!」



 それでも初めて農業を1から行うので上記のような問題も起こったが、数か月たちようやく農業を始められるようになった。

 カイはその後も故郷でつちかったった技術を人々に伝えていった。

 かなり過酷かこくだったが、絶望しかなかった人々の顔には達成感が芽生え始めていた。

 


           ※



 今日の活動も終わって、カイは手拭てぬぐいで汗を拭きながら城内に戻ってきた。

 そのとき、ちょうど城内からエドが姿を見せた。



「人をおとすには胃袋をつかむのが一番だっていうが、本当なんだな」



 ここ最近の活動をエドは感心していた。



「で、オマエが王子だって伝えるのは、いつにするんだ?」


「もう伝えた。適当に戦争で忙しくて、今までこっちに手が回らなかったって理由つけて」



 さすがに苦しいうそだったが、国民は理由に深く言及してこなかった。



(短期間だが、そこそこ信頼が得られた結果だろうか?)



 と、カイはここ数か月をかえりみた。



「そうか。でも安心したぜ。オレじゃどうにもできなかったのに、これだけの期間で国民の信頼を得るなんてな」


「まあな。ルイアーナ村でいろいろ学んでおいて正解だったよ。まさかこんな形で使うとは思わなかったけど」



 カイは他にも田畑をつくることと同時に住居を作ることにも専念せんねんした。

 まだ1けんしか建てていないが、この調子だと順調に復興ふっこうが進みそうだ。



「これからは俺が指示しなくても自分たちで生活ができるようになっていくといいな」


「もう少し時間がかかりそうだな」


「そうだな」

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