episode 3 ーお泊まりと覚醒ー
私の家から一番近いコンビニを教えて五十嵐が乗るタクシーを待った。
数分後到着した奴はコンビニでお泊りセットを迷いなく購入する。かなり慣れている。
タオルまで買おうとしていたので、貸すよ?と言ったらいつもタオルも買ってるからと言われてしまった。
泊まるたびに下着やらTシャツやら、さらにはタオルまで一式買ってたらとんでもないことになるじゃないか。
そう思ってたのが顔に出てたらしく、「使い捨て。」とお金を払いながら言われた。
少なくとも使い捨てにするような生地じゃないし、金額でもない。
でも五十嵐が着ている一見すると普通のTシャツだが、よくよく見るとかなり有名なブランドのロゴが入ったそれを見ると言う気が失せた。
「どういう生活してんの…」
聞こえないように小さく呟いたのに、馬鹿にしたような笑みを向けられた。
「(性格悪そうな笑い方)」
大人しくアパートまで案内してドアの前で待たせ、軽く中を整理してから招き入れた。
******
部屋に入った五十嵐は『綺麗じゃん。』と呟いた。
「テーブルの上とかぐちゃぐちゃでしょ。」
『いや、こんなに床に物がない家は久しぶり。』
友達の家はともかく、先輩の家はどんだけ汚いんだ。仮にも女だろ。
仕事が忙しすぎて片付ける暇なんてないのか?
『あの人達結構ガサツだから。僕が泊まっても下着とかも普通に干したままだし、朝は僕がシャツにアイロンかけてた。』
なんだそれは。お前は彼氏か。
でも噂で聞いた、奴が泊まったであろう家の主のことを思い出すと想像できなくもない。
サバサバしていて豪快で誰にでも分け隔てない先輩達なのだが、私生活もそのまんまなのかもしれない。
『アイロンがけは一応泊めてもらったお礼にね。』
少し目を細めて言った五十嵐は何を考えているのか全く分からなかった。
「じゃあ泊めたお礼期待しとく。」
そんなこと微塵も期待してないが、お風呂の電気をつけながら言う。
軽く中の説明をして五十嵐を先にお風呂にいれた。
その間にしまっていたブランケットを出しておく。
聞こえてくるシャワーの音に少し憂鬱になった。
気心知れた仲でもない男を家に招き入れたことに対してもう後悔しはじめていた。
******
五十嵐と入れ替わりでお風呂に入って、いつものように下着姿のまま部屋に入ろうとして踏みとどまる。
「(そっか。五十嵐がいるんだった。めんどくさい。)」
脱衣所に戻ってスウェットを着て部屋に入る。
五十嵐は床に座りブランケットを膝にかけ、こっちを見ていた。
じっと見てくる視線が痛い。
「なに?」
『すっぴん、全然変わらないんだなと思って。』
「マツエクつけてるからね。」
別に自分の顔に自信があるわけじゃないのでこれぐらいはしている。
何よりマツエクをするとメイクの時間がかなり短くなる。
朝はご飯を食べる時間があれば寝たいと思う私は、化粧になんか時間を使いたくない。
急いでるときは日焼け止めだけ塗って出勤するレベルだ。
女としてどうかとは思うが、化粧をとったら別人になるよりはマシだと思う。
もう興味を無くした様子の五十嵐は、床にひいてあるラグの上に寝転がりブランケットを被った。
「ちゃんと床で寝るんだね。」
てっきりベットを使わせろとか言ってくるんじゃないかと思っていた私は拍子抜けした。
『彼氏、いるんでしょ。』
家に泊まるのはOKでそこはだめなのか。五十嵐の線引きはよく分からない。
ベットで寝たいと言われても困る私は「おやすみ。」とだけ言って電気を消した。
結局相談ってなんだったの、なんて思いながら。
5分ほど経つと、家に他人がいるというのになぜか眠気が襲ってきた。
電車とか旅館とかで寝れるタイプの人間じゃないのに。
学生時代、とてつもなく眠くなる授業中ですらも一回も寝たことがないのに。
疲れてたんだなと思いながらそのまま思考を手放した。
******
『ねぇ聞いてる?僕と結婚して。』
そして冒頭に戻る。
「…。」
一気に目が覚めた。
「何言ってんの、五十嵐。私彼氏いるんだけど。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます