The Shareef & Bedouin 2ndステージ

konnybee!

Ahead

第1話 Spit it out!

「颯太様おはようございます!」

 うわっ!またか!?

「おはようございます!」


「あっ!颯太様!おはようございます!!」

「おはようございます!」


「颯太様!うちのパーシモンです!どうぞ!」

「パーシモン? あ…ああ。柿ね。ありがとうございます。」


 アメリカ柿か…。食べたことないな…。それよりも、荷物がいっぱいで動けないし…。もう食べられない…。てか、何で隠世にアメリカ柿が?


「颯太さん、おはようございます。いかがなされました?」

「エリーゼ?おはよう!ちょうど良かった!この荷物どうしよう。もう持てないよ…。」



 僕は今、北の大地にある城下町。ストボリにいる。正式名称はストーロボーリと言うらしい。

 今朝は、早くに目を覚ましてしまい、このストボリの街中まちなかを朝の散歩していたわけだけだ。ヤシタのすすめもあっての事だけど。

 なんだかこの街。現世うつしよで言うところの、イタリアにあるストロンボリと言う島があるけど、そこに似ているような気もする。行った事はないけど…。あれ?島だったかな?

 そのストボリをヒューマンの僕が、一人で朝の散歩をしていた訳だ。


 そして僕はここではちょっとした有名人のようでして…。


「まあ!颯太さんすごいですね!」

 僕の周りの荷物を見てエリーゼは微笑んでいる。


「皆さん!颯太さんがこちらにお目見えになられて喜ばしいとは思いますが、これ以上は逆に迷惑になります!私は颯太さんをお城にお連れ致しますので、この品々は後程お城の方へお願い致します!」

 エリーゼはそう言うと、僕を抱っこして飛び立った。


「ちょっと! エリーゼ! 荷物!って言うか恥ずかしいんだけど! お姫様抱っこはやめてって!」

「やめませーん!」

 そう言ってエリーゼは僕をお城へと連れ戻した。




「お帰り! 颯太! どうだった? ストボリは。楽しい街でしょ?」

 ヤシタがニコニコしながら聞いてきた。


「楽しいと言うか…。市場に行ったらさ、食品を扱うお店の人達がさ…。食べてください! と言って、僕に色々とくれるんだけど…。美味しいんだけど…。さすがに食べきれないと言うか…。それでさ…。裏通りに逃げたらさ…。パンを焼いたから食べてください! とか言われて…。本当にお腹がパンク寸前というか…。苦しい……。」


 僕は長椅子に座り、そして横になった。


「さすが颯太だな。早くもモテモテじゃないか!」

 バグエも広間に入ってきた。

「バグエ! おはよう!」

  バグエの起床は7時のようだ。

「おはよう颯太。」


 朝の挨拶をしながら僕を長椅子から起こし、そして隣に座るバグエ。僕はそんなバグエの肩を軽く抱き、額にキスをした。


「あぁ。颯太さん私にも…。」

 エリーゼが僕のところへ来た。


「颯太。アリゼーにも私と同じ事をしてくれないか?」

 バグエ?


「うん…。エリーゼ、おはよう。」

「あぁ…。ありがとうございます!」


「今日は東の遺跡の残党狩りだ。取り敢えず、捕虜の女性達は奇跡的に一人も無惨な仕打ちはされなかったようだな…。」

 バグエが安堵の表情で言う。


「そうだね…。獸化した人間もうつに帰したし、あとはエルフの残党か…。」


 エルフの残党とは、アリゼーやセルフィーまでとはいかないが、それなりに呪文も使えて剣術にも優れた腕前を持つ連中だ。弓ですら、エルフってすごいのに…。

 昨夜のアンチウィンドって弓はすごかったな…。羽音もたてずに、風の呪文の強風の中を的確に来たんだよな…。


「主よ。何か心配事か?」

「うーん。昨日のエルフ強かったな、と思ってさ…。」

「そうだな…。一対一なら問題ないが、何人もいたら確かに厳しいな。」


 僕とフェイレイががそんな話をするなか、乾闥婆かんだっぱ様が広間に入ってきた。


「おはよう皆の衆。」

「カンちゃんおはよー!」

 ヤシタは乾闥婆様と仲良しだ。


「おはよーヤシタ! 今日の朝食はなんだい?」

「焼き柿のトーストとサラダだよ。」


「おお! 素晴らしい! こちらの食事はとてもヘルシーで、しかもギットギトの油まみれでないせいか、私もだいぶ身体が締まってきたよ!」


「本当?」

 そう言ってヤシタは乾闥婆様のお腹を摘まんだ。


「うーん…。少しね…。」

「でも、体重はだいぶ減ったぞ!」

「ふーん…。でも私のお腹は摘まめないよ。ホラホラ! やってみて!」

「こら! 女の子がむやみに肌を見せちゃダメだよ!」

「ブー! カンちゃんは最近、ママンみたいでウザイ…。」

「ガーン…。何かちょっとショック…。」


 乾闥婆様? そういうのは心のなかで言うものですよ。


「さぁさぁみんな! 朝食を頂きに行きましょう!」

「そうだな! 行こうではないか!」

 エリーゼの声に真っ先に反応する乾闥婆かんだっぱ様。乾闥婆様の胃は24時間営業ですね…。


「どうした? 颯太? お前の分も食べちゃうぞ!」

「乾闥婆様。僕は今朝の散歩で色々な人に特産品を頂いてしまったので、朝食は遠慮しようかと思います。料理長のところへ行き、お詫びを入れてきます。」


「颯太はマメだな…。」

 少し不機嫌そうに言うバグエ。


それに対して、乾闥婆様は。

「そうか。なら、颯太の分は私が頂くとしよう! ありがとう颯太!」

「いえいえ…。」



 僕はみんなと食事室に向かった。そして朝の挨拶をした後にコーヒーだけ頂き、料理長のもとへと向かう。



「みなさんおはようございます!」

「颯太様!? おはようございます! いかがなされました?」

 料理長のサレンが僕の所へ来た。


「あー、サレン。言いづらいんだけど、今朝、ストボリの市場いちばとかを散歩していたんだけど…。そこで色々と頂いちゃって…。それで、サレン達が一生懸命作ってくれた朝食を食べられなくなっちゃって…。ごめんね。今朝は遠慮しちゃうけど、これからは気を付けるので気を悪くしないでね…。」

 

 調理室の人達は皆、一様に驚いている。


「そんな事で…。颯太様、気にしないでください…。」


 サレン? 何で泣くの?


「ご…ごめんね! 本当にごめんなさい! みなさんもすみません!」


 うわー!

 やっぱり無理して食べれば良かったな…。


「颯太さん? どうしたの? っていうか何でみんな泣いているのかしら?」

 エリーゼが驚いた顔をして聞いてきた。


「アリゼー様! 私どもは颯太様の優しさに感動してしまい…。」


 へっ? 感動? まっ、まあ良かったかな? 悔し涙とかじゃなかったんだ…。


「うふふ。颯太さんは優しい方ですからね。それよりも颯太さん。乾闥婆が呼んでいましたわ…。」


 エリーゼに言われて僕は乾闥婆様の部屋に向かう事にした。

 その前に…。

「それではみなさん。お仕事、頑張って下さいね。」

 僕の一言にみんながお辞儀をしてくれた。みんな礼儀正しいな。



 そして僕とエリーゼは乾闥婆様の部屋へと向かう。隣を歩くエリーゼは少し不機嫌そうだけど、何でだ…? 僕の方をチラチラ見ているし。


「あの…。颯太さん。」

「はい。なんでしょうか?」

「颯太さんが皆に気を使うのはかまいませんが、ホドホドにしてください。でないと、サレンまで颯太さんの事を…。」

「サレン? サレンがどうしたの?」


「はぁ…。全く…。颯太さんは鈍感というか…。とにかく! ホドホドにしてください!b特に女性にはですよ!」

「うん。気をつけるよ。でも…。僕は最低限の心遣いは持ちたいんだ。」

「そんな事を言って颯太さんは色々な女性を…。」

 小声で言うエリーゼ。


「えっ? 僕が何かした?」

 エリーゼが頬を膨らませて、怒っている表情をした。


「もお…。わかりました。でもホドホドにしてください。さぁ着きました。」


 トントン…。


「颯太です。」

「どうぞぉー!」

 扉を開けたのはヤシタ。


「ヤシタは乾闥婆様と仲がいいね。」

「うん! なんだかお父さんみたいで大好き!」

「アハハ! 我々はほとんどのエルフに嫌われているのにヤシタは不思議な子だな。」

 そんな事を言いながらも、嬉しそうな乾闥婆様。


「颯太よ。今から話すことは二人で話がしたいのだが、アリゼーとヤシタには席を外させるが良いか?」

「はい、わかりました。そう言うことだから、二人とも席をはずしてもらってもいい?」


 腑に落ちない顔をするエリーゼとヤシタ。


「わかりました。颯太さんがおっしゃるのであれば…。行くわよ、ヤシタ!」

「はーい! カンちゃんまたねぇー!」


 部屋を出て行く二人。近くに二人の気配がなくなったのを確認し、乾闥婆様は僕に話をしてきた。


「早速だが、時間を操れる能力を知っているか?」

 それって確か颯太君が持っている能力。

「はい。知り合いの男の子が能力者のようで、その時に知りました。」


「それなんだよ、一瀬いちのせ颯太そうた。夜叉が間違えて、彼に与えてしまった能力だ…。本来、椚田颯太。君に与える能力だったんだ。」


 うわぁ~。神様がそういうミスをするんだ…。


「なんだか…。ものすごく安易なミスですね…。神からの能力って与えてすぐに取り消すとかはできなさそうですし、しかも颯太君はまだ子供だからよけいに無理っぽいな……。」

「それな! 本当それな!」

 話し方が若者になってますよー。


「そこで、颯太には自力でTTRタイムトゥーリピートを覚えてもらいたい。私が来たのはそのためだ。まあ、最低でも1年はかかるから一緒に頑張ろうではないか! そして私はダイエットだ! ワッハッハッハッ!」


 ワッハッハッハッて…。


「最初は何からやれば良いのですか?」

「あらら? 呆れたりしないのか?」

「大丈夫です。しっかりと呆れております。」

「言うようになったな颯太よ。さすがは王のうつわだな!」

「何からやれば良いのですか?」

「ええ!? もうちょっとさあ…。」


 寂しそうな顔をする乾闥婆様。なんだか桑原さんっぽくてめんどくさいな…。仕方がない…。


「ええ! そんなぁ! それでは僕は何を! 何から始めれば良いのですかぁ~~!!」

 僕はアクション付きで思いっきりお芝居をした。


「あっ! やっぱいいや…。」

 だから、なんなんだよ! あんたは桑原か!?


「それではまず、今朝起きてから一番印象に残ったことを思い出しなさい。」

「今です。」

「即答ーーー!!! そうじゃなくて!!!」

「夜叉王様が僕と颯太君を間違えたことが一番印象に残ったことです。」

「そう言うことじゃないの! はぁ…。颯太よ、お前は心が狭いな…。」


 トントン…。

「おや?」

「僕が出ます。…はい。」

 扉を開けると、ケモミミの女の子?


「あれ? もしかしてサレン?」

「はっ、はい。颯太様はこちらに、乾闥婆かんだっぱ王様の所へいらっしゃると聞いたもので…。お取り込み中、大変申し訳ありません。」


「大丈夫だよ。いつもコックさんの帽子を被っているからわからなかったけど、サレンは猫族だったんだね。可愛い耳だね。」


「!? いえ…。あの…。」

 そう言って片手で耳を隠そうとしている。耳を誉めたのはダメだったかな? 右手は後ろにしているけど、何か隠しているみたいだ。


「どうしたの?」

 サレンがなんだかモジモジしている。


「乾闥婆様、ちょっと席を外します。」

 僕はそう言って、廊下に出て扉を閉めた。


「どうしたの? 何か悩みでもあるのかな?」

 サレンは僕に見えないように後ろに隠していた、小さなバスケットを出した。


「えっと…。お昼までに、お腹がすいてしまったら大変かと思い…。軽食をお作り致しました…。」


「ええ!? ありがとう! あっ! でもこれは乾闥婆様に見つかったら食べられちゃうな…。今食べちゃってもいい?」

「えっ? でも、ここは廊下です。」

「いただきまーす!」

「あああ! いけません! 颯太様! ルシエール様に叱られます!」

「えっサレンが? サレンが叱られちゃうの?」

「違います! 颯太様です!」


「うーん。それはそれで恐いな。わかりました。それじゃ後で頂きますね。ありがとうサレン。」

「いっ、いえ…。お口に合うかわかりませんが…。えっと…。失礼致します。」

 サレンは足早に去っていった。


「フェイレイ。」

 僕の影からフワッと現れるフェイレイ。

「主よ。任せろ。」

 そう言ってフェイレイは人の姿になった。そして僕からバスケットを受け取り、再び僕の影へと消えた。


「フェイレイ、食べちゃダメだぞ。」

「私は以外は食わん。」

 (ひかり飯 = ひかりちゃんが作る料理)


 さあて、戻るか…。

 扉を開けると、すぐそこに乾闥婆様。


「乾闥婆様? 盗み聞きですか?」

 僕は少し軽蔑な目で乾闥婆様を見る。


「いやはや…。颯太には隠し事はできないな…。」

 両手を天に向けて、ヤレヤレ…と、格好をつけて言っているけど、どうせお弁当が気になっているんだろうな…。


「それで? なぜ盗み聞きを?」

「そんな事はしておらん! ただ…。いや、何でもない…。さぁ続きだ! 今朝起きてから一番印象に残ったことを思い出しなさい。」


 やっぱりサレンのお弁当が気になるか…。


「そのあとは? 何をすれば良いでしょうか?」

「そこに行くのじゃ!」


 は? 行けるかっつーの!


「わかりました、やってみます。」

 僕は先程のサレンとの会話を思い出した。


 サレンの話し方。

 動き。

 すごく緊張しているみたいだった。

 それでいて照れたような…。

 ああ…。

 耳を隠そうとしたのは恥ずかしかったのかな。

 僕がバスケットを受け取った時、嬉しそうだった。

 小走りで調理室の方へ向かって行ったな。

 よし!

 調理室の前へ…。

 行こう!

 意識を集中して…。


 …うわっ!

 気持ち悪っ!

 天地が逆転するような感覚。

 …?

 サレン?

 一瞬だけど調理室前にいる!?


「ぐぅわっっ!」

 またもや天地が逆転するような感覚が襲う。

 僕は立っていられずに膝をついた。

 朝食を食べていたらきっと…。


「そっ、颯太? お前まさか!?」

 乾闥婆様が驚いている。


「気持ち悪い…。なんだかジェットコースターのフワッてなったような…。」


「なんなんだ!? 何か見えたか?」


「えっと…。調理室の前…。さっき、サレンが向かったところ……かな…。」

「おいおい。私のダイエットはどうなる? そんなに早く習得されては困るな…。」


 はっ? 何を言っているの? そんなに嫌だったらここにいればいいじゃん!


「乾闥婆様。あとは自分でやってみます。最初は1~2分前に戻る練習から始めてみます。ありがとうございました。」

「あ、ああ…。あまり無理はするなよ。」

「はい。それでは失礼致します。」


 僕がTTRを覚えるのがそんなに嫌か? というよりも、相当メタさんを嫌がっているな。そして僕が乾闥婆様の部屋の扉を開けると、サレンが立っていた。


「ん? どうしたの? お弁当なら無事だよ。フェイレイに預けているから。」

 僕は笑顔で言ったが、サレンは驚いた表情だ。


「あの…。先ほど、調理室の前で颯太様がいて…。でもすぐに消えて…。」


 あっ! ヤバ…。


「ゴメン! 驚かせるつもりはなかったんだ。えっと…。ちょっと、実験というか…。とにかく、ごめんね。これからは人のいないところでやるから。さぁ、行こうか。調理室に行くんでしょ? 途中まで一緒に行こう。」

「そんな! 颯太様と一緒になんて…。」


 ああ…。そうか…。

 僕は先に歩いた。なんとなくはわかっていたけど、身分の差と言うか…。格差と言うか、これは想像以上にカースト化されているな…。

 後で調べるか…。


「それじゃ、お昼ご飯楽しみにしているね。みなさんにも宜しくお伝えください。」


 僕はそう言って自室へ向かった。振り返るとサレンは頭を下げたままだ。やっぱり…。DVとか無ければいいけど…。エルフの討伐が終わったら街の方も調べてみるか…。



 サレンと別れ、僕は自室へ入る。すると、なんという事でしょう! 部屋が綺麗に整理整頓されている!

「何これ? 誰? 誰がやったの?」

「主よ。こういう事は全てメイドの仕事だ。主がやることではない。」

 フェイレイが人の姿で言う。


「フェイレイ。君がそういう事を今の姿の時に言うと、物凄く勘に触るな。」

「主よ。それがカーストの始まりだ。見た目で自分よりも下の者に偉そうに言われると、嫌な気分になるものだ。」

「そうか…。申し訳ない…。フェイレイ。」

 僕はフェイレイを抱き締めてあげた。


「主よ。気にしなくてもよい。私は主の事が大好きだからな。主が私の事を嫌いになっても、私は主を嫌うことはない。」

「ありがとう。それじゃ一緒にサレンのお弁当を食べるかい?」

「主よ。先ほども言ったが、私は以外は食わん。」


「アハハ! そうだったな! あとさ。今みたいな時は最後に、ワン! にしたら? 絶対イケてるよ。」


「ひかり飯以外はワン!!」

「アハハハハハ!! ヤバイ! ウケる!」

「食ワン!!」

「ギャハハハハハハハ!!!」

「食ワン!!」

「もぉヤメテ! マジで! ギャハハハ!!」


 トントン…。

「颯太様!?」

  トントン…。

「颯太様? どうなされました?」


 つい、大爆笑してしまい。驚いたメイドが来てしまった。

 扉を開けると、メイドが立っている。

「すみません。大声を出してしまって。フェイレイが笑わせるもので…。」

「そうでしたか。それでは何かご用がありましたらお呼び下さい。」


 メイドは丁寧にお辞儀をしている。たぶん僕が扉を閉めないと動けないのだろう…。


「あの。あなたは僕の専属の方ですか?」

「はい。クオンと申します。」

「部屋を綺麗にしてくれてありがとう。クオンは整理整頓が上手だね。これからはなるべく散らかさないようにするね。」

「いえ! とんでも御座いません!」

 クオンは両手を左右に振りながら、全身で驚いている。


「あと、騒がないようにもします。気を使わせちゃってごめんね。それじゃ。」

 僕はそう言ってドアを閉めた。


「主はそうやって、女子のハートをつかむのだな。」

「はっ? 何それ?」

「自覚なしか…。今朝のバグエと、アリゼーの気持ちがわかる気がする。」

「すまないが、何を言っているのかわからないな。」

「主はわからなくても良いことだ。私の目線ではとても楽しいのでな。そんな事よりも、早く食べてTTRだ。」




 2時間後…。


「主よ。凄いな。これならエルフとの戦闘がだいぶ有利になる。」

「そうだね。ねえフェイレイ、ちょっと中庭に行って模擬戦を頼みたいんだけど。」

「主よ。あなたが相手なら久しぶりに私も本気で行くワン!」

「今のは面白くないな。」



 僕たちは部屋を出て、中庭に向かった。途中、すれ違う執事やメイドは僕達に頭を下げる。なんだか気が引ける思いだ。

 そして、中庭に到着した。


「こんにちは。」

 中庭の手入れをしていた造園士達に挨拶をした。


「颯太様! こんにちは!」

「仕事中にごめんね。広場の方を使ってもいいかな?」


 耳の長い男性の造園士。この人はエルフかな? ファイルのような物を脇に抱えて、ケモミミの女性と話し合いをしていたようだ。


「はい! 大丈夫でございます!」

「ありがとう。良かったら、お名前を聞いても宜しいですか?」

「すっ、すみません! 申し遅れました。私、庭の管理業務を担当しております。シズと言います。」

 シズと名乗るエルフは深々と頭を下げてきた。


「初めましてシズ。これから宜しくね。」

「颯太様! 私はグリーンキーパーをしております、エメリアと申します。」

「初めましてエメリア。これから宜しくね。仕事中の手を止めてしまってすみませんでした。それでは広場を使わせて頂きます。」


 僕達は庭の入り口から20m程先にある広場に向かった。



「よしフェイレイ。久しぶりの対戦だな! 行くぞ!」

「主よ。望むところだ!」

「それじゃ先攻させてもらうぞ!」

 そう言って、僕はフェイレイに特攻を仕掛ける。


 フェイレイはいつの間にかチャーチグリムになっていた。


 僕の膝蹴りをスルリと避ける。

 身体をくねらせ長い尻尾を僕の足に絡ませてきた。

 下半身の身動きが取れなくなった僕のお腹に、フェイレイは前足の爪を立ててくる。

 そして突然消える僕に、フェイレイは素早く身構える。

 消えたと言っても、Time to repeat. TTRを使い、何秒か前に移動しただけだが…。

 そして僕はフェイレイの不意を付き、何処からともなく、脇腹に膝蹴りを命中させた。

 クルクルと回転したフェイレイは空中で止まる。


「ちょっと待った! フェイレイ、飛べるのかよ!」

 空中で臨戦態勢をとるフェイレイは嘲笑うかのように言う。


「残念ながらチャーチグリムは何でもアリだ!」

 僕は悔しがるフリをして、また消える。

 気配を感じ取ったフェイレイは背後に向かって、尻尾をムチのようにしならせた。

 しかし尻尾は空を斬る。気配を感じた場所をフェイクにした僕の優勢。


「残念でした。こっちだよぉ!」


 縦に回転をしたフェイレイは、僕に向かって風の魔法を打ち込んできた。


 僕は風の魔法を空中で受けたように見せかけ、マジックシールドで風を受け流す。その風のおかげで僕のスピードが上がる。

 僕は進行方向の何ヵ所かに弱い風の魔法を発動した。

 その風を使い、左右に蛇行しながらフェイレイに向かう。

 戸惑うフェイレイ。

 そしてフェイレイは自分の前方にシールドを張り、詠唱えいしょうを始めた。おそらく火の魔法だな。


 フェイレイの背後が燃え上がってきた。


「ヤバ! ここ庭じゃん! ちょっとフェイレイ! ストップ! 燃えちゃうって!!」


 ハッ! とするフェイレイ。

「危なかった…。つい…。」

 珍しく息のあらいフェイレイが、落ち着きを取り戻した。


「お城の中はダメだね。次からはエリーゼの山でやらしてもらおうか。」

「主よ。私ではもう貴方に反応する事もできない。それに追いつけない。」

 フェイレイは少し淋しそうに言った。


「何を言っているんだよ。追い付けなかったら僕の影に入ればいいじゃん? そして僕の背中を守ってよ。それは君にしかできないんだからさ。」


 僕はそう言って芝生に寝転んだ。

 あれ?

 何だか周りが静か過ぎる?

 今の僕とフェイレイの模擬戦で、造園士達は驚いて動けなくなっている。


 そんな中、フェイレイが僕のところへ来た。

「主よ…。貴方が私の主で良かった。」

 フェイレイはそう言いながら僕のお腹に顔を乗せてくる。


「アハハ。フェイレイ、くすぐったいって! ちょっと待って! みんなが怖がっちゃっている! 謝らなきゃ!」

 僕の言葉に反応したフェイレイは、僕のおへそ辺りで、アゴを振るわせてくすぐってきた。


「アハハハハハ! マジでヤメテ! アハハハハハ!! ヤバイ! アハハハハハ!!」


「ずいぶん楽しそうね。」

「ん? バグエ? あれ? 会議じゃなかったの?」

 バグエは首を横に振りながら言う。


「あのね、君たち。会議中に窓から見える風景が、ヒューマンとチャーチグリムのガチバトルじゃ会議なんかできないの! もう、母様もあきれていたわ…。」

「アハハハハハ。今は止めろってフェイレイ! あっ……。」

 ヤバ…。芝生に寝転んだ僕とフェイレイをバグエは仁王立ちで睨んでいる。


「ごめんなさい。バグエ。」

「まったく…。颯太は…。」

「次からはエリーゼの山でやらせてもうよ。」

「あそこもダメ! 貴重な資源がたくさんあるのよ!」

「そうなんだ。とにかくゴメン。」

 僕は立ち上がり、バグエの肩を抱いて歩きだした。


「ルシエールさん、怒っている?」

 僕達は庭の入り口に向かって歩いていく。造園士達は仕事の手を止め、僕とバグエに頭を下げている。


「先ほども言ったが、呆れているだけだ。」

「あちゃ~。」

 一応ルシエールさんに謝っておこう…。

「あっ、シズ!」

「ははははい!」

 シズは先程の模擬戦の驚きと緊張のあまり声が裏返っている。


「庭で暴れちゃってごめんね。これからはお城の外…。と言うよりも、街の外でやるね。」

「いえ! とんでも御座いません!」

 シズは相変わらず緊張している。


「みなさんも驚かせてすみませんでしたーー!」

 僕が他の造園士達に大きな声で挨拶をすると、みんなもお辞儀をしてきた。

 みんな礼儀正しいな。


「ねぇ、バグエ。この国は身分の差と言うか、格差はけっこうあるの?」

「うーん。多少はあるかな。何故?」

「バグエは生まれた時からだもんね。僕はこんな対応は初めてだからさ。なれないと言うか…。」

「それは颯太が気にすることではない。この国を守っているのは母様と私達だ。勿論、その中には颯太も入っている。」

「その事で少し話があるんだ。今すぐじゃなくて構わないんだけど。あとさ、僕は明日の夜には現世うつしよに帰るので、討伐後に街を散策してみようと思うんだ。」

「何で? 颯太が?」

「自分の眼で確かめたい事があってさ。できればバグエも一緒に来てもらいたい。この国の発展ために。まずはストボリの街から始めたい。」


 バグエは少し不安そうな顔をしていた。







 夕刻、東の遺跡入り口…。


 今日の討伐メンバーは3人。 僕とセルフィー、シレーヌだ。

 僕達は入り口手前、50m位の位置にいた。


「お出迎えされているな。」

 セルフィーが呆れたように言う。


「本当だ。」

 殺る気満々だな…。僕はTTRを使い、遺跡入り口の上、崖の裏側にいるエルフの元へ移動した。


「そんなに殺気を丸出しにしたら僕でなくてもバレちゃうよ。」

 僕はそう言って、エルフが構える張積めた弓の張を切った。


 ビーン!という音を立てて切れる張。

 驚く一人目のエルフ。

「きゃ!」

 僕はエルフの両手を後ろで縛り上げた。



「まずは一人目。暴れたりしないでね。そうすれば酷いことはしないよ。てか、僕は暴れられても酷いことはしないけどね。」

 僕は怖がらせないように笑顔で言ったが、逆にその笑顔がエルフを恐怖に落とし入れたようだ。


「殺さないで…。」

 エルフは震えている。


 僕はこのエルフの心を探った。

 ふむふむ…。残りは2人か。ん? なんだ、演技か…。


「アハハ。演技が上手だね。ごめんね、少し寝ていてね。」


 そう言って僕はエルフにスリープの魔法をかけた。寝かせたエルフをその場に残し、遺跡の入り口に降りる。


「セルフィー、OKだよ。」

 僕のいる、遺跡の入り口に来る二人。


「小僧凄いな! なんだ今のは?」

 シレーヌは興味津々で聞いてくる。


「えへへ。秘密。」

「何だよ~! 教えろよ~!」

 マンバギャルの格好でメイクまでしているシレーヌ…。何故かシレーヌに話しかけられるとイラつくな…。まだセイレーンの時の方が可愛いげがあった気がする。


「あー。おばちゃんのぶりっ子は正直キモいッス…。」

「何だと! キサマ!」

「確かにキモいな。」

 セルフィーはうなずきながら言う。


「何だよ! セルフィーまで! もぉ知らん! 私は一人で別行動だ!」

 そう言ってシレーヌは1人で遺跡に入っていった。


「ねえセルフィー。エルフは歳をとるとあんな風になっちゃうの? バグエもエルフの血が入っているから、ああなったら嫌だな…。」

「アハハハハハ! 心配するな。シレーヌが特別なだけだ。さぁ行くぞ。たぶんシレーヌは今頃、頭に矢でも刺さっているんじゃないか?」

「確かに。」


 僕達は笑いながら遺跡に入って行った。





 そして最初の部屋。

 当然のように床に倒れているシレーヌ。

「ここにはもう、誰もいないみたいだねー。」

 セルフィーはシレーヌを視界に入れないように、周りの気配を探っているようだ。

「何だか最後の部屋まで行かないとダメなような予感がするな…。」

 僕とセルフィーは次の部屋へ向かった。


「そりゃないだろ! 倒れている娘がいたら大丈夫? とかだろ! 倒れているんだぞ!? おい!」

 僕達はシレーヌの言葉など気にせずに、次の部屋へ向かった。


「おーーーい!! 無視するな!!」



 第2層、3層と過ぎ、結局最後の部屋の入り口に到着した。


「全く…。何でアンデッドが出てくるんだ? 魔方陣でもあるんじゃないか?」

 シレーヌ…。マジでうるさい。お前がずうっと喋っているから不意討ちをされるんだよ!

 でも、確かに前回来たときにはアンデッドはいなかったな。各部屋に50前後いたから、魔方陣からアンデッドを呼び出しているのは確実だな。


「さぁ最後の部屋だ。おそらく魔方陣がある。そこから今までのアンデッドが流れてきている。たぶん最後のアンデッドはその親分だな。まあ、向こうに戦う気があったらの話だが…。」


 セルフィー。何か隠しているな…。


 そして僕達は最下層の部屋へ入った。


「セルフィー! 寝返ったか!」

 僕達が部屋へ入ると1人のエルフが叫んだ。


「寝返った訳ではない。元のさやに修まっただけだ。」

「言いようだな…。」

 エルフのリーダーは腕組をして少し苛立っているようだ。


「なあセラ。こんな事は止めろ。ルキエラ様もお戻りになられた。ルシエール様も以前の事は忘れると言っておられる。それにアリゼーは先手を打ってくれているぞ。」


 セルフィーはセラに落ち着かせるように言う。あの人はセラさんね…。…で、エリーゼが先手って何の事だ? それにセラはセルフィーと言うよりも、北の大地との間に深い因縁がありそうだな…。


「今さら戻ってどうする! 城で配膳係でもやらされるのか? それとも窓拭きか? 庭の清掃か? 私達みたいな下民には生きづらい世の中だ! 足蹴にされ…。目付きが悪いと言われ殴られ…。ミノンの脇腹を見たことがあるか! 熱した鉄をあてられ、泣き叫んで! 誰か助けてくれたか! 自分の人生にさげすんでも、どうせ明日はきてしまうんだ…。そして目が覚めると同じことの繰り返しだ…。」


「セラ…。」

 苦虫を噛み潰したような顔をするセルフィー。


「おいセルフィー! 今、セラが言った話は聞き捨てならないな! どう言うことだ!? 詳しく話してくれ!」


 僕はセルフィーに言い寄る。自分でも全身が熱くなっていくのがわかる。


「おいヒューマン。お前、もしかしてシヴァの子か?」


 セラが焦るように問いかけてきた。どうやらセラ達はこちらと戦う気は無さそうだな。


「加護を頂いている。そんな事よりもセルフィー。今でも続いているのか?」

「それを聞いてどうする?」

「決まっているだろ!」

「颯太。もう一度聞く。詳しい話を聞いてどうする!」

 セルフィーは声を荒げた。


「僕のやり方で粛清しゅくせいだ。」

「キサマに何ができる! ナメタくちを叩くな!!」

 セラは怒りをあらわにした。


「セラ…。君はここに居てくれ。1週間以内に何とかする。ルシエールさんの部隊もここには来させない。あと、ミノンというのは上で寝ている娘か?」


「寝ている? どう言うことだ? 魔法耐性を付与したはずだぞ!」

「耐性呪文なんて僕には無意味だよ。」

 セラの顔つきが変わっていった。


「妹は無事なのか?」

「セラの妹だったのか? フェイレイ、そろそろ日が暮れる。

 ミノンが風邪をひいちゃうから手縄をほどいてから連れてきてあげてくれ。」


 僕の影で気配を消していたフェイレイ。

 そんなフェイレイが突然僕の影から現れたのを見てセラ達は愕然とする。


「主よ。面白くなってきたな。丁重に連れてくる。」

 そう言ってフェイレイは去った。


「チャーチグリムを使い魔って…。お前はメタの一族か?」

 驚いた! セラはメタさんを知っているのか?


「セラ、君はメタさんに会ったことがあるのか?」

「ああ。ヒューマンと友人になったのは彼女が初めてだ。」

 何となくだけど、セラとメタさんは気が合いそうだな…。

 

「メタさんは僕の先祖みたいなものだ。そんな事よりもセラ。メタさんを知っている君は僕と同い年位に見えるけど、何歳なんだ? 言いたくなかったら構わないけど…。」

「女に年齢を聞くのは失礼だぞ!」

 セラは少し顔を赤らめた。


「あと、隣にいる女性は?」

「彼女はウルスラだ。私と同じ思想を持っている。」

 ウルスラと名乗るエルフは腰に手をあてている。相変わらず僕には威嚇した目付きだ。



「初めましてウルスラ。」

 返事もなしか…。


「ところでセルフィー。ドメスティックバイオレンスは今でも続いているのか?」

 セルフィーはうなずいた。


「それは男女関係なくか?」

「男女の区別など関係ない…。関係あるのは貧富の差だけだ。」

「貧富の差ね…。ところでセラ。君達はハイエルフだろ? 軍と言うか自警団とかは無いのかい? 君達の腕なら、だと思うんだけど。」


 僕はセラに当然の事を聞いた。だが、答えたのはセルフィー。

「確かに、セラたちはハイクラスのエルフだ。だが、貧富の差なんだよ。」

 セルフィーは諦めたように言う。


「私の場合はヤシエッタがバグエに気に入られてな。それで、ハイクラスの力を持つ私に東の滝を任された。あと…。話の流れで言わせてもらうが、ヤシエッタの父親はわからん。私もDVを受けた1人だ…。」



「なんて事を…。ルシエールさんも知っているのか?」


 セルフィーは言いづらそうに言う。

「ああ…。」



「なんて事だ。ルシエールさん…。なんて事だ! こんな事あっちゃいけない!!」

 そんな中、フェイレイが戻ってきた。


「主よ。落ち着け。」

「落ち着けるか!」

「主よ。今は待ってくれ。帰ってアリゼーに相談しろ。あいつはそのために人間界でお店をやっていたんだろう…。」


「フェイレイ、どう言うことだ?」

「今までの話を聞いて、おぼろ気だが繋がってきた。主も落ち着いて考えてくれ。この件は以前もメタが何とかしようとしていたんだ。だが、あいつは…。メタは善悪の区別を上手く出来ない。主よ。あなたはメタとは違う。お願いだ。落ち着いて考えてくれ。」


 僕は何とも言えない気持ちになった…。


「おい! ヒューマン! さっきはよくもやってくれたな!」

 ミノンが、セラの後ろに隠れながら僕を怒鳴り付けてきた。おそらくシレーヌ系キャラのエルフみたいだな。嫌だな…。


「ミノン。暴れなければ僕は何もしない。さっきも言ったはずだ。できれば大声も出さないでもらえると助かるかな?」


「偉そうに! バーカ! バーカバーカバーカ!!」


 バシン!

「ミノン!」

 セラがミノンを叩いた。


「アハハハハハ! 叩かれてやんの! バカミノン!」


 シレーヌ…。お前は話に混ざら無いでくれ…。


「バカって言ったら、言った方もバカだ! シレーヌのバーカバーカバーカ!!」


 ミノン? もしかしてシレーヌと同等のバカ?


「お前が最初に言ったからお前の方がバカだ! バーカバーカバーカバーカ!! イエイ! 私の方が1回多い~!!!」


「キャー! バーカバーカバーカバーカバーカバカバカバカ!!!」


「「サイレス。」」


 セルフィーはシレーヌに、セラはミノンに、うるさいバカ女達にめがけ、呪文をかけた。


「「少し黙れ…。」」

 セルフィーとセラはお互いに声を揃え、頭を抱えた。

 そんな中、僕はフェイレイに聞く。


「でフェイレイ。エリーゼと、この事は関係あるのか?」

「シレーヌとミノンが低脳ということか? 主よ。」


「DVだ! フェイレイ! 今は冗談はやめてくれ…。」

「主よ。大声でイヤらしいビデオの事を…。」

「それはAV! ちなみに今はセクシービデオだ! 僕が言っているのは…。」


「「ドメスティックバイオレンスだ!!」」

 フェイレイは僕とユニゾンした。


「主よ。落ち着いてきたか?」

「ああ。すまなかった…。帰ってエリーゼに相談してみる。それとセラ。先ほど言った、1週間と言うのは無理そうだ。ここ以外に身を隠す場所はあるのか?」


「無い…。」

 うわ…。即答かよ…。困ったな…。現世の僕の部屋に来てもらうか? でも、バレたらヤバイしな…。


「颯太ぁん!」

 僕は後ろから突然抱きつかれた!?


「ちょ? ルキエラ? 重いって!」



「セラ。私と共に来い。」

「ルキエラ…。偉そうに言ってないで降りて…。」


「ルキエラ様!?」

 エルフ達は驚いている。


「会いたかった颯太ぁん!」

 僕の背中にガッチリとしがみつくルキエラ。マヂで重い…。


「主から離れろ! ルキエラ!!」

 ルキエラを怒鳴り付けるフェイレイ。


 ルキエラにひざまづき、頭を下げるセラ、ミノン、ウルスラ。そして、セルフィーとシレーヌ。


「ルキエラ、僕も会いたかった…。どこに…いたの?」

「本当? 颯太ぁ! 嬉しい!!」

「あの…。苦しいのでそろそろ降りて…。ルキエラ…。」

「ハァイ!」

 苦しかった……。


「…それじゃセラ達を宜しくね。ルキエラなら…安心だね! なんてたって…僕を…殺ろうとしたぐらい強いからね!」

「キャー!! それはΝύξ,ニュクスでしょ!! 私は颯太にそんな事しない!!」

「冗談だって…。それじゃ城に帰ったら…あとの事はルキエラに任せたと伝えておくよ。」

「うん。そうして颯太。」

 いちいちくっついて来ないで…。


「それじゃ僕達は帰るね。」

「あ~ん! 颯太待って~! もうちょっとだけ!」

 ルキエラは僕に抱きついてきた…。何だか寒気がするんだけど…。


「ルキエラ。僕はこの世界を変えようと思うんだ。」

「颯太ならできるよ…。でも、ルシエールは頑固だからね。颯太だけで考えないで…。アリゼーだけじゃないの。私も颯太の見方だよ。だから安心して…。」


「ルキエラ…。ありがとう、心強いよ。大好きだよ、ルキエラ。」

「颯太は嘘がヘタだね…。でも、そう言ってくれると嘘でも嬉しい…。それじゃまた会いに来る…。」

 そう言ってルキエラはセラ達を連れてどこかへ消えて行った。


「ルキエラ様…。あんなキャラだったか?」

 呆然とするセルフィー…。


「颯太パワースゲーな…。」

 相変わらずの語彙力のシレーヌ…。


「さあ! 帰ろう!」

 僕達は遺跡を後にする……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る